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カウントダウンが聞こえた

こんばんは。ちょっとこちらでも書籍版のお知らせです。

すみません、発売日近いので前書きごちゃっとしていて…


書籍版はおまけの小話付き(匠視点。ラブコメ)です。

試し読みが公式さんのホームページにて掲載されています。(今月刊というところです)

それから、妹ばかり~の書籍版には『ビーズログ文庫応援団』でご購入いただくと店舗特典としてSSペーパーが付きます。

※こちらの店舗特典は七海先生となろう組(?)ということで共通ペーパーです。表と裏という感じで1枚になっています。こちらの見本はビーズログ文庫アリス様のツイッターでツイートされています。

応援団の店舗に関してはビーズログ文庫アリス様のサイトにリンクがありますので、お手数ですがそちらをご確認下さい。

お近くに応援団店舗がある方でペーパー希望の方はよろしくお願いします。クリスマスの話です。


web版本編はここからシリアスとなります。塾編はあと四~五話前後予定です。


塾のみんなとの待ち合わせ場所である北クライノートホテルはビル街にある上に、休日ということもあって人々の往来が激しい。風景に溶け込むように道行く人達に紛れながら、私も流れに乗って歩いていた。

一人ではなく、小梁さんと矢飼さんと共に。


――なんでこんなことになっちゃったんだろう。一人で行く予定だったんだけどなぁ……


みんなとの待ち合わせ場所はホテル前。

そのため、時間内に余裕で間に合うように一人で向かうつもりだったんだけど、匠君達と遊んでいた時にメッセージが届いてしまった。

小梁さんから『家に迎えに行くよ』と。


瞳にそのメッセージを映し出した瞬間、体が強張り匠君にちょっと不審がられてしまった。

あの時はなんとか誤魔化したけれども、本当は恐怖に浸食され心が黒く覆われてしまっていたのだ。でも、それもシロちゃん達のお蔭ですぐに晴れていったけど。


匠君は絶対に巻き込んでは駄目だ。

優しい彼は、きっと自分のことのように真正面から向き合う。だから、もし私のせいで迷惑をかけてしまい匠君が傷ついてしまうようなことがあっては面目が立たなくなってしまう。

元々、誰にも相談する相手がいなくて一人で抱え込むタイプだったけど、匠君達と過ごして彼らの存在が大切になればなるほど、失うのが怖くなり臆病になっていく自分がいる。


――小梁さんの件を悟られないように過ごさなければ……!


いつも通り自分でなんとかしようと五王家から自宅に戻った後に小梁さんに断りのメッセージを送信。

そもそも小梁さんの家と私の家は駅を挟んで反対方向だから二度手間だ。

幸い、小梁さんも「わかった」と了承してくれたので、ほっと一安心……だったのに、当日になって奇妙な出来事が起こってしまうことに。


電車時間に間に合うように自宅を出ようとしたら、玄関のチャイムが鳴りドアホンに映しだされたのが小梁さんと矢飼さんのコンビ。まさか勝手に押しかけるなんて想像もしていなかったため、ノーガード状態の思考にパンチを食らい結局三人で約束の場所へと向かうことに。

道中、小梁さんが私に話しかけるたびに矢飼さんの鋭い視線が飛んだりして何度胃を押さえたことか。


「ビュッフェ楽しみね! SNSにupしている人が結構いたんだけど、値段がちょっと高いだけあってどれも美味しそうだったの。そうそう、唯翔の好きなフルーツ系も充実していたわ」

「よく知っているよな、一花は」

「当然よ。大好きな唯翔のことだもの」

ふふっと小梁さんに向かって微笑んだ矢飼さんはとても可愛い。

本当に好きなんだなぁと私が感じられるぐらいに、全身で小梁さんへの好意が現れている。


「そう言えば、露木さんの家でよく通っているケーキ屋もフルーツ系充実しているよね」

「どうしてそれを……?」

急に話を振られ、自然と眉間に力が入ってしまうのは仕方がないことだって思う。だって、彼とケーキ屋の話なんて一度もしたことがないのだから。

自宅の場所の件もそうだけど、小梁さんはうちにやたら詳しいのか本当に謎すぎる。


固定概念を持って人と接してはならないと思うけど、小梁さんと話していると何か視えない黒い手で頬を撫でられているかのように背筋が寒くなっていく。


「露木家っていつも注文するのって苺のホールケーキだけど、それって琴音ちゃんがイチゴのショートケーキが一番好きだから?」

「……え」

動かしていた足がぴたりと縫い付けられたかのように止まり、私の唇からかろうじて音として言葉が零れた。

それに対し隣を歩いていた小梁さんも私の一歩前で立ち止ると、振り返って言葉を発することなくただ微笑んだのが絶望的。


――怖い。どうしてそんなことまで知っているのだろうか。


交わった視線。

目は口程に物を言うという言葉があるぐらいに、人の目というのは色々読み取れると聞いた事がある。例えば、嘘をつくと視線が泳ぐなど。

それなのに、彼の漆黒の瞳からは何も読み取れず。


瞳を逸らしてしまいたい。でも、そうしてしまえば視えない獣に首元を噛みつかれてしまうかのような危機感を覚えてしまっていた。

弱った心は一度ブレてしまうと、落ち着きを取り戻すのは容易くはないため強張る肢体が思うように動こうとしない。きっと通行人の邪魔になっているだろう。


――どうしよう……もう帰りたい……一刻も早くこの場から立ち去りたいよ。


ガチガチに固まってしまっている肢体に惑っていると、

「朱音!」

と、突如背に掛けられた。それは、聞き慣れた声だった。

そのお蔭で私は金縛りが解けたかのように自由になったので、すぐに振り返れば匠君の姿が。

着物姿で少し離れた所で手を上げている。傍の路肩では、車がハザードを付けて一時停止していた。


「匠君……」

ほっと胸をなで下ろしかけたのに、耳に届いた言葉によりさらなる恐怖が襲ってきてしまう。


「あぁ、彼はこの間露木さんを送った子だね」

小梁さんが私を底の見えない崖下へと突き落とした。


ちょっと前に匠君が旅行のお土産を渡してくれるために塾まで来てくれたことがあったのだが、あの時に匠君は誰かが見ているかもしれないと言っていた。


まさか、それって――


答えが頭に浮かび振り返れば、小梁さんは目を細めて私を越えた先へと視線を向ける。


「ねぇ、彼は僕と同じなの? あ、でもそんなことを露木さんに聞いてもわからないよね」

「な、なに……を言って……る……の……?」

カチカチとかみ合わない歯が不快な音を奏でる中、冬空の下にいるかのように体が芯から冷えてしまっていた。今年最高気温を叩き出だしたというのに。


どうして私なんかに関わるのだろうか?

思い返せば、不自然すぎる出来事は多々あったので、明らかに目的があって私に近づいてきているというのは断言できる。


「朱音」

前方にばかり気を取られ、背後は全く無警戒。そのため、トンと突然ら肩を叩かれてしまい、私は悲鳴を上げてしまう。

すると、

「えっ!? ごめん! 驚かせちゃったか?」

という声が届いたので弾かれたように振りかえれば、目を大きく見開いた匠君の姿が飛び込んできた。

長い先の見えないトンネルの先に出口を見つけたかのように安堵感を感じ、私はついたまらず彼へと腕を伸ばしてしがみ付く。


「匠君……っ!」

突拍子もなかったであろう私の行動に彼は「朱音!?」とうわずった声を上げたが、何かを察してくれたのか目を鋭くさせて小梁さん達へと顔を向けた。


「そんなに睨まないで欲しいなぁ~」

小梁さんが喉で笑えば、匠君の眉間に深く皺が刻まれた。


「朱音に何をした?」

低い威嚇するような匠君の声に、小梁さんは肩を竦める。


「別にー。ただ話をしていただけだよ。だって、彼女は僕にとって価値ある子だから。ねぇ、それよりも聞きたいんだけど君は僕と同じ目的なの?」

「……お前、朱音のことが好きなのか?」

「はぁ? 唯翔がこの子のことを好きですって? 冗談でも私の前で言わないで欲しいわ。不愉快よ」

小梁さんの代わりに答えた矢飼さんは、棘を隠さず強い口調だ。

矢飼さんは小梁さんのことが好きなので、例え誤解でも嫌なのだろう。私なんかに好意を寄せているかもしれないということが。


「それよりも貴方、誰? 露木さんの彼氏? だったら嬉しいんだけどね。露木さんが勘違いしないで済むから」

「それ、今この状況で関係あるか?」

「無いと言えば無いわね。それより、私達そろそろ先に進んでもいいかしら? 待ち合わせ時間に遅れちゃうの。あっ、露木さんはその人とゆっくり来ていいわよ。島田さんには言っておくから」

「あ、ありがとう……?」

お礼を言ってもいい場面なのだろうか? それがわからず曖昧だったけど、一応お礼を伝えた。気を使ってくれたような気がしたので。


「え? 露木さんも一緒に行こうよ?」

「悪いけど、朱音と話があるんだ。俺もちょうど北クライノートホテルに用があるし」

「そう。残念。僕としては君とは二度と会いたくないなぁ。邪魔だから――」

そう言って小梁さんは匠君へと視線を向けたのだが、眉や口元の歪みなどから強い負の感情が窺える。目の前に嫌いな人間がいるかのような態度なので、これは私にも容易く見て取れた。


匠君は目を鋭くさせ、それを受け止めている。

お互い視線を外さず数秒間睨み合っていたのだが、それを打ち破る声が間に割って入った。

それは、「唯翔っ!」と小梁さんの名を叫ぶ矢飼さんの声。彼女は小梁さんの腕にしがみ付くと、「行きましょう!」と言って足を踏み出し始めたのだ。

あまりに突然の出来事に、「え」と戸惑いの言葉が私達から漏れたが、彼女は気にする素振りもなくそのまま引きずるように連れてて行ってしまう。

電車の中では胃をキリキリとさせられたけど、今は矢飼さんが一緒で良かったと初めて思った。


だんだんと遠くなっていく二人の背を見届け、やっと私の体の強張りが解けていき匠君から体を離せば、がくりと膝から崩れ落ちそうになってしまった。だが、幸いなことに咄嗟に手を伸ばした匠君が支えてくれたので地面に座ることにはならずに済んだ。


「大丈夫か?」

「……うん」

「朱音、あいつに何をされた? それとも何か言われたのか?」

「……」

「朱音」

強くなった匠君の声に、私は自然と視線が下がっていく。今更ながら彼を巻き込んでしまったことに気づいてしまったからだ。あんなに迷惑かけないって強く思っていたのに、いざ彼を前にして頼ってしまった。


「ごめんなさい……」

「朱音、俺は謝って欲しいなんてこれっぽっちも思ってないよ。ただ、心配なんだ。だから、頼むからちゃんと言ってくれ。状況を把握したい」

「……」

「朱音」

再び匠君の重い声音が頭上から聞こえ、私は観念してゆっくりと口を開く。


「……小梁さん、このあいだ匠君が私のことを送ってくれたのを知っていたの。それだけじゃない。私の家で通っているケーキ屋さんの事も。どうしてそんなにうちに詳しいのかわからないから怖いの……」

「あいつ、一体何を企んでいるんだ? とにかく、あまり近づかない方がいい。と言っても、これからあいつも含めて塾の子達とビュッフェなんだよな。どうする? 断ってこようか? 島田さんってたしか公園であった子だったよな。顔なら俺も知っているし」

私は首を左右に振った。

元々、小梁さんに誘われたのを島田さんが助けてくれて今回のビュッフェになったのだから行かなければならないから。


「わかった。でも、無理はするなよ?」

言葉と共に、頭上にポンポンと数回優しく撫でられた。

なんでだろう? 匠君の傍にいると大丈夫って心から思えるから不思議だ。

でも、頼っては駄目。そう気持ちに蓋をして鍵をかける。


――一人でなんとかしなければならない。大丈夫いままでそうやって生きてきたから……。


「じゃあ、行こうか」

「うん」

「あのさ、帰り俺に連絡して。送るから」

「ううん。自分で帰れるよ。それに、匠君のお祖父さんの誕生日パーティーだし」

「ダメだ。あの状況を見て朱音を帰せるわけないだろ」

「平気」

「平気じゃない。朱音、約束して欲しい。小指出して」

匠君は腕を上げると、掌を軽く握り小指を伸ばす。もしかして、ゆびきりをしようということなのだろうか。ゆびきりなんてかなり久しぶりだ。昔、琴音に約束ごとをいっぱいされた時に頻繁に無理やりされたことがある。どっちにしろ、琴音の命令は絶対だったから意味なかったけど……


「針千本なんて飲ませないから安心してくれ」

そう口にすると匠君は私の手を取り、むりやりゆびきりをした。


「嘘ついたらもうシロと遊ぶの禁止にするから」

「えっ、シロちゃんっ!?」

シロちゃんと遊べなくなるのは嫌だ……せっかく仲良くなったのに……


「そう。シロと。シロだって朱音の事が好きだから心配しているよ。だからちゃんと待ってて?」

その言葉に、私は首を縦に振った。



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