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御機嫌よう、露木朱音さん

 朱音が通う塾の傍には、送迎のために車が数台停車している。その中に五王の車もあった。

 俺と美智は車の隣に立ち、朱音の見送りをしている。


「朱音、今日はわざわざ六条院まで来てくれてありがとう。嬉しかった。朱音のお蔭で霧が晴れてすっきりしたよ」

 朱音は俺の言葉に対して、首を左右に振る。


「私は何も……でも、匠君が元気になって良かった」

 はにかみながら言った朱音が愛しい。

 朱音が俺の事を心配してわざわざ六条院まで来てくれたなんて!

 ここで別れるなんて寂しい。もっと一緒に居たいが、彼女も塾がある。


 俺も朱音と同じ塾に通うか迷ったが、家の付き合いでパーティーなどの外出が多く、定期的に通うことが不可能だったため断念。


「朱音さん、ではまた」

「はい! 今日は美智さん色々ありがとうございました。六条院の手続きなどもして下さって」

「いいえ、そんなことは労力ではありませんわ。朱音さんにも会えましたし」

 美智はにっこりと微笑んだ。


「さぁ、匠様達。名残り惜しいですが、そろそろ露木様の塾のお時間ですので……」

 国枝に言われて、俺は肩を落とす。

 楽しい時間というものは、どうしてこんなにも早く過ぎ去ってしまうのだろうか。


「朱音、いつもの時間くらいに電話する」

「うん」

 朱音は頷くと「またね」と手を振り、国枝に軽く会釈して塾へと向かって行った。

 俺と美智は朱音が建物に入るのを見届けると車に乗り込む。

 助手席に国枝が乗り、俺と美智は後部座席へ。


 レザーのソファに身を沈めて思うのは、ついさっき別れたばかりの朱音のこと。

 もうすでに会いたくて仕方がないのだ。


「朱音に会いたい」

「数秒前に別れたばかりですわ。お兄様」

 隣に座っている美智が言った。


「俺はいつでも朱音に会いたいんだよ。早く朱音と結婚して一緒に暮らしたい」

「その前にまず朱音さんに振りむいて貰う事が先だと思いますが」

「俺と朱音は両想いだ」

 榊西祭で判明した事実は、俺にとっては大きな成果となっている。

 まぁ、朱音は自覚がないようだが……

 朱音の話をしたらますます会いたくなってしまったじゃないか。


「「「えっ!?」」」

 やや間を空きながら三人の声が車内に響き渡る。

 それは、美智、国枝、五王家お抱え運転手の声だ。


「お兄様、それはどっちですか?」

「どっちってなんだよ?」

「妄想かどうかって事ですよ」

 国枝がすかさず口にした答えを聞き、俺は周りからどんな風に思われていたんだ? と疑問に思う。


「妄想のわけがないだろ。朱音は無自覚のようだが、俺の事を好きになってくれたみたいなんだ。榊西祭でわかった。だから、朱音と俺の良好な雰囲気を誰にも邪魔されるわけにはいかないんだよ」

「それは、佐緒里さんのことですか?」

「そうだ」

 俺は溜息を吐き出す。


 一体、佐緒里はどうしてあんな事を言い出したのだろうか。

 まず、それを知ることをしなければならない。


 ――同じ七泉の佐弥香達なら何か知っているかもしれないな。


 俺は鞄からスマホを取り出して佐弥香の番号を表示させる。

 メッセージのやり取りではなく、直接電話をかけた方が良いだろう。

 操作して佐弥香へと電話をかけスマホを耳に当てれば、数コールで電話の持ち主は出た。


『もしもし? 匠お兄様?』

「佐弥香か? 実は――」

『匠さんからの電話なんだろ!? どさくさに紛れて俺を抱き締めるな。ちゃんと電話に集中しろって!』

 突然、電話越しに佐弥香の彼氏である相羽君の叫びが聞こえてきた。

 どうやら二人は今一緒にいるようだ。


 久しぶりに聞いた相羽君の台詞から、主導権は佐弥香にあるのが読み取れる。

 相変わらずの二人で何より。


 相羽君はちゃんとお祖父様の元へ挨拶に行ったらしいが、佐弥香の発言でお祖父様と相羽君がタジタジになる顔合わせだったそうだ。


「従兄の緊急事態だ。いちゃつくのは後にしてくれ」

『お兄様の緊急事態……? えっ、お兄様。もしかして、朱音さんに振られてしまいましたの!?』

「なんて縁起悪いことを……っ! 俺と朱音の仲はすごく良好だ。さっきも一緒に夕食を食べて塾へ送ってきたばかりだ」

『でしたら、何が緊急事態なんですか?』

「佐緒里の件だ」

『……佐緒里って、もしかしてお兄様の元カノの竜崎佐緒里さん?』

 スマホ越しに怪訝そうな佐弥香の声が聞こえてきた。


「佐緒里に関して何か知っていることはあるか? 最近、学校で様子がおかしかったとか」

『申し訳ありません。何も……同じ七泉生という共通点以外全くありませんので……佐緒里さんがどうなさったんですか?』

「ちょっとな。悪いが調べてくれないか?」

『承知いたしました。何かわかったら、お兄様にご連絡を』

 きっと色々疑問は湧いてきているだろうけど、佐弥香は何も聞かずに了承してくれた。

 従兄妹達の中で色々個性が強い佐弥香だけれども、こういう時はちゃんと距離感などを図ってくれる。


 その後、俺は軽く佐弥香と話をして通話を切った。


 ――佐緒里の件は佐弥香に任せて、残りの竜崎家と佐緒里の彼氏を調べなくては。


 佐緒里の彼氏は学校が同じ豪か景に聞いてみよう。

 竜崎家の件はネットで軽く調べてみたが、俺の知っていることだったので、お祖父様や父さんに聞いてみるべきだろう。


「よし。俺と朱音の明るい将来のために!」

 俺は気合いを入れ、再度スマホを操作した。





 +

 +

 +


(朱音視点)


 私が六条院を尋ねてから三日後。

 いつものように学校を終え、駅から自宅まで帰宅していた。

 公園前を通りかかれば、私の横を高級車が通り抜けていく。


 高級車=匠君達という印象を持っているため、私は彼らの事が頭に浮かぶ。

 しかも、ちょうど私の家がある方に向かっていたから余計に。


 気になったので車を視線で追えば、車は私から数メートル先で停車してしまう。

 運転席から人が降りてきた。

 バスの運転手さんのような恰好をしている。

 彼が後部座席の扉を開ければ、七泉の制服を纏った少女が車から降りた。


 いたって普通の住宅地に突如と現れたのは、絵に描いたようなお嬢様。

 彼女はゆっくりと顔をこちらに向けると、微笑を浮かべると軽く会釈をする。


 ――どこかで見たことがあるような……?


 なんとなくそう思ったけれども、具体的には思い出せない。

 挨拶をして貰ったので、私は彼女と同じように会釈をして挨拶を返す。


 彼女が歩いて私との距離を縮めれば、唇を開く。


「――御機嫌よう、露木朱音さん」




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