従弟・レオン
(匠視点)
初めて会う朱音の祖父と親戚は、朱音の両親と似ている思考の持ち主だった。
ずっと味方がゼロに近い辛い状態で、よく朱音は唯一の味方であるお祖母さんが亡くなってから数年間も我慢していたと思う。
朱音と知り合って一年と数か月。
朱音が両親の呪縛に気づいていなかったが、今回の件で彼女が気づけないバックボーンを知る機会になった。両親だけではなく周りも同様ならば理解できる。
「……お祖父様に力を借りて良かった」
俺は村長によって一列に並ばせられてお説教を受けている人達へと視線を向ける。
朱音の祖父と親戚一同だ。
朱音に勝手に結婚を進めるし、進学には口を出すしで迷惑極まりない……
しかも、おまけに村のために頑張っている村長の娘さんのことも侮辱してしまった。
彼らは五王の事を全く知らなかった上に、聞いてもあまりぴんと来ていなかったようなので、祖父にお願いをして良かったと痛感する。
村長に絞られて反省し朱音への態度を改めてくれると良いが、俺としてはもう朱音と彼らを会わせたくない。
村長達の傍には、大人達とは対照的な朱音のいとこ達の姿が。
目を輝かせながら美智のことを囲んでいるが、そんな光景は六条院でもよく目にしている。
「美智様」と様づけで呼ばれ、歓声を浴びている姿は美智らしい。
朱音のいとこが美智を見て繊細だ!守ってあげたい! と言っていたが、俺も祖父も国枝も聞き間違いかと思った。
美智を知る者からしてみれば真逆だ。
自ら先陣を切って突き進んでいくタイプだから。
美智と朱音のいとこの傍には、両親に背中を押され美智を囲む輪に加えられようとしている琴音の姿があった。
琴音にとって美智は天敵であるため、勿論彼女は身を仰け反らせて両手でもがきながら拒絶している。
相変わらず、朱音の両親は子供の気持ちよりも自分を優先しているようだ。
普通、自分の子供があんなに拒絶していれば強制はしないだろう。
琴音も両親の犠牲者で可哀想だとは思うが、朱音にしてきたことを考えると俺として同情は出来ない。
「朱音のいとこって、年が近いんだな。いとこの事を聞いたことがなかったから知らなかった」
隣にいる朱音に尋ねれば、彼女は頷く。
いとこ達もいると聞いていたが、年が近かったのが意外だった。
いとこ達の話を全く聞かなかったため、てっきり年が離れていると勝手に思っていた。
朱音のいとこ達が味方になってくれると良いのだが。
「私とはつかず離れずの関係だから……美智さんや匠君の家は仲が良いよね。一緒に旅行したりしているし」
春ノ宮家のいとこ達とは年が近く、男子に至っては男子同士で団結力があり、恋愛解禁の前には色々と協力し合っていた。
きっと、夏休みや冬休みなどの長期休暇に祖父による精神鍛錬のため合宿があるからだろう。
祖父の友人である住職の元、座禅などをする。
祖父と従兄弟のみで行われるため、団結力が付いたのかもしれない。
父方のいとこ達――渚おばさんの子供は三人いて、一人は同性で同じ年。その下の二人はかなり年が離れており、まだ五歳なので小さくて可愛い。
兄妹の双子だが、兄の方は年を重ねるほど口が達者になっていて、「匠、遊びに来てやったぞ!」と、俺様気質。
なぜか一番懐かれ、夏休みはプールだ! 海だ! 山だ! と毎年遊びに連れて行かされる。
来週、アメリカから帰国して五王家に滞在するからきっと遊べコールで騒がしくなるだろう。
「匠君、来てくれてありがとう……」
「いや、気にするな。俺は朱音のためならどこへだって迎えに行くよ。だから、これからも俺のことを頼りにして欲しい」
手を伸ばして朱音の頭を撫でれば、彼女は目を細めて「本当にありがとう」とはにかんだ。
あまりの可愛さに抱きしめたくなり腕を伸ばしかけたが、視界の端に祖父と秋川さんの姿を捉え、なんとか思いとどまる。
俺は朱音に少し席を外すことを告げ、祖父達の前に立つと頭を下げた。
「秋川さん。今日は、力を貸して下さってありがとうございました。村長さんも……」
村長さんにもお礼を言いたいのだが、今はちょっと無理そうだ。
「いいえ、とんでもない。五王様にはいつもお世話になってばかりですので、お役に立てて良かったです。いつでも申し付けて下さい。これからもよろしくお願いします」
「お祖父様もお手数をおかけしました」
「気にすることはない。私は少し、朱音さんのお祖父さんやご両親と話をして戻るから朱音さんと先に家に戻っていなさい。村長さんには私から礼をしておく」
「春貴様のことでしたらお任せ下さい」
「祖父をお願いします」
俺は祖父達と少し話をして朱音の元へと向かえば、彼女は祖父や親戚の姿を見ながら心配そうに見つめていた。
「朱音、帰ろう。中に荷物を取りに行こうか」
「……うん」
朱音は頷くが祖父や伯父達の方を見ていたので、俺は彼女の瞳を手で覆った。
きっと、彼女は優し過ぎるから色々考えてしまっているのだろう。
「あっ、え、匠君っ!?」
「いいんだよ、朱音。気にしなくても。村長にお説教されているだけまだ状況的にはマシなんだ。これで態度を改めずに、説教すらされなくなった時は本当に終わり。さぁ、行こう。朱音のお祖母様にもご挨拶がしたい」
俺は朱音の視界を遮っていた手を離すと、今度は朱音の手へ腕を伸ばして繋いだ。
一瞬、目を大きく見開いた朱音だったが、手を離すことはなく足を進めてくれた。
朱音が二階に荷物を取りに向かっている間、俺は案内された仏壇の前にいた。
壁の上部に設置されている遺影の中に、優しそうな微笑みを浮かべている初老の女性の姿がある。
どことなく朱音が笑った時を思い出すような表情のため、きっとこの女性が朱音のお祖母様なんだと思う。
俺は座布団に座り、手を合わせて瞳を閉じる。
――朱音のお祖母さん。朱音のことは俺がずっと守っていきますので、安心して下さい。
きっと朱音を残していくことが心配だっただろう。
朱音の事を大切に思っていてくれて、色々気にかけていてくれたお蔭で俺と朱音は出会うことが出来た。
あの絵本のお蔭で……
ゆっくりと伏せていた睫毛を上げれば、後方から俺の名を呼ぶ声が届く。
振り返れば、朱音が両手でボストンバッグを持っている姿が。
「朱音のお祖母さんって、一番端の女性?」
「うん。よくわかったね」
「朱音と少し似ているから」
俺がそう言うと、朱音が本当に嬉しそうに微笑んだので、彼女の中で祖母の存在がかなり大きいんだなぁと思った。
「お祖母ちゃんにお参りをしてから帰っても良い?」
「勿論」
俺は立ち上がり少し端にずれれば、座布団に朱音が座り、手を合わせてお参りをした。
何か心の中で話をしているのか、長いようだった。
やがて彼女が立ち上がると、俺の手に触れたので「あ、朱音っ!?」と声が裏がってしまう。
朱音は両手で俺の手を包むようにしながら、俺の顔を見て微笑む。
――待って! 朱音、お祖母様に何を話したの!? お祖母様、朱音はなんて言ったんですかっ!
夏の暑さの他に別の暑さにより体温が急上昇してしまい、俺の顔は真っ赤になってしまった。
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朱音の奪還に成功し、俺と朱音は五王家へ戻ることに。
プライベートヘリと車を使って体に馴染んだ屋敷へと到着すれば、玄関前にはなぜか母だけではなく春ノ宮家の祖父の姿が。
母は事前に帰宅時間を伝えていたが、なぜ祖父もいるのだろうか……?
朱音の荷物を持って車を降りると、待っていた母達に帰宅した挨拶をすれば、祖父の安堵した表情が目に付く。
母は俺が疑問に思っていることに気づいたのか事情を説明してくれた。
どうやら美智が従妹達の旅行をキャンセルしたのを従妹経由で祖父に連絡が入ったらしい。
そして心配した祖父が駆けつけたというわけ。
「お帰りなさい。朱音ちゃん、匠」
「ご迷惑をおかけしてすみません……」
「いいのよ、気にしないで。私達も朱音ちゃんと会えるのを楽しみにしているのだから」
「いやぁ、本当によかった。暑かっただろう。さぁ、中に入ってゆっくりしなさい。わしの家ではないが……」
お祖父様達に促され、俺と朱音は玄関の中へ。
すると、ドタドタと足音を鳴らしながら、廊下を駆けてくるのはもふもふとした真っ白い物体だ。
「シロちゃんっ!」
「わふっ」
朱音の声に、シロがしっぽをぶんぶんと振って飛びつく。
その衝撃のせいで朱音がバランスを崩しかけたが、咄嗟に俺が腕を伸ばして抱き留めたため、朱音が玄関に倒れることは無かった。
「匠君、ありがとう」
「どういたしまして」
と言った瞬間だった。
また、ドタドタと廊下を駆けてくる足音が聞こえて来たのは。
――ん? ミケにしては足音が大きいな。
視線を廊下へと向けると、俺は目を大きく見開いてしまう。
「おっせーよ、匠。俺が遊びに来てやったぞっ!」
そこにいたのは、来週うちに泊りに来る予定だったはずの従弟・レオンの姿だった。




