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お揃いのクマ

案内されたのは、二階にある個室だった。

どうやら上は二部屋あり、それぞれ広めの個室になっているらしい。

中は壁が煉瓦っぽい造りになっており、下と同じアンティーク調のテーブルセットなどが設置。ただ、こっちは白を基調とした家具だ。

テーブルのすぐ傍――左手に窓があるんだけれども、そこからは海を一望する事ができる。カモメが飛んでいる姿や遊覧船なんかも見えるので、きっと窓を開ければ、海風を感じる事が出来るだろう。


「今日はこの後、家に帰るのか?」

私の隣に座っている匠君は、テーブルを挟んで正面にいる匠君のお父さんへと尋ねた。匠君のお父さんは、ちょうど赤ワインの入ったグラスを取る途中だったらしく、それをやめて匠君へと視線を向ける。

まだ料理は来てないけれども、テーブルの上には純白のクロスが敷かれ、そこには盛り合わせとワイン、それから私と匠君のオレンジジュースが置かれていた。


「そうだね。一通り終わらせてきたから、後は秘書に言ってフリーにして貰ったよ。帰国予定は明日だったから結構時間に余裕あるんだ。だから、僕はこの後も十分時間あるよ!」

何かを期待した眼差しを浮かべながら、匠君のお父さんはそう話した。すると、匠君がぐっと眉間に皺を寄せてしまう。


「そうか。お疲れさま。後は家でゆっくり休んでくれ。家でな」

「えー。そこは父さんもこの後一緒にどう? ……って言ってくれるんじゃないの?」

「俺と朱音は見ての通り、二人なんだよ」

「知っているよ。見ればわかるから」

「だったら空気を読んでくれっ!」

ガタっと匠君は立ち上がると、そう叫ぶように言葉にした。

そんな予想もしていなかった彼の態度に、私はちょっとだけ体がびくっと動いてしまう。


――もしかして、お父さんも一緒だと気恥ずかしいのかな? それとも私に気を使っているのかな……? それならば、心配はいらない。私は、匠君のお父さんが一緒でも構わないのだけれども。


「冗談だよ。邪魔なんてするわけないじゃないか。そんな野暮な事するわけないだろ」

「やりそうなんだが……」

「大丈夫だって。二人の邪魔はしないよ。あぁ、そうそう。お土産渡しておくね」

そう言って匠君のお父さんは、自分の隣の席から何かを取った。それは白地にシルバーの文字が書かれている紙袋。それを私と匠君へと差し出してくれた。


「はい、イタリアのお土産」

「ありがとう」

「ありがとうございます。私の分まで……」

「ううん。いいんだよ、気にしないで。僕が勝手に買って来ただけだからね。朱音ちゃんに、似合うなぁって思ったんだ。純粋で可愛いから白っぽいなぁって。気に入ってくれると嬉しい。開けてみて?」

「はい」

私は頷くと中を開いた。するとそこには、ふわふわの白い綿毛のようなものが。

よく見てみると、丸めの耳とつぶらな瞳もある。


「可愛い!」

袋から取り出してみれば、テディベアだった。

大きさはマグカップぐらいだろうか? 掌に乗るぐらいのサイズ。

首の所にゴールドのリボンが巻かれ、金具が取り付けられている。どうやらバッグチャームのようだ。


「俺と朱音、お揃いか」

ぽつりと耳に届いた匠君の言葉。それに私は、もしかしたら嫌なのかな? と頭に過ぎってしまう。すると、匠君がこちらへと顔を向けると首を痛めるんじゃないか? ってぐらいに左右に振りながら口を開いた。


「あっ、違うから! 逆! 朱音とお揃いで嬉しいんだよ」

どうやら、不安げな表情をしていたらしくて、彼に伝わってしまったみたい。

「美智も一緒だけどね。だから、正確には三人だよ」

「……美智もか~。妹とお揃いってどうなんだ? 学校でシスコンって言われそうなんだが」

「え?」

匠君の言葉につい反応してしまった。それは、私が匠君と美智さんに買ったお土産のせい。三人共お揃いのイヤホンジャックだったのだから。ただ、イニシャルチャームが付いているから全く同じではないけど。


「ごめんね……」

「ちょっと待ってくれ! なんで朱音が謝るの? 俺、なにかしでかした?」

「ううん、違うの。実は……水族館で美智さんにお土産買ったんだ。匠君にも。それが同じ物で……私の分も買っちゃったから、三人一緒なの……ごめんね、もっと考えれば良かった…」

「違う。朱音は悪くないよ。俺が悪いんだ。ごめん、配慮が足りなかった」

匠君は顔色を変え、頭を下げた。


「俺は、朱音が俺の事思いながら選んでくれた物なら嬉しい。それが美智と同じでも。それに、朱音も一緒なんだろ? ならもっと嬉しい」

「後で渡してもいい……?」

「あぁ。楽しみにしているから頂戴」

「うん」

私は頷くと、ほっと胸を撫で下ろす。そのため自然と強張っていた体も、ゆっくりと元に戻っていく。


「ねぇ、匠君。このクマが六条院で流行しているクマ?」

「ん? あー、確かに流行っているかも。結構付けている子多いな。各国限定色があって、俺の友達も集めているらしくて日替わりで鞄に付けている。これはホワイトだからイタリア限定だな。もしかして、クマの事は美智に聞いたのか?」

「ううん。琴音に。健斗先輩にそろそろクマをねだろうって……この間言っていたの。一緒にも遊びに行っているみたい」

「あいつは……!!」

匠君は顔を歪めると頭を抱えてしまう。


「ねぇ、朱音ちゃん。妹さんはクマ持っているの?」

「いえ。持っていません」

「んー。なら、安心していいよ。健斗君は妹さんとまだ付き合ってないから」

「は? なんでわかるんだよ?」

「え? 知らないの? あれは、彼女とお揃いなんだって。その日にデートする彼女と同じものを毎日付け替えているんだよ」

それには、匠君が目を大きく見開いた。どうやら彼は知らなかったようだ。


――でも、それって日替わりで女の子とデートしているって事だよね? モテるなぁ。


そう言えば、水族館でもかなりモテているようだった。

確かに、カッコいいというか、綺麗系の顔をした少年だった。気さくで話しかけやすそうだったし、一緒にいて楽しいんだと思う。だって、あんなに人が集まっていたのだから。


「待て。それは毎日違う彼女とデートしているって事かっ!? それは彼女と言えるのか!?」

「美智にそう訊いているよ。しかし、モテるよね。でも、最近そろそろご両親も我慢の限界を越えちゃっているみたいだよ。彼の遊び癖に。この間、健斗君のお父さんとパーティーで会った時にちらっと聞いちゃった。夏休みに寺に入れるみたいだね」

「その件なら少し臣に聞いた。あいつは少し、隼斗はやとの爪の垢でも煎じて飲めよ……」

「隼人君は兄弟でも真逆だもんね」

「今は健斗よりもクマだ。琴音は流行しているからクマが欲しいのか、それとも健斗の彼女の座を狙っているのか。はたまたどちらもか。もし、クマを欲しがっているなら朱音のクマが取られちゃうよな」

「なら、簡単だよ! 朱音ちゃん、そのクマは月曜日に、登校してから鞄に付けて」

「え?」

「大丈夫! こういう時こそ、美智の力を借りないとね」

「えっと……はい」

なんだかよくわからない状況だけれども、私は頷いた。

大丈夫というのだから、きっとそうなんだと思う。

だって、匠君のお父さんは頼りになる大人の人だから――





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