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美智VS匠母

 ――講義終了! 朱音と会える!


 本日の教習所の学科が終わったので、俺は帰宅するために受付や休憩所などがあるホールにいた。

 今日の予定はもうない。そのため、朱音とやっと合流できる。

 女子会だからと美智達にちょっと邪険にされたが、今まで朱音と美智、母の三人の女子会を堪能していたから、そろそろ俺が合流しても大丈夫だろう。


 俺は鞄からスマホを取り出す。

 無論、朱音に連絡するために決まっている。


 母達は女子会を楽しんでいるらしく、二時間くらい前にタピオカミルクティーの写真が送られてきていた。

 確かに写真欲しい! とメッセージを送信したが、俺が望んでいたのはタピオカミルクティー店の情報ではなく、朱音の写真だったのだが……


 朱音の写真と書いていなかったけど、そこは察して欲しかった。


「朱音達、今どこかな?」

 俺は嬉々としてスマホを操作していると、外が騒がしいことに気づく。

 一体、何があったんだろう? と思いながら、俺はスマホから視線を外すと窓の外へと顔を向ける。

 するとそこには、教習所の生徒達の姿が。


 皆、入口の方を見ていた。


「おい、入口にすっげぇ美少女が待っているぞ!」

「マジか!」

「レベル高すぎて誰も声かけられないくらいらしいぞ」

「一体、誰の彼女だ?」

 俺はざわつきに一瞬気を取られたが興味がないため、すぐにスマホへと意識を向ける。

 俺が興味あるのは朱音だけだ。


 待っていてくれ、朱音! と、メッセージアプリを起動させたときだった。

「五王さん」と声を掛けられてしまったのは。


「ん?」

 ゆっくりと顔を上げれば、そこには小林君の姿が。

 彼は俺と同じ高3。私立高校に通っているそうだ。

 何度か講習が一緒になった時があって、話をする間柄になった。


「外にすごい美少女が待っているんだけど、五王さんの彼女?」

「俺? 俺の朱音はいま女子会の最中だから違うよ」

 そう答えれば、彼は首を傾げる。


「もしかして、お姉さん?」

「俺に姉はいない。妹ならいるけど」

「あっ、じゃあ妹さんかな。大学生くらいだと思ったんだけど。五王さんを探しているみたいだよ」

 美智を大学生に間違われたことがなかったため、俺は眉間に皺を寄せた。


 ――一体、誰が来ているんだ?


「小林君、どんな人が来ているか教えてくれない?」

「清楚系の女性だよ。なんかお嬢様って雰囲気で守ってあげたくなるタイプ」

「清楚系の大学生で守ってあげたくなるタイプ……? 全く見当が付かない」

 一瞬、美智が朱音達と共に俺を迎えに来てくれたのかもしれないと思ったけど、美智は守ってあげたくなるタイプではない。

 どちらかと言えば、自ら先陣をきって戦うタイプだし。


 じゃあ、誰かと問われれば、やっぱりわからない。


「心当たりないけど、会いに行ってみるよ。教えてくれてありがとう」

 俺は礼を言って先に進もうと思えば、小林君にがしっと腕を掴まれてしまう。


「心当たりがないなら危ないよ。五王さんのストーカーかもしれないし。俺、先生呼んで――」

 その時だった。小林君の声を遮るかのようにスマホが震動したのは。

 視線を手元のスマホへと向ければ、ディスプレイには朋佳姉さんという文字が。


「……朋佳姉さん? って、まさか!?」

 着信を受け、美少女の正体がわかった気がする。

 いや、しかし決して朋佳姉さんは守ってあげたくなる美女ではない。

 あー、でも外見は清楚系でお嬢様だ。

 守ってあげたくなるタイプに見えなくもない気がする。

 中身は外見と真逆だけど。

 お祖父様、よく「朋佳―っ!」と叫んでいるし。


 朋佳姉さんって見た目は完璧なんだよな。

 でも、その見た目と裏腹なのは、従弟だからわかる。

 彼女が口を開けば、「匠。私、暇なの。だから、おもしろい話をして?」と無茶ぶりしてくるのも通常。


 迎えに来ているのが朋佳姉さんなら、ちょっと怖いなぁ……予告がないのが……

 そんな事を考えていると、「出なくて大丈夫?」と小林君に言われてしまう。


「そうだな。電話に出てみるよ」

 俺は首を左右に振り、不安を追い払うと電話に出た。


「もしもし? 朋佳姉さん?」

『匠? どこにいるの?』

「やっぱり教習所の外で待っているのって朋佳姉さんなんですね」

『そう、私よ。匠を迎えに来たの』

「急に来られても困るよ。俺、朱音の所に行かなきゃならないんだからさ」

 事前に連絡をくれれば良いのに。

 俺だって予定があるから、急に言われたって困る。


『あら、そうなの。匠が朱音さんと約束していたなんて知らなかったわ』

「約束はしてないけど……今、朱音は美智と母さんと女子会中なんだ。だから、俺も行こうかなって」

『まぁ! 三人仲良しね。私も参加したいわ。でも、今日は映画が見たい気分なの。だから、朱音さんと約束していないなら、私と映画を行かない? たまには従姉わたしと二人で出かけましょうよ。朱音さん好みのお店を見つけたの。映画終わったら立ち寄りましょう』

「朱音好みの店?」

『えぇ。和雑貨とカフェが併設されているの。古民家をそのまま移築して作ったお店よ。下見にどうかしら?』

「朱音の好みそうな店……」

 俺の心は揺れていた。

 朱音と合流する気がいたが、朱音の好みそうな店をリサーチするのも良いかもしれない。


『叔母様達、朱音さんと会えるのが久しぶりだから、きっと匠が入る隙がないわよ? 今日はカフェの下見の方が良いんじゃないかしら。それから朱音さんが欲しがっているコスメポーチ探しも付き合うわ』

「ポーチ? 朱音、ポーチ欲しいの? 初耳なんだけど」

『ちょっと前に朱音さんと春ノ宮の従姉妹達のグループでトークした時に話になったの。朱音さん、色付きリップとかしか持っていないから、大学に合格したらコスメ一式欲しいって。その流れでポーチの話になったのよ。匠、コスメポーチって言ってもよくわからないでしょう? 探すのを手伝ってあげるわ』

「本当? ありがとう、朋佳姉さん」

 確かに朋佳姉さんの言うとおりかもしれない。

 女子会楽しむからって言っていたから俺が入る隙なさそうだし。

 今日は朋佳姉さんに付き合あうことにして、カフェとポーチ探しにしよう。


 でも、朱音に会いたい。どうしようか……あっ! 母さんに朱音を夕食に誘って貰うか。

 そうすれば朱音と会える。





 +

 +

 +


(朱音視点)



 ――ど、どうしよう。



「お母様。朱音さんが卒業パーティーに着るドレスは私が選びますのでお母様はお母様が着るドレスを選んでは?」

「いいえ。私が朱音さんのドレスを選ぶから、美智が自分のドレスを選んだらどうかしら?」

 私の目の前では、美智さんと匠君のお母さんがにっこりほほ笑みながら瞳同士を合せて視えない火花を散らしている。

 そんな二人を見て、私はただおろおろとしていた。


 私達がいるのは、ドレスや宝飾品などを販売しているショップだ。

 匠君のお母さんのお友達が経営しているお店の一つで、私が以前ウェディングドレスを試着させて貰った系列店。

 事前に匠君のお母さんが来店を告げていたようで、匠君のお母さんのお友達である円加さんが待っていてくれた。


 匠君の卒業パーティーに参加することになった私は、ドレスを持っていない。

 そのため、匠君のお母さんが「ドレスを買いに行きましょう!」とここに連れて来てくれた。


 到着していざ選ぼうという時、どちらが私のドレスを選ぶかでもめ始めてしまったのだ。


「私、着物で参加しますので結構ですわ。お母様、ご自分のドレスを選んで来て下さい。私は朱音さんと一緒にドレスを選びますので」

「私も着物で参加する予定なの。だから選ぶ必要はないわ。美智、たまにはドレスにしたら?」

「お母様こそ、たまにはドレスになさったら? お父様もお母様のドレスを見たいと思いますわ」

 ど、どうしよう……私は二人をどう止めるべきかと迷っていると、私の隣にいた女性が深い溜息を零す。

 彼女はベージュのスーツを着こなし長い髪を纏めている。

 肩を竦めている彼女こそ、匠君のお母さんのお友達の円加さんだ。


「朱音さん、二人は放っておいてドレスを選びましょうか。新作のドレスを入荷しているのよ」

 円加さんが私の腰に手を当て奥へと促したので、私は視線を美智さん達へと向ける。だが、二人は全く気付いていないようだ。


 お互い微笑み合っているが、目が笑っていない。


「あの……美智さん達は……」

「いいの、いいの。いつも匠に独占されているから、匠がいない時は自分が選ぶ! って、二人とも意地になっているから譲り合いなんてしないし。少し頭冷やす時間も必要よ。着るのは朱音さんなんだもの。二人には装飾品などを選んで貰えば良いわ」

 にっこりと微笑む円加さん。


 彼女は私をメインを展示しているスペースへと案内してくれた。

 マネキンが三体飾られている。

 三体ともドレスを着ているんだけれども、そのドレスがマーメイド、エンパイア、ベルラインなど三種類とも全部違って素敵だ。

 中でも私が惹かれたのは、真ん中に飾られていたベルラインタイプのドレスだった。


 ネックやスリーブのデザインはビスチェ風になっており、スカート部分はベルライン。

 ホワイトの生地で作られ、所々にブルースターを模した装飾品が縫われている。


「……かわいい」

 ついぽつりと呟いてしまうくらいに可愛い。


「もしかして、真ん中のドレスかしら?」

 私が視線を釘づけさせていたのに気付いた円加さんは微笑んだ。


「はい。素敵です」

「試着してみない? きっと似合うと思うわ。待っていてね。今、朱音さんのサイズのドレス持ってきて貰うから」

 円加さんが店員さんに指示をしていると、「円佳! 放置するなんて酷いわ」という匠君のお母さんの声が届く。

 そちらへと顔を向けると、匠君のお母さんと美智さんがこちらにやって来た。


「二人共、朱音さん放置しているから置いてきたのよ。朱音さんが気になったドレスがあるから、今から試着する所なの」

 円加さんが視線で向けたドレスを見て、二人共目を大きく見開く。

 とても微妙な表情をしていて、何か言いたげだ。


「何か問題でも?」

「お兄様がこれを見た時言い出しそうだなぁって思ったんですわ」

「なんて?」

「「ウェディングドレスみたい! って興奮して言いだしそう……」」

 そんな匠君のお母さんと美智さんの声が綺麗に重なった。








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