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朱音って俺のことを……

(匠視点)


 ――何故、相羽君が朱音と共に焼きそばを買いにっ!?


 俺はただひたすら教室内の出入り口を注視しながら、朱音達の帰りを待っていた。


 朱音と相羽君が一緒に買い物に向かってしまったため、俺と佐弥香は室内に残されてしまったのだ。

 しかも、相羽君が朱音に付き合うのを立候補してしまったせいで、俺は二人の事が気になって仕方がなくなってしまっている。


 どうして彼は朱音の買い物に立候補をしたのだろうか。


 まさか朱音に一目惚れっ!?


「佐弥香。相羽君の好みの女性はどんな人なんだ?」

 俺は出入り口から視線を外してテーブル越しに座っている佐弥香へと顔を向ける。


「わかりませんわ。好きになったのがタイプって言う方ですので。そろそろ朱音お姉さんが戻ってくるので落ち着いて下さい。飼い主の帰りを玄関で待つ忠犬のような瞳をしておりますわよ」

「気にならないのか?」

「ならないと言ったら嘘になります。でも、和泉君はきっと何か理由があるんだと思いますわ。だって、さっき朱音お姉様と匠お兄様ってお付き合いしてなかったのか? ってメッセージが届きましたし」

「それ、なんていうフラグ……相羽君は朱音のことが……」

「もしそうだとしたら、お兄様は諦めるんですか?」

「諦めるわけがないだろ! 俺は朱音と一緒の墓に入る」

「和泉君が朱音お姉様の事を好きになっても、私も諦めるつもりがありません」

「……そうだよな」

 朱音を信じる! と言えるのは朱音の彼氏になってからなので歯がゆい。


「あっ! 朱音お姉様達が戻って来ましたよ」

 佐弥香の言葉に、俺はすぐさま扉の方へと体を向ける。

 朱音と相羽君が白いビニール袋を持ってやって来た。


「遅くなってごめんね。焼きそばの隣がたこ焼き屋さんだったの。美味しそうだったから、購入して来たんだ。だから、遅くなっちゃって……」

「露木先輩のせいじゃなくて、俺がパフェを買っちゃったからです。すみません」

 頭を下げた相羽君の手には、掌サイズのカップに盛られたパフェが。

 どうやって食べたら? と最初に浮かびそうなデコレーションされていて、確実に佐弥香の好み。


「ううん。和泉君も朱音お姉様も遅くないです。お兄様と二人でおしゃべりしていたから、時間が経つのがゆっくりでしたし。和泉君の持っているパフェ可愛いね」

 ニコニコと微笑みながら佐弥香が相羽君を見詰めれば、彼は佐弥香の隣に座ると「ん」と言ってパフェを差し出す。

 突然の出来事に佐弥香は大きく瞬きをする。


「和泉君……?」

「やるよ。おまえが好きそうだから買ってきただけだから」

「私が……」

 佐弥香は瞳を潤ませると、相羽君の腕にしがみ付く。


「ありがとう。和泉君、大好き」

「や、やめろよ」

 と相羽君は顔を真っ赤にさせながら言っているのだが、その表情はどことなく嬉しそうだ。


 ――告白して返事は貰ってないと佐弥香は言っていたが、良い感じだな。ん?


 ふと自分に注がれている視線が気になって右側へと顔を向ければ、机の脇に立っている朱音がじっと俺の肩付近を凝視。


「もしかしてゴミ付いている?」

 俺の問いに朱音は首を左右に振る。


「ごめんね、なんでもないの。たこ焼き、焼きたてなんだよ」

 朱音は俺の隣に座ると手にしていたビニール袋からたこ焼きが入ったケースを取り出す。

 蓋を開ければふわりと湯気が空気中に逃げていく。

 流石は焼きたて。まだ鰹節や青のりが踊っている。


「悪い、佐弥香。焼きそばとたこ焼きが熱々だから、パフェは後での方が良かったな……」

 相羽君がビニールから焼きそばを取り出して配りながら眉を下げている。


「ううん。私、猫舌だから少し冷めてからの方が良いよ。あっ、和泉君。写真撮ろう! 和泉君が私のためにパフェ買って来てくれた記念に」

「そんなことを記念にするなよ」

「そんな事じゃないもん」

 佐弥香は相羽君の方に身を寄せると、パフェを持っている手とは反対にスマホを持ち構えると自撮りする。

 お前ら本当に付き合ってないんだよな? と尋ねたくなるような雰囲気だ。


 数枚撮影すると、佐弥香は顔を緩めてスマホを置き、スプーンでミニパフェをすくって食べだす。


「美味しい! はい、和泉君も」

 佐弥香がスプーンですくったアイスを相羽君へと差し出せば、彼は顔を真っ赤にさせて、鼻の頭に汗をかきはじめる。


「おい、こんなところでやめろよ。はずかしいだろ」

「美味しいよ?」

 佐弥香が口元にスプーンを近づければ、ぱくっと彼は食べた。


 ――なにそれ。すごく羨ましいんだけど。


 俺だって、朱音と! と張り合う気持ちが生まれたが、あいにくとパフェは手元にない。

 あるのは湯気の出ているたこ焼きと焼きそば。


 焼きそばは各自用意されている。ということは、熱々たこ焼きのみ。


 いけるか……?


 俺がたこ焼きをじっと見ていたのに気付いた佐弥香が口を開く。


「お兄様。個人的にはぜひ、熱々たこ焼きを頬張るのを拝見したいのですが、お止めになった方がよろしいかと。火傷の心配が」

「……」

 俺は未練がましくたこ焼きを見続けた。





 その後、俺達は焼きそばとたこ焼きで遅めの昼食を摂ることに。

 榊西の名物というだけあって、今年の焼きそばも美味しかった。

 きっと朱音と一緒だから余計にそう感じるのだろう。


 食事が終わると俺達は30分くらい榊西祭を見て回り、もう帰宅するという佐弥香達を見送るために昇降口の前に出た。

 外ではステージ上でマイクテストをしている生徒や屋台に並ぶ人達で賑わっている。


「朱音お姉様、今日はありがとうございました」

「色々回れて楽しかったです」

 佐弥香と相羽君は並びながら、朱音に別れの挨拶を告げていた。


 二人は帰宅するが俺は残る。

 朱音と二人きりの時間を過ごすために――


 まだまだイベントは終わらない。

 なぜならば、俺の恋愛フラグは回収されていないからだ!


「今度、従姉妹達も集めて女子会しましょうね」

「はい! ぜひ」

 朱音と佐弥香はお互い笑顔で話している。


「では、そろそろお暇させて頂きますわね。匠お兄様もゆっくり過ごしたいと思いますし。では、和泉君参りましょうか」

「そうだな」

「では、朱音お姉様、匠お兄様。御機嫌よう」

 手を振る佐弥香の傍らで相羽君が深々とお辞儀をする。

 二人はこちらに背を向ければ、何か話しながら校門まで進んで行く。


「あっ、そうだ。朱音、幽霊役の写真見せて。俺、朱音の幽霊役をすごく楽しみにしていたんだ」

 俺はふと朱音の写真をまだ見せて貰っていないことを思い出したので彼女へお願いをすれば、朱音は眉を下げながらぎゅっと添えていた両手を握り締める。


 ――え。俺、何か朱音を困らせることを言っちゃったのかっ!?


「もしかして、写真見せるのが嫌だった?」

「ううん。私が悪いの。あのね、匠君。私、実は匠君達がうちのクラスに来た時に居たんだ」

「そうなの?」

「うん。匠君と佐弥香さんが目の前を通って行ったの。お化け屋敷に井戸があったの覚えているかな? あそこに居たんだ」

「全く気付かなかった」

 でも、なんで出て来なかったんだろうか。

 もしかして、知り合いだから恥ずかしかったとか?


「匠君、佐弥香さんにしがみ付かれていたでしょ? 匠君が知らない女の子にしがみ付かれているのを見て……その……なんか嫌な気分になって……もやもやして驚かせなかったんだ」

「えっ!?」

「本当にごめんね……楽しみにしてくれていたのに……」

 一瞬頭が真っ白になってしまった。


 ――もしかしたら、朱音が俺の事を好きになってくれたのか?


 本人は自覚がないようだけど、俺にはそう感じた。


「朱音、それでその後はどんな感じに?」

「その後にクラスメイトの子が来て――」

 朱音の唇から出てきた状況を聞き、俺は密かにドーナツに敗北した事を知る。

 人ではなく物に敗北することになるとは想像もしたことがなかった。


 だが、朱音との距離に大きな進展が見られた件は大発見だ。


 今、俺に波が来ているけど、朱音は無自覚。

 ここで「朱音って実は俺の事好きだよね?」と尋ねたら一気に関係が壊れるし、ただの痛い人になってしまう。

 やはり少しずつ朱音に恋愛感情を自覚して貰う作戦にした方が得策だろう。


 スキンシップを図るために、ここは手を繋いでみるか? と思いつき、俺が口を開こうとした瞬間だった。


『こんにちは! 学祭実行委員です』

 と、元気な声がスピーカー越しに響き渡ったのは。


「は?」

 俺は音のした方向へと顔を向ければ、ステージ上に立ちマイクを握っている生徒の姿が窺えた。

 赤い法被を着て、頭に鉢巻を巻いている。


『榊西祭にお集りの皆さん~。もう少しでミスコンとシニアコンが開催されます。急遽今年は学祭に来て下さっていた有名なお二人をお誘いしての特別コンテストも開催される予定です』

 ミスコンには興味がなかったから、さっきの続きを朱音に言うために顔を戻したが、次に耳に聞こえてきた言葉に再度ステージ上を見てしまう。


『特別コンテストはなんとあの五王家VS春ノ宮家の対決。去年もいらっしゃった五王美智様と春ノ宮朋佳様の人気対決となっています』

「はぁ!?」

 俺の絶叫が榊西の昇降口前に木霊した。






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