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匠の卒業式

 今日は六条院の卒業式。

 卒業式の卒業生代表挨拶は元生徒会長がやらなければならないので、今年は俺が代表挨拶をした。

 つい先ほど式は滞りなく終わり、卒業生は部室や教室などで最後の高校生活の思い出を写真に残している。

 俺は自分のクラスではなく廊下のホールで臣達……いつものメンバーとしゃべっていた。


 この場にいる臣、尊、隼斗、健斗とは大学も一緒。

 なので、あと四年間は一緒にいられる。

 高校、大学を卒業して社会人になったら、それぞれ多忙になるため、こんな風にゆっくりしゃべる時間は少なくなるだろう。


 俺達の周りには部活の後輩達から花束を渡されて泣いている子や、友達同士で写真を撮っている子まで様々いた。


「なんか、卒業式って感じですね。ほとんどがエスカレーターなので感じませんでしたが、あぁいうのを見ていると感じます」

 隣にいる臣が後輩から花束を渡されている子を見て言ったので、俺達は大きく頷く。


「なんかいいよねー。ほら、僕達って部活入っていなかったから」

「生徒会の後輩達は、式の片づけやパーティー準備で今すごく忙しいからな」

 パーティーは七時からなので、まだまだ時間がある。

 だが、その間に色々あるため、卒業生達は家に戻らず学校で過ごす。

 俺達旧生徒会はパーティーの前に学校関係者と挨拶があったりするし。


「パーティーで生徒会の子達と写真撮りたいな」

 尊の言葉に俺は同意したので「あぁ」頷く。


「でもさ、やっぱり羨ましいよ。僕も可愛い後輩からの花束欲しいし、今すぐかわいい後輩の子と写真撮りたいなぁ」

「ついさっき、さんざん撮られたのにまだ撮りたいんですか」

 健斗に向かって、臣は盛大に呆れを含めた声で言う。


 ついさっきまで俺達は「五王様達。一緒に写真撮って下さい!」と一列に並ばれ、まるでアイドルのように写真撮影会を行っていた。

 今はその流れが終わり、ぐったりとしたまま自分達の教室がある棟のホールに設置されているソファで休んでいる。


「同級生のかわいい子と後輩の女の子と違うよー。来ないかなぁ。後輩の女の子でかわいい子」

「あっ! ちょうど良いタイミングで来ましたよ。後輩の可愛い女の子。しかも、花束を持って」

 臣が右側へと顔を向ければ、健斗が「本当!?」と目を輝かせて臣の視線を追う。

 だが、何かを目撃してしまったらしく固まってしまった。


 どうしたんだ? と首を傾げれば、男子生徒と女子生徒の黄色い悲鳴が沸き上がる。

 まるでライブ会場のような熱気に、俺は訝しげに顔を向けた。


「……なんだ?」

 自分の目で原因を確認し、黄色い悲鳴に納得。

 そこには美智と棗の姿が。


 二人共、花束を二つずつ腕に抱えている。


 俺達が卒業した後は、この二人が六条院で実権を握ることになるだろう。

 女王陛下と、王子が――


 花束を持っている二人はとても絵になっている。

 まるで絵本から抜け出した王子様のよう。


 朱音がこの場にいなくて良かった! 絶対に棗の事を見たら顔を染めて見惚れたから!

 棗も天然で女子のハートを打ち抜いていく王子だし。


「ごきげんよう、みなさま」

 美智達は俺の前に到着すると、微笑んだ。


「卒業おめでとう、匠兄さん達。これ僕と美智からのお祝いの花」

 棗がそう言いながら臣達へ花束を差し出せば、臣達が「ありがとう」と笑顔でお礼を言いながら受け取っている。

 だが、健斗だけは受け取りながら震えていた。

 朱音の件で美智とバトルをしてから、あの件が堪えたようで、美智を見るとこんな感じに。


「匠兄さんへの卒業祝いの花は屋敷に送ってあるよ。胡蝶蘭を持って学校来るのはちょっと重いから、直接屋敷に送っているんだ」

「ありがとう」

「私達五王家からの卒業祝いは、ちゃんと準備させて頂いておりますの。きっとびっくりしますわ」

「びっくりするもの……? 楽しみにしているよ。ありがとう」

 びっくりするものと言われても全く思いつかず。

 車の免許を取得したから、もしかして車だろうか? 


 在学中は車の免許を所持していても、規則で乗るのは禁止。

 卒業したら自由に乗れる。

 朱音の行きたい所に連れて行けるし、デートの範囲も広がっていくはず。

 きっと二人の仲ももっと深くなるだろう。


 旅行も行きたいなぁと朱音の事を考えていたが、ふと朱音に俺の卒業式の写真を送ってないことに気づく。

 朱音に卒業式終わったと伝えねば。


 ――朱音と出会ってから二年。早かったな。高校生活。


 朱音とは高2で出会い、ずっと一緒にいる。

 高校卒業するまでには朱音と恋人同士になる! と思っていたが大学生までに延期されてしまった。

 だが、朱音とはこの二年間で進展があったから問題ない。

 きっと大学の卒業式までには恋人同士になっているだろう。

 四年もあるし。


「美智。朱音に写真送りたいから、俺のスマホで写真を撮ってくれ」

「私と棗のですか? それなら喜んで撮りますわ。ねぇ、棗」

「そうだね。二人で撮って朱音さんに送ろうか」

「ほんと、やめて。朱音、俺の写真よりも喜びそうだから」

 今日、俺の卒業式だから一応主役だし。

 どうせならば、卒業式で卒業生代表の挨拶をしている所を撮って送りたかったけど。

 そっちの方が卒業式っぽいし。


 美智に写真を撮って貰うために制服のブレザーからスマホを撮りだそうとすれば、ちょうど胸ポケットに入れていたスマホが震動する。

 短めの振動だったため、メールかメッセージアプリだろう。

 俺は取り出すとディスプレイを眺めた。


 ――朱音からだ!


『卒業おめでとう、匠君』というメッセージとスタンプが届いている。

 朱音に写真を送ろうと思ったのに、朱音から来た。


 以心伝心。そんな言葉が浮かぶ。


「俺と朱音はやっぱり心と心が繋がっている。運命だ」

「お兄様、急に何を電波的な発言を……?」

 美智が訝しげに俺を見ている。


「朱音から卒業おめでとうってメッセージが届いたんだよ」

 美智へ差し出そうとすれば、スマホがまた短く振動した。


「ん?」

 スマホを見れば、今度は動画が届いているようだ。


 朱音からの動画! と嬉々と開き見た瞬間、俺は衝撃を受けて叫んでしまう。


「待って! ねぇ、待って! なんで春ノ宮家のいとこ達といるの!?」

 再生マークが映し出されている静止画には、朱音を中心にして龍馬兄さん達が周りにいる。

 いとこ達は、俺と美智さえ揃えば全員集合だ。


 まず、俺は声を掛けられていないし、集まる話も聞いていない。


 なんで、朱音が俺のいとこ達と一緒にいるの!?

 俺、全く聞いてない。どっちからも聞いてない。


「なんですって!?」

 どうやら美智も知らなかったらしい。

 俺のスマホを覗き込んだ。


「私、聞いていませんわ!」

「俺も聞いてない」

「お兄様、再生!」

「そ、そうだな」

 現実を受け止めきれなかったが、俺は状況を把握するために動画の再生をすることに。


『匠君、卒業おめでとう』

 朱音がお祝いの言葉を画面越しに言ってくれたので、俺は「ありがとう」とつい言葉が出てしまう。

 朱音のお祝いに続き、いとこ達の「おめでとう!」という沢山の声が。

 お祝いの言葉は嬉しいけど、まずなんで朱音といるの?


『悪い、匠と美智。実はさ、いま春ノ宮のいとこ達から朱音ちゃんの卒業祝いをしているんだ。ちょうどみんなが集まれるのが今日しかなくて。あまり間をおいてお祝いっていうのもなんだし。ほら、匠の卒業祝いもあるだろ? だから、二人が卒業式で来られないけど、実行しちゃった。五王家で朱音ちゃんの卒業祝いをしたって秋香叔母さんに聞いていたしさ』

 龍馬兄さんが拝むようにしているのが映し出されている。

 背景から店名まで特定は出来ず。


 ねぇ、そこどこ!?


 テーブルの上には「卒業おめでとう、朱音さん」と書かれたケーキやプレゼントなどが乗っている。


『匠の卒業祝いは、来週春ノ宮家にみんな集まるだろ? その時にやることになったんだ。朱音ちゃんも来てくれるって!』

 朱音も来てくれるのか。

 それは嬉しい。


『あっ、そうそう! 春ノ宮家でアットホームなお祝いをテーマに匠の卒業祝いをするから、朋佳が手作りケーキ頑張って作るってさ』

「最後の爆弾発言だよね!? 朋佳姉さん、生粋のお嬢様で包丁すら持ったことないじゃん」

 俺はすかさず動画にツッコミを入れてしまう。


 店でお願いしたい。

 朋佳姉さん、お菓子作りなんてした事ないはず。

 それに、作れたとしてもあの人おもしろい事好きだから普通のケーキは作らなそう。


「というか、朱音と俺のいとこ達は俺の知らない間にここまで距離縮めていたの?」

 春ノ宮の血筋すごいなぁと思った。







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