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女子会

 ――なんか、妙に怪しいんだよな。


 リビングで俺にじゃれているシロを撫でながら、すぐ傍にいる母の姿をちらちらと見ていた。

 母の傍には美智がいて、二人共楽しそうに話をしている。

 美智も母も服装に気合いが入っていて、まるでこれからデートにでも行くみたいだ。

 今日は二人でお買い物らしいが、これは絶対に二人で買い物の雰囲気ではない。

 明らかに朱音も一緒だ。


「あのさ、今日って二人で買い物行くんだっけ?」

 俺がさりげなく尋ねれば、母が「えぇ、そうよ」と言って頷く。


「本当に二人? 朱音も一緒に行くんじゃないの? 朱音も今日外出するって言っていたしさ」

 俺の質問に対して、二人は目を大きく見開く。

 その反応が正解だと告げてくれている。


「匠は相変わらず朱音ちゃんの事に関しては感が鋭くなるのね」

「……探知能力がすごいですわ。ちょっと怖くなるくらいに。というか、お兄様。一々、朱音さんに外出するかどうかを休日ごとに聞いているんですか?」

 美智も母も微妙な表情で俺を見ながら言う。


「ほら! おかしいと思ったんだよ。美智達がわかりやす過ぎるだけだってば。朱音がいるならば、俺も行きたい。これから教習所だから終わってからの合流になるけど」

「駄目よ。今日は女子会なんだから」

「そうですわ。お兄様女子じゃないですし。それに、お兄様は朱音さんの入試が終わってからお会いになったんでしょう?」

「匠ばかりずるいわ。今日は三人で一緒に楽しむって決めていたの。ねぇ、美智」

「えぇ! ちゃんとプランも決まっているので」

 美智と母は弾んだ声を上げると、満面の笑みを浮かる。


 俺だって朱音と会いたい! 

 確かに入試の時に朱音の受験がどうだったか知りたくて、会いに行った。

 でも、俺は朱音に関しては常に会いたいと思っている。

 だから、今だって朱音に会いたくて仕方がないのだ。


「俺も行きたいんだけど。今日、教習所以外予定ないし」

「さっきもお伝えしたとおり、女子会だから駄目ですわ。また今度にして下さい。それより、お兄様。そろそろ教習所に出発しなくてはならないお時間では? 遅れますわよ」

 俺はスマホを取り出して時間を確認すれば、確かにそろそろ行かなければならない時間だ。

 だが、朱音との買い物に俺も同行したい。

 朱音の服を選びたい。


 ――仕方がない。教習所が終わってから母さんに電話して合流するか。


 俺はそう結論を出すと、一旦引き下がり「いってきます」と言ってリビングを出た。





 +

 +

 +


(朱音視点)



 日曜の昼下がり。

 私は美智さんと匠君のお母さんと共に、カフェにやって来ていた。

 コンクリートが打ちっぱなしになっている店内は、女性のお客さんでいっぱい。

 空いている席はなく、カウンター席までぎっしりだ。

 ちょうどお茶の時間帯のため、外にはお客さんが並んでいる。


「混雑する前に入れて良かったですわね」

「はい」

 私は美智さんの言葉に頷く。


 私達が座っているのは、店内の中心にあるテーブル席。

 私と美智さんが隣同士に座り、匠君のお母さんがテーブル越しに座っている。

 白く曇ったガラステーブルの上には、最近ちらほら飲んでいる人を見かけるタピオカミルクティーが。


「まぁ! これがタピオカミルクティーなのね。ずっと飲んでみたかったの」

 匠君のお母さんが目を輝かせながらグラスを見詰めているんだけど、それがすごく可愛らしい。

 いつも穏やかで上品な雰囲気だから、そのギャップで余計そう思うのかも。


 可愛いなぁ。きっと匠君のお父さんは、匠君のお母さんのこういう所を好きになったのかな。


 一方の美智さんは、タピオカミルクティーをスマホで撮影していた。

 このお店はSNSでの宣伝をお客さんに勧めているお店だ。

 テーブルの上にあるメニュー表の所に小さな黒板があり、「良かったらお店の事をSNSで宣伝してね!」と写真付きで書かれている。


 確かにSNSに掲載してくれれば、宣伝になるなぁと私は納得。

 お店も写真映えするような雰囲気だし。


 私はアカウントが持っていないので、宣伝は出来ないけれども……


「お母様。せっかくなので写真を撮ったらいかが?」

「そうね。せっかくだから撮りましょう」

 匠君のお母さんが鞄からスマホを取り出すと、ディスプレイを見て固まってしまう。

 何かあったのだろうか? とちょっと不安が過ぎった私は、尋ねる事にした。


「どうかしたんですか?」

「写真を要求するメールが届いていたの」

「写真ですか?」

 なんの写真だろう? と思っていると、隣に座っている美智さんが「あぁ……」と呟きながら遠い目をした。

 どうやら心当たりがあるみたいだけど、一体誰なんだろう?


「タピオカミルクティーでも撮って送ってみては? 宣伝してね! とお店側でも書いて下さっていますので」

「そうね。なんの写真を送って欲しいのか書かれていないし」

 匠君のお母さんはタピオカミルクティーを撮影してスマホを操作し始める。

 画像の送信が完了したらしく、「さぁ、いただきましょう」とにっこりと微笑む。


 私と美智さんが返事をすると、ストローに口を付ける。

 濃厚なミルクティーと共にタピオカが口内に流れ込んだので、私はもぐもぐと咀嚼をする。

 初めてタピオカを食べたわけじゃないけど、見た目と裏腹にもちもちとした弾力があり不思議な食感はまだ慣れない。

 きっと頻繁には食べないからかもしれないが。


 今度はミルクティー以外の味も試してみたいなぁとぼんやりと思っていると、美智さんに声を掛けられたので、私はストローから唇を離す。


「朱音さんの卒業式は3月1日でしたわよね?」

「はい。もう少しでクラスメイトとお別れなのが寂しいです」

「そうですわよね……進学や就職などでバラバラになってしまいますから……お母様も卒業時期は寂しかったですか?」

「……」

 匠君のお母さんはミルクティーを飲むのを止めると、やや間を空かせて首を傾げる。


「覚えていないわ。もう昔過ぎて。でも、不思議なことに学生時代の友達と会うと懐かしくなるのよね。あの頃の事を思い出して。朱音ちゃんは、お別れするのが寂しいって思えるクラスメイトと出会えた事は喜ばしい事だわ」

「はい。匠君達のお蔭です。きっと前の私なら、自分で壁を作ってしまってそんな事は思わなかったので」

「良かったわ。朱音ちゃんへ良い影響を与えられていたのならば。今朝の事といい、うちではアレだから……」

 匠君のお母さんと美智さんはまた遠い目をして宙を見詰めだす。

 そして深い溜息を吐き出した。


 ――一体、どうしたのだろうか? 今朝、匠君と何かあったのかな?


 聞いて良いかわからず、私は話を別の方向に持って行くことに。


「あの! 匠君に聞いたんですけど、六条院の卒業パーティーではダンスを踊るんですよね? 美智さんも踊れるんですか?」

「えぇ、一応習いました。実はその件で朱音さんのご予定を伺いたかったんです」

「予定ですか……?」

「そうなの。朱音ちゃん、匠の卒業式の日って空いているかしら?」

「匠君の卒業式ですか……? 予定見てみますね」

 私はスマホを取り出すと、スケジュールアプリを起動する。

 その日には「匠君の卒業式」としかアイコンが出ていないので、予定が入らない限り問題ないようだ。


「大丈夫です」

「良かったわ……! 卒業パーティーに朱音ちゃんも良かったら参加して貰えないかしら? 五王家から匠へサプライズの卒業プレゼントを考えたんだけれども、物よりは朱音ちゃんとの思い出の方が最高のプレゼントになると思ったの」

「私は大丈夫ですけれども、卒業パーティーはご家族のみ参加と聞いています」

「正確には家族と将来家族になる者……つまり婚約者ね。心配しないで。その点はクリア済みなの。学校側からも許可貰っているのよ。生徒会の了承を得ているし」

「生徒会ですか……?」

 私が首を傾げれば、「生徒会が主催者なんです」と美智さんが教えてくれた。


「朱音ちゃんの了承も頂いたし、午後からの予定を変更してドレスを買いに行きましょう!」

「ですが、お母様。お兄様が教習所終わってから合流するって言いだしそうですわ。そうなってしまったら、サプライズになりません」

「そうねぇ……」

 匠君のお母さんは顎に手を当てて思案し始める。

 少し時間を空けると、口を開いた。


「朋佳達の中で誰か手が空いている人がいるか聞いてみるわ。匠の足止めに協力して貰いましょう」

「あら、素敵。朋佳姉さんが適任だけれども、空いているかしら?」

「聞いてみるわ」

 匠君のお母さんは連絡するためにスマホを手に取った。




 

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