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小梁の狙い

こんばんは。お蔭さまで15日に『妹が可愛いのでコンプレックス持ちになった少女が、御曹司に溺愛されました。』が無事発売いたしました。

予約して下さった方、ご購入して下さった方ありがとうございます!


それに伴い発売日に活動報告にご挨拶と共にSSを掲載していますので、

SSまだの方はお時間がある時にでも。


web本編はホラーな塾編が終わったら、新学期編ラブコメとなります。

禁欲生活から解放されてテンション高めな健斗が戻ってきます。


車から降りれば、私達を照らしてくれている太陽の光が眩しく私は目を細めた。冷房の効いた車内から出たため、襲い掛かってきた蒸し暑い空気に一瞬めまいがする。

天気予報で今年最高気温と予告されたとおり、じめっと肌に纏わりつく不快な温度で一気に喉が渇いてしまう。


――暑い。外でこのぐらいなら、窓の開いてない家の中はもっとだろうなぁ……。


「朱音、どうした?」

その言葉にはっと意識をその声がした前方へと顔を向ければ、先に降りた匠君が立っていた。不安げに眉を下げ、こちらの様子を窺っている。

彼の傍には、開けられた車のドアを支えてくれている運転手さんの姿が。


今日の匠君は、春ノ宮家のパーティーがあったため着物姿。

美智さんもだけど、匠君も着物が似合って素敵だ。そのため、意識が暑さよりもそちらの方へと飛んでしまい、言葉を奏でるのがワンテンポ遅れてしまう。


「う、ううん。ちょっと暑かったからぼーっとしちゃったの。ごめんね、忙しいのにわざわざ送って貰っちゃって……」

あの後、匠君と一緒にホテルへと向かって島田さん達と合流。匠君はさらっと島田さんに事情を話してくれたおかげで、ビュッフェはなんとか大丈夫だった。


私は島田さんや彼女の友達とテーブルが一緒だったし、小梁さんは塾の女の子達に人気があるのであっという間にみんな群がったから。


遊園地で人気のキャラを見つけた時のように、小梁さんはものの数秒で囲まれるという出来事だったけど、そんな中でも矢飼さんはちゃんと小梁さんの隣をキープしていたのはさすがに幼馴染で慣れているんだなぁと思った。


ビュッフェも終わり、私はちゃんと匠君へと連絡し現在に至る。


「いや、パーティーはまだ終わらないから平気だよ。それに俺は朱音の方が心配だし。家族は留守?」

匠君はそう言うと振り返り、長方形の建物――露木家を眺めた。

窓は閉め切られ、駐車場には車が停車していない。お父さんは休日出勤でお母さんは友人、琴音はピアノの練習でそれぞれ外出している。


「うん。でも、お母さんは夕方まで帰ってくるって」

「ってことは一人か」

匠君の表情が曇った。きっと小梁さんのことを気にしているのだろう。


「うちに来るか? 家族は全員パーティーに参加中だけどシロはいるぞ?」

「平気。それに、シロちゃんと遊ぶとうちに帰りたくなくなっちゃうから……」

私の沈んだ声はだんだんと弱くなり、後半は空気に溶けるように消えていく。

五王家に遊びに行くのはすごく楽しいって心の底から思える。

だから、時々帰るのが嫌になってしまう時があるのだ。ずっとあの温かい所に居たいって。

優しい五王家でシロちゃんと遊んだり、匠君達と話したり……時間がこのままで止まってしまえばいいのに。そんな事は不可能なんだけど。


「――だったら、ずっと居ればいいよ。うちに」

「え?」

弾かれたように顔を上げれば、匠君が強い眼差しでこちらを見ていたので、急に緊張感に包まれてしまう。


「俺さ、一つだけ方法を知っているんだ。でも、それは俺だけの問題じゃなくて朱音の気持ちの問題もある」

「私と匠君……? それって――」

どういう意味? と唇を開こうとしたら、何の前触れもなく私達を電子音が切り裂いた。

そのため、私と匠君の視線が自然とその音の発生源である私の鞄へと向く。どうやら聞こえてくる音は電話に設定しているもので、メッセージと違い出るまで続いていく。


「朱音、出てもいいよ」

「大丈夫。掛け直すから。それより、匠君の話の続きの方が……」

「いや、俺もいい。いくら心配だからって、色々詰み上げていかなきゃならない段階を飛ばしてしまっているから。ただ、俺の気持ちは変わらないってこと。前にカフェで伝えたあの時からずっとな。さぁ、家の中に入って。見送るから」

「私が見送るよ?」

「ダメ。小梁という男、何考えているかわからないんだぞ。俺、ちゃんと朱音が家の中に入らないと帰らない」

「小梁さん、この辺りにはいないと思うよ」

ビュッフェの後にカラオケという流れになったけど、私は宿題と家のこともやらなければならないので帰宅。

小梁さんから「家まで送るよ」と言われたけど、女の子達と矢飼さんに引っ張られるように連れて行かれたのでお別れとなった。


「あいつ、本当に何を考えているかわからないんだ。だから、用心しないと。俺だけでは判断が出来ないから父さんにも話をしておく。しかし、一体何を考えているんだが……」

「ごめんね、あの時巻き込んじゃって」

やっぱり匠君は優しいから気にしている。縋るべきじゃなかったのに、あの時は彼の声を聞いてつい堪らず……。今度から気を付けなければ。


「謝ることなんてないよ。朱音のことだから」

笑ってそう告げた匠君。その言葉だけで私は充分だ。

自分の事をちゃんと考えて想ってくれる相手がいるってだけで心強い。おばあちゃんが亡くなってから誰もいなかったから――


「あっ、長々とごめん。パーティー遅れちゃうね。じゃあ、また」

「あぁ、またな。夜、いつものように電話するよ」

「うん、待っている」

私は笑みを零しながら匠君に手を振ると、ここまで乗せてきてくれた運転手さんに会釈をし玄関へと向かった。

扉前で鞄から鍵を取り出し鍵を開ければ、室内からむわっとした蒸し暑い空気が一気に外へと流れ込んでくる。


――部屋中の窓開けて換気した方がいいかも。でも、その前に電話……


扉が閉まる音を背後に聞きながら、さっき電話が鳴っていたので確認するためにスマホを取り出す。そして操作してそこには相手を確認すれば、クラスメイトの佐藤さんの名が表示されていた。


「佐藤さん?」

珍しい相手だったのでつい彼女の名を呟いてしまう。首を傾げつつ、折り返しの電話をすれば2・3コールですぐに繋がった。


「もしもし?」

「もしもし、佐藤さん? ごめんね、さっき電話取れなくて」

『ううん、それは全然。あのさ、突然なんだけど、露木さんって露木琴音ちゃんの姉?』

「……え?」

琴音の名が出てきてしまい、私の胸に黒いものが滲み広がっていき鼓動が忙しなく嫌な音を奏でていく。


「うん、そうだよ」

「そっかー。あのさ、今日、中学の友達と遊んだんだけど、その時にちょっと話をしてみたわけ。塾での小梁の様子を樹里から聞いていたから。そしたら、小梁は中学の時から琴音ちゃんの熱狂的なファンみたい。よく中学まで見に行っていたみたいだよ。噂なんだけど、告白したとか。だから、小梁が露木さんにやたら構うのはもしかしたら妹狙いなのかも……って、ごめんっ!! 露木さんにとっては全く関係なく酷いことだよね。でも、まだ推測だから」

「ううん、平気。前もそういうことがあったから慣れているの。だから、気にしないで」

これでやっと私にもすとんと腑に落ちた。以前、塾で矢飼さんが言っていたことの意味を。


『勘違いしないでよね。唯人はあんたの事なんて好きでもなんでもないんだから! 唯人は絶対に誰にも渡さない。あんたにもあの女にも――』


あの女とは琴音のことだろう。矢飼さんは小梁さんが誰を好きなのか知っているから、あぁいう言葉を私へと投げかけたのだ。

私が勘違いしていると悪いから。


――琴音は小梁さんのことを知っているのだろうか? 


「教えてくれてありがとう、佐藤さん」

「ううん、それは全然。でもさ、小梁のやつそんなに粘着質というか、面倒なやつになっちゃっていたんだね。そういうタイプじゃなかったんんだけどなぁ」

「私、今度塾で直接小梁さんに聞いてみ――」

言葉を遮るように後方の扉がガチャっと開かれ、びくりと体が大きく動いてしまう。玄関を入ってそのまま電話をかけてしまったので、施錠をしていなかったのだ。

頭に小梁さんの姿が浮かび、私は顔を引き攣らせながら振り返れば、「あれ? 鍵開いているって思ったら、お姉ちゃんじゃん」と口を開いている妹の姿があった。

紺色のノースリーブのブラウスとレース素材のひざ下スカートで清楚で夏らしい恰好をしている。手には少し大きめのトートバッグを手にしていた。

どうやらピアノ教室からそのまま真っ直ぐ遊びに行かず、一度うちに帰ってきたようだ。


「ごめん、佐藤さん。私、ちょっと……」

「あっ、こっちこそごめん。突然電話しちゃって。じゃあ、今度また!」

「うん、また。バイバイ」

私はお別れの言葉を告げ電話を切った。


「なんでこんな所で電話してんの? すっごい邪魔なんだけどー」

「ごめん。あの……琴音に聞きたいことがあるの。小梁唯翔さんって知っている?」

「はぁ? 誰、それー? 知らない。っていうか、さっさと退いて。私、忙しいの。暇なお姉ちゃんと違って。汗流して友達と遊びに行くんだから」

ぐっと眉間に皺を寄せた琴音は、私を手で押し退けた。


「でも、琴音に告白したって」

「告白なんて数えきれないぐらいされているから、一々相手の顔なんて覚えているわけないじゃん。それに、私が覚えてないようなレベルの相手なんて出会ってないも等しいし」

「そんな……酷い……」

「あぁ、モテないお姉ちゃんにはわからないもんねー」

琴音は鼻で笑うと、そのまま靴を脱ぎ捨てるようにし、廊下へと足を踏み入れた。

その後ろ姿を見ながら、これ以上琴音にきくことは無理と判断し、言葉をぐっと飲み込んだ。


――やっぱり、明日小梁さんに直接聞いてみるしかないよね。







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