☆逆お気に入りユーザー1111お礼☆彼の知らない秘密~シロの可愛い焼もち~
こんばんは。お読み頂きありがとうございます。
本編途中ですが、シロ視点の番外編となっています。
僕の名前はシロ。
白くてふわふわしているからシロだ! と、ご主人様が出会った時につけてくれたんだ。つけて貰ったこの名前を僕は凄く気に入っている。だって覚えやすいしもんね!
好きな事は遊ぶこと。
おじいちゃんに買って貰ったボールでご主人様と遊ぶのが大好き。
ご主人様に投げて貰って僕が取ってくる。それを何度繰り返しても飽きない。いーっぱい遊べるんだ。
ご主人様は「もういいんじゃないか……?」とこぼすけれども、それでも付き合ってくれる。優しい。
けれども、いつでも遊んでくれるわけではない。学校というものがあるから。学校に行って勉強というものもしなきゃならないんだって。
僕だってそれはわかっている。我慢できる。もう大人だからね!
だから、ご主人様が帰ってきてからいっぱいじゃれて構って貰う。でも、それが出来ない時がある。それは――
……まただ。
折角、学校というものも終わったのにご主人様は自室で机に向かったまま。しきりにペンを走らせる音だけが室内へと響く。
僕はもう2歳で体も大きくなり障子も自分で開けられる。だから、カリカリと部屋の障子を開ける事も出来るのだ。
ご主人様はその音に気付いて僕の所に来て障子を開けてくれる。
……でも、今日はいつものように爪でカリカリしても出てきてくれない。匂いと気配で部屋にいるのは確実なのにっ!
どうしたのかな? と不思議に思いながら僕が自分で障子を開けてみれば、ひたすら机に向かって何か書いているみたい。
遊びに来たよ! と、気を引きたくて吼えたけれども、ご主人様は相変わらずペン音を響かせたまま。どうやらかなり集中しているようだ。
――仕方ない……
僕はご主人様の元へと駆け寄るとズボンの裾をクイクイと引っ張る。すると、「ん?」とやっと気づいてくれたのか僕の方へと顔を向けた。
「シロ……?」
遊んで! 遊んで! とご主人様にアピールすれば、「ちょっと待っていろ。溢れでるこの気持ちを落ち着かせてからだ」と言いつつご主人様は僕の頭を撫でてくれた。
「ウー」
「唸るな。これ終わったらいっぱい遊んでやるから」
そう言ってご主人様がまた机に向かった時だった。
いつも僕を見かけると遊んでくれる畑野さんの匂いと共に足音が近づいてきたのは。
「匠様。よろしいでしょうか?」
廊下――障子側から畑野さんがこちらに声をかけた。そのため、ご主人様は一度ペンへと手を伸ばしたが、その手をとめた。
「……なんだろう」
そう呟きを零しながら、ご主人様が立ち上がると僕が開けっぱなしにしていた障子へと向かった。そこには、畑野さんの姿が。畑野さんは、「あら、シロもこちらに?」と僕を見て微笑んだ。
「あ、うん。遊んでほしいみたいだ。それより、何かあったの?」
「アポなしのお客様がお見えに……旦那様より応接は匠様にして頂くようにと承っておりますので」
「あぁ、そう言えば三人共結婚式に呼ばれていたんだったな。わかった行くよ」
え? ご主人様行っちゃうの? やだよー。
「ワンっ」
「戻って来たら遊んでやるから」
ご主人様はそう言いながらしゃがみ込むと僕の頭を撫でる。
そう言って戻って来たらまた机に向かっちゃうんでしよ? と、じっとご主人様を見詰めれば「匠様、お願い致します」という畑野さんの声が。
「約束するから。ちゃんと遊んでやるって。お爺様達も、もうすぐ帰ってくるからさ。大人しく部屋で待っていろ。な?」
わしゃわしゃっと撫でると、ご主人様はくしゃっと笑った。
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――……つまらない。
ご主人様がいなくなった部屋で、ひとりぼっち。
僕はぽつんとご主人様の匂いが残る部屋にて、鼻でボールを転がしていた。ごろごろと転がしても、一人じゃつまんない。そのため、僕は部屋を探索することに。
まずは机の上からっ! と、意気揚々と机へと前足をかけて覗き込めば紙が置いてあった。あの直前までご主人様が書いていたあの紙だ。
何かを書いてあるようで黒い線が走っているんだけれども、犬の僕には何が書いてあるのかわからず。
でも、一つだけわかる事がある。これがあるとご主人様は僕に構ってくれないということ。
絶対に部屋に戻ってもまたこっちの作業しちゃう! 僕と遊んで欲しいのにっ!
――あ。そうだ! 隠せばいいんだ。
僕はすぐさま中途半端に引かれた椅子によじ登り机の上にあった紙を噛んだ。すると、ぐしゃりという音が響き渡り、僕は一瞬警戒する。だが、足音は聞こえない。
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どこに隠そうかな~と廊下を歩いていると、風に乗り嗅ぎ慣れた複数の匂いを感じ取った。足音も耳に届く。人によって奏でる足音が違う。だから、誰が近づいているのかすぐにわかった。
――あっ、これはおじいちゃん達のだ! わーい。おかえりー! 遊んで! 遊んで!
と、廊下を全力で駆けていく。すると前方に三人の姿が見えていた。その後ろには荷物を持った使用人達の姿もある。
三人共、いつもよりもちょっとだけ服が華美でキラキラしている。そういえば、結婚式ってやつに行くって言っていたっけ。
「シロ」
みんな僕を視界に入れると、そう優しく名を呼んだ。けれども、三人共すぐに首を傾げてしまう。
「……お前は一体何を咥えているんだ?」
「!?」
おじいちゃんに言われて僕ははっとしてしまった。
――あっ、しまった……!
「また匠の部屋に入ってきたのかい? 駄目だよー。思春期の男の子の部屋を勝手に漁っては。それに、もし間違えて変な物でも食べちゃったらシロが大変になるよ。だから、その口に咥えているものを寄越して」
そう言いながらご主人様のパパさんが僕へと手を伸ばす。そのため、僕は観念して口に込めていた力を弱めた。ピンと伸びていた紙は僕の歯形のせいでぐしゃっとなっている。
「あー、ほら。シロ。もう紙が唾液で濡れ……あ」
パパさんは広げた紙を目にして、固まってしまっている。
「あなた。どうかしましたか? もしかしてテスト用紙?」
「だが、匠はちゃんとテスト用紙を提出しているはずだ。それに匠は首席だぞ」
そう言いながら、おじいちゃんとママさんがパパさんの手元を覗き込む。すると、二人共まるで雪だるまのように動かなくなってしまう。そして、三人して僕の方を見ると頭を抱えてしまった。
「なんでこんなとんでもないものを……これはポエムなのか……? 誰のことを想って書いているのか一発で……あぁ……もう、十八歳未満は見ちゃ駄目な本やDVDの方がどんなに良かったか……これは絶対に触れては駄目なやつじゃないか……どうしたらいいの? これ…」
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「……このまま机に戻してしまったらバレるよな。シロの歯型がついちゃっているし」
パパさんに連れられ、僕はまたご主人様の部屋へ。パパさんは紙を手に深い溜息を吐き出し、「本当にどうしよう、これ」と言いながらぐっと眉間に皺を寄せている。
どうやら僕はみんなを困らせてしまうような物を持ち出してしまったようだ。
ごめんね、パパさん。僕、人間の文字読めないからわかんなくて。
焼きもちでいつものようにご主人様の部屋を荒らすのとは今回は状況が違うみたい。
「やっぱり、下に置いた方が自然か」
そう言ってパパさんは屈み込むと、僕が座っている畳の上へと紙を置いた。
そしてそっと僕を撫でる。
「いいかい、シロ。もう匠の部屋から物を持ち出したら駄目だよ? 特に今回のようなやつは。匠にバレずに誤魔化せそうだから今日は良かったけど……しかし、朱音ちゃんがいる時じゃなくてよかった……本当に良かった……もしそうなったらきっと匠のメンタルが…」
朱音ちゃん!? 朱音ちゃんすきーっ! いっぱい僕と遊んでくれるし、時々おもちゃも買ってきてくれるんだー。撫でてくれながら、「シロちゃん、大好き」って言ってくれるの。
「尻尾振って可愛いなぁ。シロも朱音ちゃんが大好きだもんね」
うん! すごく大好き! でも、一番はご主人様だよ!
ねぇ、朱音ちゃん、今日来てくれるのっ!?
「匠の恋が実るように……朱音ちゃんと匠がもっと仲良くなるように、シロは匠の背中を押して上げるんだよ。だから、こんないたずらしては駄目だ」
「ワン!」
わかったよ。僕、ご主人様の背中を押すよ。そうしたら、朱音ちゃんとご主人様もっと仲良くなるんだよねっ!?それなら頑張るっ! ご主人様、朱音ちゃんの事が大好きだもんね!
「シロは僕の言う事がちゃんと伝わったみたいだね。賢い」
そう言いながら笑っているパパさんの笑顔。それがご主人様に似ていて、一秒でも早く逢って一緒に遊びたくなった。
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「シロー。悪かったな。約束通り遊んでやるぞ」
パパさんが退出した後、しばらくしてご主人様が戻ってきた。
けれども、部屋に入ってすぐに畳の上に置かれている物を見て、僕の遠吠えみたいな声で絶叫。顔を真青にさせて慌ててしゃがみ込んで紙へと手を伸ばしてしまう羽目に。その指先は小刻みに震えていた。
「おいっ! ちょっと待て! なんでこれがこんなところに!? ……って、犯人の歯形が付いているぞっ!」
そう叫んでご主人様は僕の方へと視線を向けてきたので、そっと瞳を逸らす。
――ごめんね、犯人は僕です。
「これは駄目だろうがっ!!」
ご主人様は頭を抱えると「はぁー」っとため息を吐いた。かと思えば、「……まぁ、外に持っていかれなかっただけ良かったか。誰にも見られていないし。それに遊んであげられなかった俺も悪い」と口にした。
――え? それ、おじいちゃん達がもう見ちゃったよ?
僕は畳に伏せると本当にごめんなさいと言った。ご主人様には犬語がわからないと思うけど……
「どうした? 急に大人しくなって……もしかして拗ねているのか? 悪かったって。もう用事も終わったから、後はお前といっぱい遊んでやる。ほら、天気いいから外行くぞ」
わしゃわしゃと僕を撫でながら顔を綻ばせるご主人様。
僕はそんなご主人様が大好き。
だから、ご主人様の笑顔がもっと見たいから朱音ちゃんとの仲を応援するね!
そのために、いっぱい背中を押すよ――
おまけのその後 (朱音が遊びに来ている時)
朱音「……シロちゃん、どうして匠君の背中を押しているの? 新しい遊びかな?」
匠「それが謎なんだよ。最近、俺の背中をこうして押すんだ。しかも、時々ちょうどいいツボを押してくれる」
朱音「え? もしかして、マッサージ……?」




