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一緒にいられることの方が大切なんです

次は22日(月)22時更新予約中です。

次は匠視点となっています。

 相羽さんが一緒に行ってくれるということになったため、私は彼と共に焼きそばを買いに外へと向かうことに。

 学祭らしく仮装をした人達や他校の制服に身を包んだ人などで賑わっている廊下は、いつもと違った雰囲気だ。


 相羽さんは言葉を発することなく、時折こちらに視線を投げかけている。


 ――もしかして、何か聞きたいことでもあるのかな? メイド喫茶で「普通の家ですか?」って聞かれたし。


 私はちらりと隣を歩く相羽さんの方へと顔を向ければ、今度はぼーっとしたままただ足を動かして前に進んでいる。


「あの、露木先輩……!」

「はい」

 突然彼が足を止めて大声で私の名を叫んだため、私は足を止めて首を傾げる。


「実は相談に乗って欲しいことがあるんです。ちょっと聞いて貰っても良いですか?」

「私でお役に立つのであれば……」

「良かった」

 彼は安堵の表情を浮かべると、「歩きながらで構いませんので」と告げたため、私は足を踏み出す。

 廊下から昇降口に出れば、各運動部の屋台が視界に入って来る。

 お目当ての焼きそばの屋台は、今年も大人気で列が出来ているようだ。


 右手には去年は無かった大きな舞台があり、『榊西ミスコンテストとシニアコンテスト』と書かれている。


「露木先輩は普通の家の出身ですよね。その……五王さんと一緒にいて家柄が釣り合わないとか考えたことはありませんか? 俺、全く自信がないんです。俺の家は普通のサラリーマンです。家だって賃貸のマンションですし……あいつの誕生日に欲しい物を買ってやれないんです」

「あいつって、もしかして佐弥香さんですか?」

「はい。佐弥香との出会いはライブでした。その時は気づかなかったけど、親しくなって知ったんです。あいつが春ノ宮家の人間だって。育った環境が全く違い過ぎる。だから、あいつからの告白もずっと返事をしないまま曖昧にして逃げているんです。好きなのに情けない……」

 ぎゅっと手を握りしめると、彼は唇を噛みしめる。


「家柄が気にならないかって問われれば、正直気になります」

「やっぱり気になりますよね……文房具すら違うものを使っているんですから……」

 確かに匠君も美智さんも高級な文房具なども使っている。

 でも、美智さんは私とお揃いで購入した雑貨屋さんのシャープペンを使っているから高いものだけというわけではない。


「でも、私は匠君の事が大好きってことが上回ってしまっているんです」

「ただ好きなだけで一緒に居られるものですか?」

「私にとって匠君と一緒に居られることの方が大切です」

 おばあちゃん以外味方が居なかった世界で出会ったのが匠君達。


 あの時、五王の図書館でウサギの冒険を探しに行かなかったら出会えなかった。

 大げさだって言われるかもしれないけど、出会えたのは奇跡に近いって思う。

 一生分の幸せを使い切ってしまったんじゃないかってくらいに、価値があるものだ。


「相羽さんも同じじゃないですか……?」

「はい。俺もそうです。佐弥香と一緒にいると時間が過ぎるのが早いし楽しくて、俺にとってもあいつとの時間は大切です。色々難しく考えず、もっとシンプルに考えるべきだったのかもしれない」

 彼は意を決したのか、顔を引き締めると私を真っ直ぐ見つめた。

 かと思えば、肩の力を抜きふわりと笑う。


「俺、佐弥香に自分の気持ちを伝えます。不安なことも全部」

「応援することしか出来ませんが、頑張って下さいね」

「ありがとうございます! あの……また相談に乗って欲しいことがあるかもしれないので、メッセージアプリのIDを交換して貰ってもいいですか? 勿論、五王さんが大丈夫と判断してからで構いませんので」

「匠君の許可ですか?」

「はい。一応、彼氏の許可を貰った方がいいのかなと」

「匠君は彼氏ではないですよ。私、つき合っている人はいません」

「え?」

「え?」

 お互い顔を見合わせると、同時に首を傾げた。


「で、でも……佐弥香が匠お兄様の朱音お姉様って……」

 彼はだんだんと言葉じりを弱め出した後で、「すみません、ちょっと佐弥香にメッセージを」と言って学ランのポケットからスマホを取り出すと操作し始める。

 返事はすぐにきたようで十数秒という短時間でスマホが震動し、彼はディスプレイを目で追っていく。


「嘘だろ……天下の五王家であんなにイケメンなのに……」

 相羽さんがそう呟くと、私へと視線を向ける。


「露木先輩は五王さんのことをどう……あっ!」

 彼は台詞を途中で止めると、私達の横を通り過ぎて行った二人組の女子生徒を凝視。

 もしかして知り合いなのかな? と思いながら彼を見れば、視線は彼女達の手中に。

 彼女達はミニカップパフェを持っていた。


「パフェが好きなんですか?」

「いえ、俺は別に。佐弥香が好きなんです。しかも、あいつの好きそうな食べやすさ皆無の見た目重視タイプ」

「食べやすさ皆無……」

 カップパフェはアイスと抹茶ソースの層の上にクマの形にデコレーションされたアイスやハートのアイシングクッキー、フルーツやチョコ菓子などがふんだんにトッピングされている。


「佐弥香、あぁいう食べるのが難しくないか? というやつが好きなんです」

「工夫は必要な気がしますが可愛いですよね。ソフトテニス部のミニパフェです。いつもお好み焼きだったんですけど、今年は暑いからってミニパフェにしたみたいですよ。可愛い見た目も人気ですが、今日は気温が高いため売れているみたいです」

「焼きそばを買ったら立ち寄っても良いですか?」

「はい、勿論。では、さっそく焼きそばの列に並びましょうか。行列が絶えないみたいですし」

「そうですね」

 私達は焼きそばを購入するために並んでいる列へと加わりながら、ミスコンなどが行われるステージを眺めた。


「ミスコンってどんな人が出るんでしょうかね?」

「事前受付した榊西の生徒です。エントリー者は昇降口に貼られていますよ。みんな可愛い人ばかりです。出場者がかなり少なくて中止になるんじゃないかって言われていたんですが……」

「一回目ですからね」

 ミスコンよりも私はちょっと気になる事があった。

 それは、ステージに貼り出されている紙。

 教室の半分は埋まりそうなくらいの大きな半紙なんだけど書かれている文字に興味を持った。


『急遽サプライズコンテストが開催決定。あの一族同士のVSがあるかも!?』という筆で書いた文字が窺える。

 書道部でも書いたのか、とても美しい文字だ。


 ――なんだろう? サプライズコンテストって。






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