フラグ建築士は健在だったのか
(匠視点)
――朱音、どこなんだっ!?
あの後、朱音をすぐに追いかけたが人混みのため見つけることが出来なかった。
彼女に電話してもSNSのメッセージを送っても返事が来ない。
そのため、俺は他の人を頼ることにした。
もしかしたら誰か知人が目撃しているかもしれないと、龍馬兄さん達や臣達に「朱音を見たら俺に連絡して!」というメッセージを送っている。
けれども、「見かけたら連絡するよ」という返事のみで手がかりはまったく掴めていなかった。
なぜ、こんなすれ違いが……俺が好きなのは朱音だけなのに!
勘違いされる可能性があるなんて思ってもいなかった。
早く誤解を解きたい。
「しかし、見付からないな。まだそんなに時間が経っていないから追いかけられるはずなのに。もしかして、どこかの店に入っているのか……?」
そう呟いた時だった。
手にしているスマホが振動したのは。
ディスプレイを見れば、メッセージアプリからの通知だった。
「ん? 尊だ。もしかして、朱音を見かけたのか!? この辺、尊がよく来るし」
期待を持ちながらメッセージを読んでいけば、俺にとって良い知らせだった。
だが、予想外なこともあり、つい声が漏れてしまう。
「えっ!? 見かけただけじゃなくて、一緒にお茶をしているってどういうことっ!?」
まさかの一緒にいるパターンだったとは。
尊は朱音とは偶然出会ったみたいだけど、さすがはフラグ建築士。
大学に入ってもその力は健在だったのか。うらやましい……
でも、良かった。朱音の居場所が見付かって。
しかも、近い。
カフェにいるらしいので、なかなか見付からなかったようだ。
俺はすぐさま朱音を迎えに行くことを尊にメッセージで知らせることに。
早く朱音に会いたい……
はやる気持ちを抑えながら、俺は駆けだした。
+
+
+
――いた!
俺は尊に教えて貰った場所に向かうと、広場にあるベンチに朱音達は座っていた。
二人とも笑みを浮かべながら何か話をしているようだ。
そんな朱音の姿を見て、俺はやっと安堵の息を漏らす。
ほんと、良かった。これ以上のすれ違いが起きなくて。
「朱音、尊!」
俺が声をかけると朱音は弾かれたように顔をこちらに向けてくれたのだが、なぜか頬を真っ赤に染めてしまう。
かと思えば、すぐさま隣にいる尊の方を見た。
待って。ねぇ、なにその反応……どうして顔を真っ赤にした後、尊の方を見るの!? しかも、尊も穏やかに微笑みながら朱音に何か言っているし。
一体、この十数分の間になにがあったのだろうか。
まさか、朱音。尊のことを好きになったとか!?
尊って俺から見てもカッコイイし、頼れるし……
頭の中でぐるぐると現実逃避したくなる妄想が浮かんできてしまったけど、俺は二人に近づくことに。
「匠、早かったね」
「すぐ近くにいたんだ。ありがとう。朱音と一緒にいるのを教えてくれて」
俺はそう言うと、朱音を見て口を開く。
「朱音。その……ちょっと聞いて欲しい。さっき一緒にいた女性なんだけど、あの人が滝口君の思い人なんだ」
「……うん。聞いたよ。滝口君からメッセージきたの。ごめんなさい、急にあんな態度を取ってしまって……相手の方や滝口君にも失礼だった……」
「いや、朱音が謝ることはないよ」
朱音は俯いたまま目を合わせてくれないんだけど、もしかしてまだ誤解が解けていないのだろうか?
首を傾げていると、尊が口を開いた。
「あのさ、匠。詳しい事情は言えないんだけど、露木さんのことを少し見守っていて欲しいんだ。時間がかかると思うから」
「時間……」
その事情をいますぐ聞きたい。
すごく気になるんだけど。
でも、尊がここまで言うんだから、きっと深い理由があるんだろう。
俺はもやもやした思いを抱えながら、大きく頷いた。
「あのね……その……ごめんなさい。少し挙動不審になるかも……」
朱音が俺の方を見ながら言う。
やっと朱音と視線が交わったことが嬉しいので、心の底から安堵した。
「全然いいよ。俺も挙動不審になるし。でも、何かあったら遠慮せずに言って」
「……うん」
朱音が小さく首を縦に動かす。
――いつか、理由を知れるといいなぁ。今は聞かない方がいいようなので聞かないけど。
「じゃあ、朱音。行こうか。滝口君達が待っているから」
「うん」
朱音は立ち上がると、尊の方に体を向けた。
「いろいろ相談にのってくれてありがとうございました。ケーキと紅茶もごちそうさまでした」
「いいよ、全然。いつでも相談に乗るから一人で抱え込まないでね」
「ありがとうございます」
朱音が尊にお礼を言えば、尊が俺達に手を振る。
「二人とも気をつけて帰ってね」
「あぁ、尊も。いろいろありがとう。あとで連絡する」
俺は尊にそう言うと、朱音と共に滝口君達の元に向うことになった。
活動報告に妹ばかり~のハロウィンSS掲載しました!
新婚編なので未来のお話ですが…
お時間あるときにでも。