ハッピーウエディング!!
澄み渡った青空の下。
由緒ある洋館を背景に、私と匠君の結婚式が行われていた。
辺りを深い木々に囲まれ、自然の香りが癒やされるガーデンウエディング。
今日一日貸し切りにされた洋館の庭園には、白いクロスが敷かれた丸いテーブルや鉄製椅子などが等間隔に並べられ、風船や花などで飾り付けがされている。
中央には飾り付けされた大きなソファがあって、その近くには高校の友達や、大学の友達、会社の人達が書いてくれた寄せ書きなどが飾られていた。
料理やスイーツは参加者が好きなものを好きなだけ食べられるように、ビュッフェ式に。
「露木さん、五王さん。結婚おめでどう!」
「「ありがとう」」
私と匠君は豊島さん達……高校の友達に囲まれ、お祝いの言葉を貰っていた。
みんなあの頃と違って社会人なんだけど、会うとあの頃のまま変わらない。
一瞬で高校の頃みたいに戻るんだけど、それがなんだか不思議な感じがする。
会場には高校の友達以外にも、大学の友達や小春ちゃん達の姿もあり、皆それぞれおしゃべりしたり、お料理を食べたりゆっくり過ごしているみたい。
式は来てくれた人達がゆっくり過ごせる堅苦しくないものにしたいって思っていたので、ガーデンウエディングで良かったなぁって思う。
――小春ちゃんもレオン君も大きくなったなぁ。
私は料理を食べている小春ちゃんとレオン君を見ながらしみじみ思った。
レオン君は初めて会った時はまだ六才だったのに……
小春ちゃんも私が引っ越してから出会ったので、小さい頃から知っているし。
匠君曰く、あの二人は「ケンカップル」って言っていたけど、付き合っているのかな?
レオン君はよくプライベートジェットで日本に来ているみたいだけど。
「露木さん、ウエディングドレスかわいい!」
「似合っているよね。二人で選んだの?」
「うん」
「そういえば、一回目の結婚式って和装だったよね? 尊に写真見せて貰ったけど、すごく綺麗だったよー。和装も見たかったなぁ。五王さん、どっちが好き? 和装とウエディングドレス」
豊島さんに聞かれて、匠君は「どっちも!」と元気に返事をした。
実は私と匠君はこのガーデンウエディングが二回目の結婚式。
一回目は五王家としての家のための結婚式だった。
私の親族席には、いとこ達がお祝いに来てくれた。
五王家の関係者や会社関係者を集めてなので参加人数が限られ、親しい友達を呼ぶことが叶わず。
二人でどうしよう……と相談した結果、一回目は家のために挙げて二回目は自分達が親しい人達を呼ぶために挙げることに。
なので、これが二回目の結婚式だ。
「五王さん、ほんとうに良かったね。高校の頃からの願いが叶って。私達、見守っていたから自分達のように嬉しいよ!」
「ねー、ほんとに。大学で付き合うかな? って思ったら、大学でも進展がなかったし……ハラハラだったよ。結婚できて良かったね」
豊島さん達が匠君に言えば、匠君が顔を緩める。
「ありがとう。念願叶って結婚できたよ」
匠君はそう言って薬指の指輪を見せれば、みんな顔を綻ばせた。
「惚気を聞ける日をいつかいつかと待っていたから、聞けて本当に良かった」
「高校のあのじれじれがここに結びつくなんて感慨深いよ」
みんなに言われて匠君がはにかんだ。
「というか、豊島が作ったケーキ大人気じゃん。人が空いたら写真撮ろうと思ったけど、まだあかないねぇ」
「あれ可愛いもん。絵本のケーキ。露木さん、どうして絵本なの?」
「私と匠君が出会ったきっかけが絵本だったの。ねぇ、匠君」
「あぁ、図書館でその絵本を探している朱音と出会って……」
「何それ運命的じゃん!」
「豊島さん。ケーキ、本当にありがとう」
「喜んで貰えて嬉しいよ」
「私達だけじゃなくてみんなに人気だよ」
私は右手に視線を向ければ、そこにあったのはウエディングケーキ。
その傍では写真を撮影している人達の姿が……
ケーキは絵本の形をしているんだけど、その絵本はウサギの冒険の本。
ウサギの冒険は私と匠君が出会ったきっかけの本なので、二人の結婚式にはやっぱりこれだよねって意見が一致。
豊島さんにウエディングケーキを注文したときに、お願いしたのだ。
この後、ケーキを囲んでケーキカットの予定だったんだけど、ケーキが運ばれた時に「絵本だー」「かわいい!」と、囲まれて写真撮影が始まったので、集合写真と入れ替えに変更になった。
今、式場の人達が集合写真を撮るための場所のセッティングをしてくれているので、こうして友達とお話をして待っている状態だ。
「お話中のところ申し訳ありません。匠様、朱音様」
ケーキを見ていたら式場の方に声をかけられ、私と匠君は振り返った。
「お写真を撮る準備が出来ました。まずはお二人から先に……」
「はい」
私と匠君は返事をすると、豊島さん達に「また後でね」と告げ、係の方に案内されて足を進めた。
歩きながら会場を見ていくと、みんな楽しそうにしているのが印象的でそれが嬉しかった。
来てくれた人が喜んでくれる式にしたかったから……
「ねぇ、匠君」
私はエスコートしてくれている匠君に声をかければ、「ん?」と匠君はこちらを見る。
「あのね、ありがとう」
私は会場に来てくれている人達を見回しながら言う。
あの時、図書館で匠君と出会わなければ、この縁は広がらなかったって思う。
高校ではクラスにも溶け込め、中学時代には出来なかったのに友達も出来た。
匠君に出会って強くなりたいって思えたし、両親の事も決別する決断出来た。
匠君がいたから変われた。
だから、ありがとう。
「両親の件もありがとう。匠君が私のことを守ってくれているんだよね……?」
私の言葉に匠君は足を止めた。
両親とはあれから会っていないし、相手からも連絡がない。
あの両親があれで納得するとは思っていなかった。
でも私には何もなくて……
きっと匠君が裏で守ってくれていたんだと思う。
私がこれ以上傷つかないように。
匠君は優しいから――
匠君は何も言わずにただ私の手を握り返してくれた。
「あのね、この間写真用のアルバム買ったの。これから楽しいこといっぱい増やして行きたいなぁって」
アプリのアルバムもあるかもしれないけど、いつも見られる形の方がいいかなって買った。
「いいね、それ! 今日の写真も貼ろうよ」
「うん」
私が頷けば、匠君は目尻を下げて微笑んだ。
これから色々な事が起こるかもしれない。
でも、ウサギの冒険のように最後はハッピーエンドを迎えられるはず。
匠君が隣にいればきっと……
これにて朱音と匠達の本編は完結です。
こちらの作品は、溺愛アラカルトの短編から長編になり書籍化もできました。
応援して下さった読者さんのお陰です。
完結お礼に秋香視点でSS掲載しました。
途中、更新までかなり間が空いてしまいましたが、なんとか無事完結できました。
妹ばかり~にお付き合い下さり、ありがとうございました!