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最高の卒業式

 ――朱音、綺麗だなぁ。今日のパーティーが終わったら美智に動画のデータを速攻貰おう。永久保存版にする。絶対に。


 俺は隣にいる朱音をちらちら見る。


 今日の朱音は純白のドレス姿だ。

 しかも、式に相応しいブルースターを模した装飾品付きのもの。

 ウェディングドレスではないけれども、俺にはブライダルに見える。


 ヘアスタイルやメイクもいつもと違って大人っぽい。


 ――ずっと見ていたい。ずっと傍にいたい。今すぐチャペルに行きたい。


 いま朱音は俺の家族と共に団欒中。

 いわずもがな、朱音の隣は俺がキープしている。当然だ。


 ぱっと見ると、家族を交えてのアットホームな結婚式っぽい。

 朱音との結婚式はガーデンウェディングもいいなぁ。シロも連れて。


 でも、二人きりで海外ウェディングも良い。

 披露宴だけ国内でしてさ。


 妄想が止まらない。卒業式なのに。


 しかし、朱音が来てくれたことを全く知らなかったため、最初は本当に驚いた。

 朱音に電話をするついでに外の空気を……と会場の外に出ようとしたら、お祖父様達が物凄い勢いで止めにかかった時は不審に思ったけど。


 急になんで? 外行くのを止められる理由がわからなくてただ怖いんですがっ!

 ……って思ったけど、朱音と鉢合わせしてわかった。

 俺の足止めだったと。


 朱音とばったり会った時、結婚式だったっけ? と本気で思った。

 正装した父がエスコートしていたし、美智達もいたし。


 実際は違っていたが……


 それでも、朱音が来てくれた事がすごく嬉しい!

 一緒に卒業パーティーに参加することなんて出来ないって思っていたから。


 高校生活最後を朱音と一緒にと思っていたけど、俺と朱音は全く違う高校。

 しかも、朱音と俺は婚約していないので婚約者枠での参加も無理。


 それなのに、一緒に過ごせている。幸せ過ぎる。最高のプレゼントだ。

 まぁ、どういう申請理由で入れたのか気になるけど。


 理由は後で聞くことにして、今は朱音との時間が大切だ。

 俺は朱音へと視線と意識を戻せば、ちょうど視線が交わり、朱音がふわりと微笑む。

 それを見て胸がぎゅっと締め付けられて鼓動が高まり、頬が熱くなる。


 朱音には敵わない。絶対に――……ん?


 何度か感じた視線を肌で感じたので周りを見れば、五王家がにやにやと俺を見ている。


 ――卒業式までかっ!


 うちの家族はいつも通り安定だなぁと思っていると、「匠」という臣達の声が背に届く。

 俺が振り返れば、臣達がこちらにやって来るところだった。

 朱音も臣達だと気づいたらしく、美智との会話をやめると顔を向け会釈をする。


「やっぱり露木さんだ。上まで会場のざわめき聞こえてきたから」

「無理もないですよ。匠が公式の場で身内以外をエスコートしたのは初めてですからね」

 臣達の言葉を聞き、俺は会場がざわめいた事を知る。


 朱音ばかり見ていて、全く気付いていなかったのだ。


 ざわめいたのか……俺が朱音に見惚れている間に。知らなかった。


「こんばんは。卒業おめでとうございます」

 朱音が臣達にお祝いの言葉を述べれば、臣達が「ありがとう」と言って微笑む。


「匠、良かったね。露木さんが来てくれて」

「あぁ、本当に。でも、俺最初朱音が来てくれているのを知らなくて、鉢合わせしてびっくりだったんだ」

「えっ? 知らなかったの?」

「五王家からのサプライズの卒業お祝いなんです。お兄様をびっくりさせたくて」

 美智が俺の代わりに臣達に言えば、臣達もびっくりしていた。


「そりゃあ、驚愕だよね」

「するする。僕もびっくりしたもん。下で大きなざわめきがあったから、なんだろう? って、覗いたら匠にエスコートされた露木さんだったからさ」

「露木さん、ドレスすごく似合っているよ。匠、二重にびっくりだったでしょう?」

「あぁ」

 尊の言うとおりだった。

 朱音がいてびっくりしたし、朱音のドレス姿が綺麗だったから。


 朱音も交えて臣達と雑談をし始めると、ふと健斗が静かな事に気づく。


 いつもはよくしゃべるのに、今は瞳を揺らして不安そうだ。

 一体、どうしたんだろうか。


「健斗? どうした?」

「あの……」

 俺が健斗に声をかければ、健斗は朱音の方を見た。

 急に健斗に見られた朱音は首を傾げている。

 そんな朱音の隣で美智が目を光らせた。


「ごめんね」

 健斗は朱音に向かって深々と頭を下げ始めてしまう。


「えっ……あの……?」

 突然、謝罪をされ朱音が戸惑うのも無理はない。

 俺達は健斗が謝罪した理由はわかるけど、朱音はわからないから。


 おそらく、健斗が謝罪しているのは以前トラブルになった件だろう。

 琴音の事を信じて肩をもち、朱音を悪く言ったことだ。


「匠君」

 戸惑う朱音が少し声を震わせ俺の名を呼んだので、俺は大丈夫だと大きく頷く。

 朱音はあの時のことを知らないから。

 言って傷つける必要もない。


「健斗はちょっと朱音の事を誤解していた事があったんだ。その事を誤っているんだよ」

「誤解……」

 朱音が呟くように言えば、健斗の体がビクっとする。


「あの……気にしないで下さい」

 朱音はそう言うと健斗に向かって微笑んだ。


「もしかして、兄さん露木さんに謝りたくてずっとそわそわしていたの?」

 隼斗の言葉に健斗はバツが悪そうな顔を浮かべて頷く。

 健斗の隣にいる臣がそんな健斗を見て肩を竦めれば、ちょうど館内に放送が入った。


『まもなくダンスの時間となります。卒業式最後の思い出にぜひご参加下さい』

 どうやらダンスの時間らしい。

 ダンスは後半なのでそろそろパーティーも終わりに近づいているのだろう。


「そろそろ、ダンスの時間かぁ」

「もうそんな時間なんだな」

「えぇ。早いです。匠、気合いを入れて下さいね。申し込みが一番殺到するのは匠だと思いますので」

「いや、ダンスは……」

 俺は朱音の方をちらりと見た。


 朱音がいるのに他の子と踊るのはなぁ。それに、見ず知らずの場所で朱音を残すのは……

 五王家も春ノ宮家もいるけど、この中で一番朱音と親しいのは俺だ。

 朱音だって初めての場所で不安だから、一番親しい俺が居た方が少しは安心するだろうし。


「踊って来なよ。最後なんだからさ」

 朱音の傍に残ると言おうとしたら、父にそう言われてしまう。


「いや、でも……」

「匠と踊りたい子だっているよ? 匠と踊ったっていう思い出が欲しいって子もいると思うからさ。僕だって秋香がいたけど色々な子と踊ったし。あっ、秋香。妬いちゃう?」

「妬くわけありません。遠い昔の事なのに。それに、私、高校の頃は貴方とお付き合いしていませんでしたし」

「えー、そうだけどさ。たまには焼きもちを妬いて欲しいなぁ。全く妬いてくれないのも寂しい」

「どうして母さんが焼きもち妬いてないってわかるの?」

 口ではそう言っても妬いているかもしれないのに。

 俺が首を傾げながら父に言えば、父は喉で笑う。


「だって、秋香は妬くと無言になるから」

「あなた、少し静かにして」

 図星だったのか、母が頬を少し真っ赤にさせて父を一睨みする。


「匠君。私の事は大丈夫だから気にしないで。ちょっと心細いけど、美智さん達もいてくれるから」

「「「そうよ、匠。朱音ちゃんの事なら任せて!」」」

 朱音の言葉に続くように、三つの声が綺麗に重なって聞こえた。

 美智と母、それから祖母の声だ。


 母が朱音の肩に優しく手を添え、もう片方の肩には祖母の手が。

 美智はケーキ片手に拳を握っている。

 三人とも、朱音を守る様に朱音の近くで「私達がいるものね~」と微笑めば、朱音がはにかむ。


「……ですよね」

 結束力固いもんなぁ。女子会と言って三人で外出するし。

 最近では祖母も入って四人だけど。


 俺がいなくても大丈夫そうな朱音を見て、ちょっと寂しい。


 朱音とダンスを! と思っても朱音はダンスが踊れないので不参加。

 そのため、俺は臣達と共にダンスを踊るために泣く泣く朱音と一時離れることに。




 +

 +

 +



 ダンスの時間が終わり、俺は朱音の元に足早に向かった。

 一瞬でも離れている時間が勿体ない。

 朱音との時間は大切な上に、今日は綺麗なドレス姿の朱音! 

 希少だ。


 俺がいない隙に朱音に近づく男がいるかもしれないと思ったが、そこは美智をはじめとした家族に念を押していたので心配ないはず。

 俺が朱音をエスコートして会場に入ったから、朱音を口説くような男はいないだろうけど。


「朱音!」

 朱音の所に戻れば、朱音が「おかえり、匠君」と微笑んでゆっくり俺の方へ近づいてきてくれた。

 おかえりって言葉は良いよな。

 なんか、自分の帰る場所に帰って来たって感じがして。


 緩む顔が抑えきれない俺に対して、朱音が口を開く。


「匠君がダンス踊っているのをはじめてみたけど、かっこよかったよ。本当に王子様みたい」

「本当!?」

「うん。でも……」

 朱音はちょっと視線を落としたので、俺は急に不安になり両手で朱音の肩に触れた。


「何かあったのか?」

「ううん。その……匠君が色々な子と踊っていて、私も匠君とダンス踊りたいなぁって思ったの……匠君と離れてちょっと寂しくなったのかな? なんかもやもやし出しちゃって……羨ましいなぁって……私、ダンス踊れないから匠君と踊れないし……」

「えっ!?」

 朱音が俺とダンスを!

 しかも、寂しいって。


 待って。五王家の卒業祝いってこれも含むの?

 卒業祝いって凄い。


「屋敷で踊ろう。少しだけステップ覚えてあとは自由に。シロ達も一緒にさ」

 俺の提案に朱音は目を大きく見開いていたけど、やがて目尻を下げて大きく頷き、俺の手をぎゅっと握った。


 繋いでいる手の指先が熱い。


 いいのか? こんなに幸せで。

 今ここで叫びたい。俺は幸せだと。

 どうか、大学生でもこの満たされた時間が続きますように……


 こうして高校最後の日は、俺にとって思い出に残るものになった。








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