朱音さんと出会ってから何年経った?
大学生編終わりで次話(明日更新)から社会人編です。
(匠視点)
大学生活もあっという間。
俺は大学4年生になり、このまま順調にいけば残り数ヶ月で卒業を迎える。
社会人になれば、もっと時間が取れなくなるだろう。
朱音との時間が貴重になるなぁとしみじみ朱音との時間をかみしめていたら、とつぜん春ノ宮家の祖父から呼び出しを受けた。
――なんだろう? 呼び出された理由がまったくわからない。
俺はテーブルの上にあるお茶へ手を伸ばしながら考えていた。
テーブル越しにいる祖父は、掛け軸の前で腕を組み神妙な面持ちをしている。
言いにくい話でもあるのだろうか?
首を傾げていると、祖父がゆっくり口を開いた。
「月日が経つのは本当に早い。匠もあと数ヶ月で大学卒業だ」
「えぇ、そうですね」
もしかして、進路のことかな?
まだどこに配属されるかわからないんだよなぁ……
俺も朱音も卒業後の進路は決まっている。
俺は志望したとおり五王の会社に内定。
朱音はやりたいことがわからないから、「匠君にアドバイス貰ったみたいに会社を基準に探してみるね」と自分にあいそうな会社を選び無事第一志望に内定。
朱音は春からは建築デザイン会社の事務職として働く予定だ。
朱音が自分で志望の会社を選んだのは、大学生活で大きな進歩だと思う。
「……匠。朱音さんと出会ってから何年経った?」
「高二からなのでもう五年くらいですね。あと少しで六年目です」
そう答えれば、なぜか祖父が両手で顔を覆いはじめてしまう。
――えっ、なに?
「匠、五年だ。もう五年!」
祖父が叫ぶように言ったので、一瞬両肩がビクッとなってしまう。
「どうしたんですか、急に大声出して」
「余計なお世話かもしれないが社会人になったら、お互いもっと忙しくなる。時間が取れなくなってすれ違ってしまうぞ」
「あー……なるほど、そういうことですか」
なんとなくわかってきた。
祖父は俺と朱音の進展について心配しているんだろう。
きっと大学生活で進展あると思ったんだろうなぁ。
俺も思っていたから。
でも、思いのほか時が経つのが早かった。
「朱音と俺のことを気に掛けて下さったんですね」
「すごく気になっている。一番気になっている。寝ても覚めても気になっている」
祖父の熱量がすごい。
そんなに俺と朱音のことを気にしているなんて思ってもいなかった。
「朱音との仲は良好ですよ。今日もこれから朱音と会う約束していますし。週に一度会っています。電話は毎日」
「なんでそれで付き合っていないんだ? わからん。なぁ、匠。ちゃんと考えているのか? 結婚は一人ではできないぞ。そもそも、ほらその結婚の前にもう一段階があるだろう。このまま社会人になってもずるずる現状維持というのが心配だ。朱音さんに匠の気持ちを言わないと伝わらないぞ」
「ちゃんと考えていますのでご安心を」
「本当か?」
「もちろんです。時がきたらお祖父様に報告しますよ」
「そうか、ならいいんだ。すまないな、わざわざ来て貰って」
「いえ。お祖父様の顔も見たかったですから」
俺がそう言うと祖父はほんの少し照れた表情をした。
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春ノ宮家を後にした俺は朱音との待ち合わせ場所へ向った。
社会人になると時間が足りなくなるのは十分わかっているから、いろいろ考えている。
朱音とずっと一緒にいるために俺がすることは決まっているんだよなぁ。
しかし、お祖父様が俺と朱音のことを一番気にしているというのは意外だった。
そんなに気になっていたとは……
そんなことを考えながら俺は朱音が待つ本屋へ。
彼女はどうやら新刊コーナーにいるらしい。
店内の案内表示を見ながら新刊のコーナーへと向えば、そこに朱音が立っていた。
秋っぽいチェックワンピースにざっくりとしたカーディガンを羽織っている。
メイクもしていることもあってか、最初に出会った時よりも大人の女性になったなぁと感じた。
――出会ってもうすぐ六年か。出会った時が高校生だったのに。月日ってほんと早い。
年を重ねて俺も大人になっているのだろうか。
自分ではあまり変わってないような感じだけど。
「朱音」
俺が声をかけながら軽く肩に触れると、彼女はゆっくりとこちらに顔を向ける。
そして目尻を下げて「匠君」と微笑む。
かわいい!
数え切れないほど朱音には名前を呼ばれている。
でも、いまだに慣れない。
朱音に名前を呼ばれるたびに俺の鼓動は高まってしまう。
「朱音。本、探しているの?」
「ううん。欲しかった本はさっき買ったの。他に何かあるかな? って見ていたんだ」
「そっか。なぁ、朱音。突然だけど、俺って大人になったと思う?」
「急にどうしたの?」
朱音は不思議そうな顔をした。
「ふと思ったんだ。あんまり自分では変わってないなぁって」
「なったと思うよ? たしかにまだ大学生だけど、高校生の頃に比べたら変わったと思う。匠君、すごく頼りになるし、将来のためにお仕事も一生懸命しているし……あっ、高校の頃が頼りないってことじゃないよ! ちゃんと高校のころも頼りになっていたし……」
「大丈夫。わかっているから。ありがとう」
朱音を支えられる大人になっていると嬉しいなぁって思う。
「今日はどこ行く? 行きたいところある?」
「あのね、パーティードレス見に行ってもいいかな? 高校の友達から結婚式の招待状が届いたんだ」
「結婚式か。いいなぁ……」
心の底から台詞が出た。
しかし、なんてタイムリーな話なんだ。
ついさっき、春ノ宮家で将来の話をしたばかり。
俺も早く朱音と結婚したい!
あまりにも感情が乗った台詞だったらしく、朱音がじっとこちらを見て口を開く。
「匠君。結婚願望があるの……? あまり聞いたことがなかったから……」
「もちろん、すごくある」
人一倍強いと思う。今すぐ婚姻届にサインできるレベルだし。
――まぁ、お祖父様の言うように朱音と結婚するには段階を踏まなければならないのはわかっているけど。
「朱音は?」
「その……ある……好きな人と結婚したいなぁって……」
少し俯きながら頬を染めて言う朱音がかわいい。
朱音なら和装でも洋装でもどっちでも似合うと思う。
なんならどっちも着てくれ。
結婚式は朱音が望む挙式で全然構わないし。
――ただ、問題が朱音の両親なんだよなぁ。
朱音との結婚は楽しみだが、朱音の両親がまったく読めなかった。
反対するだろうか? それとも賛成するだろうか?
どちらにせよ、朱音のことは俺が絶対に守ることには変わりないけれども。