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美智の驚きとスイッチの入った真冬

 舞台挨拶が終わった後、私達は朋佳さん達と共に匠君達の楽屋へ。

 龍馬さん達の男子グループとも合流している。


 事前に朋佳さんが話を通してくれていたようで、あっさりと入ることが出来たんだけど、私達が演劇部の人に案内されたのは棗さんの楽屋だった。


 室内にはメイクをするための大きな鏡とテーブルが壁に設置されているし、貴重品や荷物を入れるロッカーのようなものが見受けられる。

 応接セットとミニ冷蔵庫、それから部屋にはシャワー室もあった。

 なんか、住もうと思えば住めそう。


「あの……ここ棗さんの楽屋なのですが勝手に入って大丈夫なのでしょうか?」

 鍵は演劇部の人がスペアで開けてくれたんだけど、良かったのだろうか。

 私はソファに座りながら、隣にいる朋佳さんへと顔を向けた。

 すると、彼女は微笑みながら口を開く。


「大丈夫よ。棗には伝えてあるの」

「楽屋で待っているように手配してくれたのが棗お兄様なんですよ。美智お姉様の驚く姿を久しぶりに見たいって」

 カメラのお手入れをしながら真冬さんが教えてくれたので、私はほっと胸をなで下ろす。

 ご本人の許可がおりているのなら、大丈夫だ。


「しかし、真冬。本格的なカメラ持って来たな」

 春馬さんが真冬さんが座っているソファの背もたれに身を乗り出すようにして見詰めている。


「えぇ。気合いが入っておりますので。美智お姉様の男装と匠お兄様の女装なんて滅多にありませんもの。色々なポーズをして貰って撮影致しますわ。フォトブックにします。あっ、そうですわ! 朱音お姉様、もし良かったら美智お姉様達とご一緒に撮りませんか?」

「私ですか……?」

「美智お姉様と棗お兄様に壁ドン! して頂き写真を撮影しましょう」

「美智さん達と写真を撮って貰えるのは嬉しいですけど、壁ドン……? ってなんでしょうか?」

 と話をしていると、扉越しに廊下から人の話す声が近づいて来るのに気づく。

 聞き覚えのある声だったため、さっきまでみんなおしゃべりしていたけど、口を結んで静かになってしまう。


 楽屋前に気配を感じたかと思えば、扉がゆっくりと開かれていく。

 姿を現したのは、王子の格好をした棗さんと美智さんだった。

 美智さんは私達を見ると目を極限まで見開く。


「え、えっ、え?」

 美智さんは一瞬フリーズすると、台詞にならない声を漏らす。

 そんな美智さんを棗さんが、悪戯が大成功した子供のような表情で見ている。


「やったね、朋佳姉。久しぶりに美智が驚いている姿を見たよ」

「棗。一体、どういうことなんですの? 舞台から龍馬お兄様達の姿がいるのはわかったのですが、春ノ宮の席に朋佳お姉様達いらっしゃらなかったのに。今回、用事があるから女子一同は六条院祭は不参加って……」

 驚いている美智さんに声をかけるタイミングが掴めず、ただ彼女へと視線を向けていれば美智さんの瞳と交わってしまう。

 じっと私の顔を見ると、一度視線を外して再度視線を向けてくる。


「初めましてですわよね? なんだかお会いしたことがあるような気がするのですが……」

 美智さんが首を傾げながら訊ねれば、朋佳さん達が一斉に笑い出す。


「わからないのも無理はないわ。秋香叔母様も変装に気づかなかったもの」

「変装? まさか、佐弥香ではないですわよね? いとこ達で佐弥香以外揃っておりますし」

「佐弥香はライブ。佐弥香が好きな男の子と一緒にライブを楽しんでいるんじゃないかしら?」

「では、どなたが……」

 美智さんが首を傾げていると、私の傍にいた春馬さんから「もうしゃべっていいよ」と囁かれたので私は頷くと唇を動かす。


「美智さん」

「……え。朱音さんなの!?」

 美智さんは声を上げると隣の棗さんへ顔を向ける。

 視線を受け、棗さんは目を細めクスクスと笑って首を縦に動かした。


「ふふっ。美智、驚いた? 実は美智と匠に内緒で連れて来ちゃったの! だって、せっかく楽しみにしていた演劇が見られないなんてかわいそうだったから」

「驚くに決まっているじゃないですか! ……でも、朱音さん可愛らしいですわ。髪、長くてもお似合いになりますわね。メイクでいつもと違う感じですが、こちらも素敵。秋らしいマットな質感メイクですね」

 美智さんは私の方へやってくると微笑んだ。


「美智さん、演劇楽しかったです。途中、決闘シーンはハラハラしましたけど。王子様役すごくかっこいいって思いました」

「ありがとう。嬉しいですわ」

「僕は?」

「棗さんもすごくかっこよかったです。いつも王子様みたいですが、舞台上では本物の王子様でした」

「ありがとう。朱音さんも今日の姿は可愛いよ。眼鏡、伊達かな? 眼鏡姿も良いよ」

 棗さんは私の頭をポンポンと撫でた。


「ねぇ、棗。匠は? 匠も驚かせたかったのにー」

「ごめん。匠兄さんは、一刻も早く着替えてメイク落としたいって自分の楽屋に。着替えなど終わらせてから来るってさ。そのまま来て貰おうと思っていたんだけど、どうしても嫌だって。あまりしつこく誘ってバレると困るから、後で来て貰うことにしたよ」

「では、その間に撮影をしましょう! 朱音お姉様、よろしいですか? 棗お兄様と美智お姉様も」

「はい!」

「あら、素敵ね。朱音さんと私を撮影して下さるなんて」

「僕も構わないよ」

「では、まずは棗お兄様。朱音お姉様を顎クイでお願いします。せっかくその衣装なので、セットの準備もしておりますわ」

「「顎クイ、セット?」」

 私と美智さんの声が綺麗に重なった。


「セットってなんだよ?」

「王子様の衣装で楽屋を背景になんてヤボですわ。実は布や小道具の準備もしているんです」

「用意周到だな。でもさ、もう少し経つと匠が来るんだろ」

「春馬の言うとおりだ。匠の朱音ちゃんが顎クイされているの見たら、匠が泣くぞ。普通に写真を――」

「何をおっしゃっているんですか!」

 くわっと目を見開いた真冬さんの迫力に対して、龍馬さん達男子が身を後方へと退く。


「こんな機会滅多にないんですよ。シチュエーションは異世界トリップした女子高と彼女を奪い合う異世界の王子達ですわ」

「忘れていた。真冬って普段大人しいけど、一度スイッチ入ると止められなかったんだ」

「匠には撮影が終わってから来て欲しいが、無理だろうな。あいつはある意味タイミングを持っているから」

 龍馬さん達は遠い目をして扉を見詰めた。









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