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ほっぺにちゅーが彼女のボーダーライン!?

「では、改めて事己紹介を。初めまして、久藏豪と申します。十倉とくら学院に通う一年で剣道部に所属しています」

豪が深々と頭を下げ朱音に向かって自己紹介をすれば、朱音も慌てて同様の仕草をした。


「十倉って六条院、七泉なないずみ女学校と並ぶ三大名門校のですか? たしか、男子校だったような気が……」

「はい。うちは男子校です。ですから、その……何か失礼な事がありましたらすみません。自分はあまり同じ年頃の女子と接する機会がなく……兄弟も弟のみで……」

「ん? お前、棗と美智と接しているじゃないか」

「棗は兄弟のようですし、それに美智さんは女神ですから」

「なんで美智が女神なんだよ」

自分の妹を女神に喩えられてしまい、俺の顔が引き攣ってしまう。

豪の目には美智はどんな風に映っているのだろうか?


「いえ! 美智さんは女神です。この間の剣道の試合でも、俺は美智さんのお蔭で勝てました。勝利の女神です」

「なんだ? あいつ、お前の試合応援行ったのか」

「いえ……その点…誘えませんでした。ですが、試合前に美智さんを胸に思い描き、妄想の中で応援して貰って勝つことができました」

「それ、十分お前の実力で勝ったんだと思うが。というか、妄想じゃなくて本人誘って応援して貰えよ」

「無理です……断られたら怖くて……」

がっしりとした体つきだが恋愛メンタルは以外と脆く、豪は俺の言葉にしゅんと肩を落とす。

それを励ますために口を開きかけると、「匠君」と名を呼ばれたので顔をそちらへと向ける。すると、朱音がじっと俺の方を見つめていた。


「間違えていたらごめんなさい。もしかして、九蔵さんは美智さんの事が……?」

「あぁ、そうだよ。恐らく、その件で朱音に会いに来たんだと思う。美智と仲が良いからな。そうだろ?」

「はい。美智さんがよく棗に露木さんのことを楽しそうにお話をしていまして……それでご挨拶に。美智さんはとても優しくて気高く芯がしっかりとした女性です。自分はそんな彼女を尊敬し崇めています」

「崇めんなって。お前、もう少し楽に物事を考えろ。だから、美智の前で口ベタになるんだ」

「頭ではわかっているのですが……」

豪は美智に関してこんな感じになってしまうので、本人の前ではボロが出ないように意識して口数を減らしているので美智には寡黙な人と思われているようだ。


「わかります! 私もそう思いますから。美智さんはとても素敵な方です」

そんな朱音の言葉に俺は「え」という間の抜けた声が零れてしまう。


「わかっていただけますか! そうなんですよ、素敵なんです。もう存在自体が!」

と、豪は叫ぶように声を上げ立ち上がると朱音の傍まで来てしゃがみ込んだ。

かと思えば、彼女へと手を伸ばしかけてしまう。

そんな視界に飛び込んできた光景に対し、俺は素早く朱音と豪の間に体で割り込んだので、幸いな事に豪の手が朱音に届く事はなかった。


「どうして俺の周りの男連中は、感極まるとスキンシップが激しくなるんだっ!!」

父も朱音との初対面で手を握りしめたし。


「豪、お前近い!」

「すみません、つい感極まって」

「その積極性を美智にも見せ……――」

ここでふと視界の端に映し出されたシロのせいで、俺の台詞が途中で消えてしまった。

それは、俺達が遊んでいると勘違いしたシロが朱音にじゃれつこうとしている瞬間だったから。


――俺にじゃれつくのと朱音にじゃれつくのでは、体格差があるからパワーバランスが……っ!!


「朱音、危ない!」

「えっ?」

朱音が言葉を零した時には、もうすでに時既に遅し。

彼女の身体がタックルするようにじゃれついたシロの体により、バランスを崩し倒れかかってしまっていた。そのため、咄嗟に腕を伸ばした俺だったが、中途半端なポジションにいたため受けきれずそのまま朱音と共に倒れてしまうはめに。


「え」

背に感じる畳の感触とは反対に自分の胸元と頬に感じるのは柔らかい感触。


――なんだ? 頬に何か当たって……


瞳を動かしその原因を探った瞬間、顔と体の血液の流れが急速によくなった。クーラーの冷気なんて全く感じないぐらいに、体温がどんどん上昇していく。


――あ、あっ、あ、朱音にキスされているっ!?


どうやら倒れた拍子でこうなってしまったらしい。なんて嬉しいハプニングだろうか。


「ごめんなさいっ!」

朱音の慌てる言葉と共に体の上に乗っていた重みが消えたので、俺は自由になった手で咄嗟に顔を覆った。

朱音は頬にキスといっても、ただの事故で触れただけ。

顔が真っ赤な俺と違って、きっと朱音は真顔だろう。でも、彼女の事が好きな俺はそんな風に割り切ることなんて不可能だ。


――どうしよう……マジで無理……このまま平然となんて絶対にできるわけがない……っ!


「ごめんね、匠君っ! 何か拭くもの……あっ、おしぼりか何か持ってくる!」

「だ、大丈夫。本当に気にしないで……でも、俺の心を落ち着かせる時間を……って、えっ?」

片手で顔を覆いながら起き上がり見れば、指の隙間から零れているのは顔を真っ赤にして瞳を潤ませている朱音だった。


「ちょっと待って! なんでその反応なんだっ!?」

想像もしていなかった反応のせいで、俺はつい押し殺しておくべきだった心の声を叫んでしまった。


「ち、違うの……! ごめんなさい。過剰反応だってわかっているの。キスしちゃったけど、それは事故で……その……お願い変に思わないで……ちゃんとわかっているから……」

「いや、違うんだ。違うんだ、朱音。ちょっと落ち着いてくれ!」


――もしかして、朱音の異性のボーダーラインはキスなのか!?


水族館などで手を繋いだが、お父さんみたいと言われた。

でも、今の反応は俺の事を異性として認識しての反応のような気がする。

これは俺にとって追い風だ。このボーダーラインをはっきりすれば、朱音に対するアプローチの重要な切り口となる。


「い、今拭くもの取ってくるね」

そう言って朱音が立ち上がりそうになったので、俺は咄嗟に腕を伸ばして手首を掴んで阻止した。


「待ってくれ。朱音、その反応って俺の事を異性とし……――」

「ワンワン!」

「このタイミングでっ!?」

肝心な時にシロの楽しそうに吠える声が聞こえ、俺は声がした方へと顔を向ける。すると、障子側へと移動していたシロがいたのだが、しっぽをぶんぶんと揺らしながら、まるで誰かと会話でもしているかのようにリズミカルに吠えていた。


「……おい、シロ。お前、何しているんだ?」

まるで家族の誰かがそこにいるかのような動作をしているシロに対し、俺は首を捻る。


「動物って時々あぁいう行動取りますよね。あれは何を見ているのでしょうか? うちの猫・メーも何もない空間をじっと見ていたりしています」

「あー、ミケもシロもたまにあるな。虫か何かじゃないのか? おい、シロ。こっち来い」

俺の言葉にシロはすぐにやって来た。


「シ、シロちゃん。だ、誰かいたの……?」

朱音が震える声でシロへと尋ねれば、シロは何度か弾んだ声で吠え朱音に何かを伝えている。

けれども、犬語のため俺達には理解出来ず。


体を戦慄かせ涙目になっている朱音を見て、俺は彼女の気持ちを落ち着かせるために声を掛けようとすれば、突如タイミングよく電子音が鳴り響いてしまう。

それに朱音が悲鳴を上げ彼女は傍にいたシロへと抱き付いた。


「大丈夫、スマホだから。朱音の鞄から聞こえるよ」

「わ、私の……?」

「大丈夫。俺がいるから」

「……ありがとう」

朱音は少し落ち着いてくれたのか、強張っていた表情が少し崩れたように感じたので、俺はほっと胸をなで下ろす。

彼女は立ち上がると角へと向かい、鞄を手に取ると中を覗き込みスマホを取り出した。

そしてディスプレイを覗いたのだが、朱音の表情がまた強張ってしまう。


「どうした?」

「なんでもないの……あの……明日塾の子達と北クライノートホテルのデザートビュッフェに行く約束をしていて……その予定がメッセージアプリできただけだよ」


――あぁ、そういえば前回迎えに行った時、まだ慣れていないって言っていたな。


「朱音。無理そうなら断ってもいいと思うぞ?」

「佐藤さん達もいるから大丈夫」

「そうか……何かあったら電話してくれ。俺もちょうど明日、北クライノートホテルにいるんだ」

「あっ、それって春ノ宮家のですよね?」

「あぁ、お爺様の誕生日パーティー。午後からだけど、孫達でその前にお祝いするから早めに行く予定でいるんだ。家族全員参加だけど、先に俺と美智、それから母さんが一緒に」

「招待状を九蔵家も頂いておりまして、俺も祖父達と共に午後のパーティーから出席する予定です。ですから、自分も何かありましたら力になれます。荷物持ちでもなんでもしますので。ご連絡下さい」

「ありがとうございます」

「シロは家で留守番だけど朱音の事をちゃんと守ってくれる番犬だもんな。なぁ、シロ?」

と、シロへと声を掛ければシロは朱音をみつめると、表情を引き締めドヤ顔を決めた。






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