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一番は匠君だよ

 私は迎えに来てくれた匠君の車に乗っていた。

 車内はちょっと重苦しい空気に包まれている。


 無理もないかも。

 斎賀さんと一緒にいたのを知っているから……


 斎賀さんから聞いた話は匠君には伝えていない。

 むやみに第三者に話せる内容じゃないと思って。


 匠君もそれをわかっているから斎賀さんとのことを聞いてこないんだと思う。

 少なくても四季さんの件は匠君のお母さんから聞いているはずなのに。

 そういう優しさを持っているのが匠君だなぁって思った。


 ――人間関係って難しいよね。四季さんの方にも事情があったのかもしれないけど。


 そんなことをぼんやり思っていると、「朱音」と声を掛けられたため、「はいっ!」と裏返った声を上げてしまう。


「ごめんなさい! ぼーっとしちゃって」

「いや、いいんだ。こっちこそごめん。驚かせちゃって」

「ううん。どうしたの?」

 私が尋ねながら匠君の方を見れば、匠君が口を開く。


「今日って母さんと会う約束していたの?」

「ううん。偶然お会いしたの。駅前から少し下った先にある商業施設で」

「……やっぱりあのデパートじゃなかったな。電話口から聞こえるBGMが違っていた」

 なんだろう? BGMって。


「朱音と一緒に買い物して夕食も一緒のコースか。ほんと、羨ましい。朱音、母さんに無理して付き合わなくてもいいからね。嫌だったらはっきり言ってくれて構わないから。直接言いにくかったら俺に言って欲しい」

「嫌じゃないよ。匠君のお母さんといっぱいお話出来て嬉しかったもん」

「……」

 その答えに匠君が無言になった瞬間。

 ちょうど赤信号に切り替わったため、車が停車した。

 匠君はこちらに顔を向けると唇を開く。


「俺と母さんのどっちと一緒にいる方が嬉しい?」

「えっ!? どっちと一緒にいても楽しいし嬉しいよ」

「朱音が俺の家族と仲良くするとヤキモチ焼いちゃう……朱音が取られたみたいでさ。最初に朱音と出会ったのは俺なのに。みんな、朱音が大好きだから独占したがるし」

 ふくれっ面で言った匠君を見て、私はクスクスという笑いが漏れる。

 匠君が小さい子供みたいで可愛かった。


「一番は匠君だよ」

「えっ!?」

 匠君が目を大きく見開きこっちを見たため、私は本音が出てしまったことに気づき、顔に血液が集中してしまう。


 つい、口がすべってしまった……


 どうしようと視線を彷徨わせていると信号が青になった。

 良かったわ!

 ちょうど信号が変ってくれて!


「朱音、それって……」

「匠君、青! 信号が青になったよ」

「またこのパターンなのかっ!?」

 匠君が運転に集中し始めたので、私はほっと胸をなで下ろした。




 

 +

 +

 +



 翌日の昼。私は大学の食堂で滝口君たちと一緒に昼食を食べていた。

 早めに到着できたため、食堂内には人がちらほらいるだけでまだ混雑はしていないようだ。

 私と滝口君が隣同士で座り、灰沢さんがテーブル越しに座っている。


「ねぇ、朱音って彼氏いなかったよね」

「うん」

 灰沢さんの問いに対して、私は箸を止めた。


「実はさ、こんど彼氏彼女いない子達で集まって、たこ焼きパーティーでもやろうって思っているんだ。どうかな?」

「駄目だよー。露木さんには五王さんがいるから」

「えっ、朱音。彼氏いたの!?」

「彼氏はいないけど……その……好きな人は……」

「いいなー。好きな人。私も好きな人欲しい! 彼氏欲しい! なんのために大学に通っているのか」

「いや、普通に勉強するためでしょ」

 滝口君のツッコミに灰沢さんが唇を尖らせる。


「わかっているわよ、そんなことくら――」

「ここ、いいか?」

 灰沢さんの言葉を遮るかのように男性の声が聞こえてきたため、私達は声のした方へ顔を向ける。

 すると、そこには斎賀さんの姿が。

 手にはプレートの乗ったトレイを持っていた。


「誠。まだいろんな席が空いているのに、どうしてこっち――あっ、露木さんだ~!」

 後を追うようにして慌ててやって来たのは若狭さん。

 若狭さんは私を見ると、微笑んだ。

 彼女も手には昼食が乗っているプレートを持っているので、斎賀さんと昼食をとるところなのかも。

 あいかわらず仲がよいなぁ。


「座ってもいいか?」

 斎賀さんが私を見ながら言って来たので、私は頷いた。


 なぜ、こっちに座ったのかな?

 若狭さんが言っているように、空いている席がいっぱいあるのに。

 まさか、昨日のこと?


「露木さん、昨日大丈夫だった?」

「えっ!?」

 斎賀さんに声をかけられ、私は裏返った声を上げてしまう。


「あっ、はい。すぐに匠君が迎えに来てくれたので」

「そう」

 やっぱり、昨日のことか。

 もしかして、心配かけてしまったのかも。


 家に帰った時に連絡を入れておけば良かったかな?

 一応、言われたように交番付近で待っていたし、人通りが多かったから大丈夫だったんだけど。


「誠。バーベキュー大会の後に用事があるって一人で帰ったけど、露木さんと一緒だったの?」

 若狭さんが痛々しい表情を浮かべながら言ったので、私は慌てて首を左右に振って否定した。


 昨日の件がなければ、若狭さんと斎賀さんが付き合っているのかな? と思ったままだった。

 それは私だけじゃなくて、他の人達もだと思う。

 二人は美男美女のため、大学内でも噂になっている。

 付き合っているんじゃないかって。


 やっぱり、若狭さんは斎賀さんのことが好きなんだよね……?


「昨日、偶然会ったんです。駅前で少しお話をしてお別れを。私は友達が迎えに来てくれたので送って貰いました」

「そうなの?」

「はい」

「そっかー」

 若狭さんは「心から安堵しているなぁ」ってわかる表情で胸をなで下ろした。


 若狭さんって四季さんのことを知っているのかな? と思っていると、テーブルの上に置いてあったスマホが振動する。


 ん? 誰からだろう。

 私はスマホを手に取りディスプレイを見れば、匠君のお母さんだった。

 もしかしたら、お弁当作りのことかも。

 メッセージを読めば当たり。

 お弁当作りと茶道の件を進めたいので都合の良い日を教えて欲しいそうだ。


 そういえば、食材ってどうすればいいんだろう。一緒に買いに……?

 匠君のお母さんってスーパーとか行ったことがあるのかな。

 匠君はコンビニとかスーパーとか普通に入るけど。


 あとで食材のことも聞いてみよう!






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― 新着の感想 ―
[気になる点] 初期のころのように、もう少しドロドロした話が読みたいなぁ。
[良い点] 自然と出た「匠くんが一番だよ」に萌えた! [気になる点] 斎賀の絡みが、なんだか気になるなぁ。 [一言] 匠の出番が、ピンポイントだけど、さりげなく重要な場面になっていますね。終わり方が、…
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