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番外編 ホワイトデーのお返し後編(匠の両親と朱音のお買い物)

(秋香視点)


「このスカート、すごく可愛いわ。色違いも素敵。迷ってしまうわね……」

 私は手にしているシフォンスカートを眺めながら言った。

 右手に持っているパステルイエローも春らしいけど、左手に持っているコーラルピンクも朱音ちゃんに似合うと思う。

 四月から朱音ちゃんは大学生。落ち着いたコーラルピンクの方が良いのかしら?


「ねぇ、あなた。どっちが良いと思う?」

 光貴さんに意見を聞くために右隣へと体を向けば、彼はクスクスと口元に手を当てて笑っていた。

 何がそんなにおかしいのだろうか? と首を傾げれば、光貴さんが口を開く。


「久しぶりにテンションが高くなった秋香を見たなぁって思って。可愛いね」

「か、可愛いって、私をいくつだと思っているんですかっ!?」

「いくつになっても秋香は可愛いよ」

「なっ、何をっ!?」

 あやうく手にしているスカートを落としそうになってしまう。

 昔からこの人はこうだ。ずっと変わらない。さらっと歯の浮くような台詞を口にする。


「秋香が楽しいのは僕も嬉しいけど、はしゃぎすぎて朱音ちゃんを困らせないようにね」

「わかっていま……あら?」

 突然、光貴さんに持って貰っている私のハンドバッグから電子音が鳴り出す。

 スマホのマナーモードにするのを忘れてしまっていたようだ。


「電話だわ。一体、誰かしら?」

 スカートと交換で光貴さんから鞄を受け取ると、すぐにスマホを取り出す。

 ディスプレイを見れば、そこには匠と表示されていた。


 匠と美智は、今日は春ノ宮家を訪問中だ。

 月に一度、お父様達と顔合わせを行い春ノ宮で過ごし夕食を摂り帰宅というのが定番だ。

 その時は、龍馬達……つまり、匠のいとこ達も終結するのが習わしとなっていた。

 夕食までの時間は、匠達男子はお父様が古くからお付き合いがある寺で座禅などをして過ごす。

 美智達女子はお母様と共に茶会や詩吟などをして過ごしていた。

 だから、あえて今日を選んだのだ。二人のスケジュールを把握できるので。


「匠からなんて珍しいわね……?」

 私は眉を顰める。

 一緒に暮らしているため、息子から電話なんてあまりかかって来ないし、連絡はメッセージアプリが多いからだ。


「何かあったのかしら?」

 息子からの電話が珍しかったので、私は急いで電話に出る。


『もしもし、母さん? 今、ちょっと良い?』

「えぇ、大丈夫よ。そっちで何かあったの?」

『いや、別に何もないよ。お祖父様達も龍馬兄さん達も元気。ただ、今朝からずっと気になっていたことがあってさ。今、父さんと一緒なんだよね?』

「えぇ、そうよ。光貴さんと一緒にお買い物中よ。今、ちょうどスカートを選んでいた所。それがどうしたのかしら?」

『父さんとだけ? 朱音も一緒にいない?』

「朱音ちゃん?」

 なんで急に朱音ちゃんの話が出てきたのだろうか。


「いいえ。私の傍には光貴さんしかいないわ」

 嘘は言っていない。朱音ちゃんは試着室にいるのだから――


『それなら良いんだ。朝、母さんが妙に浮かれているような気がしたからさ。俺も美智もずっと不思議がっていたんだよ。だから、まさか朱音と一緒なんじゃないかって思ったんだ。朱音も今日は外出するって言っていたからさ。誰と出かけるって言わなかったし』

 匠は朱音ちゃんに関する直観力でも持っているのだろうか。

 そもそも、朱音ちゃんが外出するのをなぜ知っているの? まさか、休日ごとに聞いているんじゃないわよね?

 息子に対しての疑惑が生まれた。


『父さんとのデートの邪魔をしてごめん。その確認だけをしたかったんだ。じゃあ、邪魔するのも悪いからき――』

 こちらにやってくる人の気配がしたので、私は匠との会話からそちらに意識と顔を向ける。すると、朱音ちゃんが私の方へやって来ている所だった。


 私が選んだ黒のレースのワンピースに身を包み、ちょっと恥ずかしそうにしている。

 洋服に合わせて靴も変更。バレエシューズを履いていたが、今は服に合せて黒のベロアのパンプスを履いている。

 手にはクラッチバッグを持っていた。

 どうやら、海野さんが合せてくれたみたい。


「まぁ! とてもかわいいわ。パンプスもクラッチバッグも買いましょう!」

『ちょっと待って! 可愛いって誰のこと!? 父さんじゃないよねっ!?』

「匠、いまお店の中だから電話切るわね。貴方も、そろそろ座禅の時間が始まるでしょうし」

『この状況で心頭滅却して座禅組めないんだけどっ!?』

「気にしないで。ちゃんと責任もって送っていくから」

『やっぱり朱音と一緒なんでしょ!?』

「……ホワイトデーのお返しに、朱音ちゃんにプレゼントするお洋服を一緒に選んでいるの。朱音ちゃんがいないとサイズがわからないでしょう?」

『ほら! やっぱり朱音がいるじゃんかっ! おかしいと思っ……ん? もしかして店ってノワール?』

「なぜ?」

『かすかに聞こえるBGMでわかった。ノワールってBGMはオリジナルなんだよ』

 この子はなぜ、今日に限って推理力を発揮してしまうのだろうか。


『ノワールにいるならさ、レースの白いワンピースがあるんだ。この間、美智の買い物に付き合った時に見つけた。あれ、絶対朱音似合うよ。朱音に服をプレゼントするなら、それにしてくれ』

「レースのワンピースってデコルテや袖などがレースになっているものかしら? 色違いで黒もあるワンピース」

『そうそう、それ! あっ、もしかして朱音が着ているのってそれなのか。ちょうど良かった』

 光貴さんの想像通り、匠は白のワンピースを選んだ。


「黒の方よ」

『黒? 朱音には黒よりも白のレースの方が似合うって!』

「今日は私と朱音ちゃんのデートなの。ですから、私が選びます」

 私は匠にそう宣言すると、電話を切った。電源も落とす。


「匠にバレちゃったかぁ。今日の匠は勘が冴えているね」

「えぇ。しかも、白のレースのワンピースにしてって言われたわ。この間、来たんですって。美智と」

 ふぅっとため息を吐き出す。

 こうなるから、匠と美智を誘わなかったのに、バレてしまったなんて。


「電話、匠君からですか……?」

 朱音ちゃんがきょとんとしたまま尋ねてきたので、私は微笑を浮かべると首を左右に振った。


「えぇ、そうなの。大丈夫。もうすぐあの子座禅の時間だから電話は――」

「あっ」

 光貴さんが声を漏らすとジャケットの胸ポケットへと手を伸ばす。

 そして、ポケットからスマホを取り出し一瞥すると、「匠から」と言って私へと掲げた。

 どうやら私が電源を切ったから、光貴さんの方にかかってきたらしい。

 これで光貴さんが電源を切ったら、朱音ちゃんにかけるのだろうか?


 ……執念がすごいわ。


 その後。朱音ちゃんの許可を得て、朱音ちゃんが黒のワンピースを試着している写真を匠に送れば、「黒も大人っぽくて良い! 今まで見たことがないから新鮮!」と、結局黒のワンピースで匠も同意した。




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