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本当に美智のせいなのか?

後半から健斗視点が入ります。

次話は健斗視点予定です。

健斗の発言のせいで刺すような視線が健斗へと注がれている。

その中に殺気交じりのようなものも複数感じるので俺は警戒した。

対象者となっている健斗は、自分の発言が原因だと理解しているのかどうかわからないけど居心地が悪そうに体を動かしている。


別に俺達の年で婚約者がいても不思議ではない。

家同士の関係強化などの理由により縁談が結ばれることがあるからだ。まぁ、要するに家のための結婚ということ。

そのため、力関係によっては相手に非があろうがそうやすやすと破棄できない場合が多い。


こんなに生徒が集まっているというのに、健斗のさっきの発言は問題ありすぎだろう。

健斗の彼女である女子生徒の婚約者または、婚約者の友人達だっているかもしれないというのに先程の発言。


さすがに刃物のような視線や氷の世界のように冷たい空気を読んで大人しくするかと思ったが、健斗は俺の想像する斜め上に突き進んでしまう。


「なんで僕がそんな目で見られないといけないわけ!? もう! 美智ちゃんのせいで散々だよ。だから美人って性格悪い!!」

と、追い詰められた彼はまた余計な言葉を放ってしまったのだ。


美智ファンの中でもリーダー格の人々が集まっている上に、ギャラリー層を考えても健斗はこの場ではアウェー。それなのにあろうことか美智のせいにしてしまった。


「あー……」

隣りから絶望的な尊と隼斗のうめき声が重なり合って聞こえる。


「逆切れして人のせいにするパターン。実に幼稚ですね。しかも、美智ちゃんのせいにするなんて」

臣は大きくため息を吐き出した。


「今、ご自分が何をおっしゃったのか理解しているのですか!?」

「発言の訂正を!!」

「美智様を侮辱するなんて許せない!」

健斗が火にガソリンを大量に注いでくれたので、暴動が起きる寸前から暴動が始まってしまうことに。

ハチの巣をつついたように一斉に健斗へと詰め寄り出してしまったため、けが人が出てしまうとマズいと思い制止しようとすれば、突然クスクスという笑い声が響き渡り全員の動きがぴたりと止まってしまった。


「美智……?」

首を傾げて声のした方向へと顔を向ければ、美智が健斗の方へと視線を向けるのが見えた。


「私のせい。それは、本当かしら?」

美智は揺らぐことのない強い意志を持つ黒檀の瞳で健斗を射抜く。

それに健斗はびくりと肩を大きく動かすと、逃げるようにあとずさり始めてしまう。

だが、美智もそうやすやすとは逃がさぬと足を踏み出し、健斗との距離をじわりじわりと縮めていく。

だが、健斗もその差を縮めたくないとばかりに一歩ずつ後退り攻防戦だ。

それに終止符が打たれたのは、ガタリという音を立て健斗の動きが止まった時。健斗が壁に身をぶつけ逃げる不可能になってしまいケリがついた。


「ねぇ、健斗様。それは本当に私のせいなのでしょうか?」

扇子で扇ぎながら美智は近づいていく。

「こ、こっ、来ないで」

俺の妹は呪いの日本人形か何かなのだろうか?

顔を青ざめた健斗はガタガタと震えだし目を閉じて首を左右に降り始める。よくホラー映画でみるような光景だ。


「怖い! しかも、その線香みたいな匂い苦手だしっ!」

「線香? 白檀の扇子のことかしら。使っている線香もありますわよね」

美智が使っている白檀の扇子は、夏休みにオーダーした朱音とお揃いのものでとても気に入っている。朱音も、「いい匂いだね」と言っていたが、健斗は苦手の匂いらしい。


「白檀って魔を払うって言われていますよね」

「健斗は魔か?」

臣の台詞にと突っ込んだ瞬間だった。

「もう、やだっ!!」

という絶叫が聞こえたのは。


「え、健斗!?」

「兄さん!?」

嫌な予感がした。

それが正解とばかりに瞳に映し出されたのは、脱兎の如く逃げ出した健斗の姿だった。





時間は進み、あっという間に昼休み。

俺達はいつものように昼食を食べるために食堂に居た。


ホールでの騒動によって逃げ出した健斗の様子が気になり教室まで何度か様子を見に行こうとしたが、なかなかタイミングが掴めずこの時間になってしまった。

臣からは気にする必要はありませんと言われたが、やはり友達なので気になる。


健斗のことを上部だけ見ていた女の子達は、きっとさざ波のように引き消えていっただろうから気落ちしてないといいが……


――遊びの予定はキャンセル、音信不通だろうなぁ。下手に健斗に関わり美智達の不興をかうのを恐れるだろうし。


美智はこれを狙っていたのだろうか?

最悪の状況の時にこそ本物の人間関係がわかるから、上部だけの付き合いをやめてちゃんと周りを見て考えろと。


「健斗、美智ちゃんの意図に気づくかな?」

テーブルを挟んで座っている尊に尋ねられたので「どうだろうな」と俺は答えた。

気づいて欲しいという思いはあるけど、もし気づいていたとしても自己防衛が働いて気づかぬふりはしそうな気がした。


「兄さん来るかな? 今日は女の子達と食べる予定だったけど……」

「健斗のことを本当に好きな子は残っているはずですが、きっと誰一人健斗の傍には残らないでしょうね。外見だけで中身見ずに選んでいましたから。一回襲撃でもされないとわからないと思っていましたので、今回の件は良い薬となるでしょう」

「あ、噂をすれば兄さんが来たみたい!」

隼斗の言葉に振り向けば、がくりと肩を落とした健斗の姿が。

いつもと違い、覇気がなくずっしりと重苦しい雰囲気を纏っている。


「もーやだ!!」

こちらにやってきた健斗は、叫びながらガタガタと乱雑に一つだけ空いている椅子に座るとテーブルに伏せた。


「大丈夫か?」

「大丈夫じゃないよ。女の子達からは予定キャンセルされちゃうし、暫く会えないって連絡多数。しかも、折り返しても着信拒否とブロック。美智ちゃんのせいだよ」

「それ、美智ちゃんのせいじゃなくて築き上げていた人間関係弱いだけだと思うぞ」

「そうだよ、兄さん」

「美智ちゃんのせいだよ。実際、美智ちゃん信者の視線が痛いもんっ!! ねぇ、なんとかしてよ、匠。妹でしょ? 美智ちゃんのせいで散々なんだからね」

「兄さん、もうすこしボリュームを……」

健斗が大声で話しているせいで、周りに聞こえてしまっているため、周囲の人間から冷え冷えとした視線が集中。

顔を険しくさせている生徒が多く、中にはスマホを手に操作している者もいるので美智の信奉者のネットワークによってあっという間に広がるだろう。


「なぁ、健斗。それ本当に美智のせいか?」

なんだか健斗の言葉を聞いていると、無理やり美智と結びつけている気がする。現実逃避というか、バランスを保っているというか……


「美智ちゃんのせいだよ。だって、美智ちゃんに絡まれるまで普通に楽しい日々だったもん。女の子達も絶対に怖がっているんだよ」

「健斗。お前も本当は薄々気づいているんじゃないか? 発端は美智かもしれないけど、根本的な問題はそこではないことに。健斗の彼女達だって健斗の事が本当に好きで大切ならこんなことくらいでは離れない」

「匠の言う通りだ。俺の好きな子が健斗と同じ立場になったとしても、俺はずっと傍にいたいと思うよ。女子生徒達だけじゃなくて、健斗の付き合い方にも問題があったはずだ」

健斗は唇を噛みしめると、ゆっくりと瞼を伏せる。


「多くの人は離れたかもしれないけど、離れずに傍にいてくれている人もいるだろ? 変わらずに接してくれている人が」

「……いる。委員長。でも、慰めてくれるどころかいつも通り口うるさいんだ。さっきも『これをきっかけに生活態度を改めた方がいいって』とか、『美智様に謝罪しよう。行きにくいなら一緒に行くから』って」

「委員長の言っていることは正しいじゃん。兄さんだって本当は分かっているんでしょう?」

隼斗の問いに対して、健斗は口を結ぶと立ち上がった。勢いよく立ち上がってしまったせいで、椅子がガタっと大きな音を上げて響き渡ってしまい、食堂内を静寂が包み込んだ。


「兄さん?」

「……食欲ないから昼はいらない」

「おい、健斗」

健斗は俺達が静止するのも聞かず、足早に立ち去ってしまった。





(健斗視点)


「美智ちゃんのせいだよ……」

そうぽつりと零した僕の声をすがすがしいまでに晴れ渡った青空に浸透するように広がっていく。一人になりたかったけど、六条院では空き教室類は防犯対策のために鍵がかけられている。そのため、外へとやってきた。

じんわりと肌に纏わりつく不快な空気の中、静かに息を吐き出した。


――兄さんだって本当は分かっているんでしょう?


隼斗に言われたフレーズがぐるぐると頭の中を駆け巡っていく。

もう、どうしていいのかわからない。


可愛い女の子達と楽しく過ごす時間は、家のことも将来のことも考えずに済んだ。匠達と遊んだり女の子と遊んだりしている時間は僕にとって充実して満たされた日々。

それがずっと続くと思っていたのに崩れた。


「どうしよう……」

いざとなった時に、自分一人では立ち上がることは出来ない。

匠達なら家を背負って生きていけるだろう。でも、僕は――?


家から逃げていたのに、いざ家の存在がなくなると僕の存在が消えてしまいかけていく。

これからのことを考えてしまうのが怖くてたまらない中で、震える手で制服のポケットを漁った。取り出したのは、スマホ。

数えきれないくらいに入力され蓄積されている連絡先。

でも、この中で匠達以外にどれくらいの人間が僕の味方になってくれるのだろうか?


適当に電話帳を眺めていけば、とある人物のところで指先の動きが止まる。

それは一緒に住んでいる家族でもなく、離れてくらす家族の連絡先。

いつもはうっとおしいと感じるくらいの孫ラブの愛情表現だけど、今はそれが懐かしく恋しく感じてしまう。

スマホを操作し電話をかければ、数コールで相手が出た。


「もしもし? じーちゃん?」






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