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フラグ回収っ!からのポルタ―ガイスト

 夜乃おばあちゃんが一肌を脱ぐって言って立ち上がったけど、何をするのかな? って思った僕は、おばあちゃんを視線で追う。

 すると、おばあちゃんは正面奥にある大きなスクリーンへと向かって行った。


「……こ、こわい……」

 朱音ちゃんが僕にしがみ付きながら小さく振るえているので、朱音ちゃんの頬を舐めて慰める。

 怖くないよって大丈夫だよって。


「ワンワンわんっ!(あれ布だよ!)」

 僕としてはスクリーンに女のひとが映し出されても怖くない。

 だって、布だもん。

 雷のほうがずっと怖いよ。音がすごいし。


 ――ご主人様もいるから安心して。ご主人様は強いんだよ! ねっ、ご主人様……あれー?


 ご主人様は「俺にフラグは立たないのか……」と言いながらソファに座って膝を抱えている。


『匠、凹んでいる場合かっ! まだ本編始まってないなら、チャンスはあるだろうが。このチャンスを逃すな。しっかりしろ、ヘタレイケメンっ!』

 ミケおばあちゃんはご主人様の足元に向かうと、足を猫パンチしている。


 どうやら朱音ちゃんが僕の方に抱き付いてしまって、凹んでいるようだ。

 ごめんね、ご主人様。なんか、ミケおばあちゃん達と話していた作戦が失敗しちゃったみたい。


 そういえば、夜乃おばあちゃんは何をしているのかな? と気になってスクリーンへと顔を向ければ、おばあちゃんはスクリーンを手で押していた。

 ゆらゆらとカーテンのように揺れる布。


 なんか、遊びたくなるーってうずうずしていると、朱音ちゃんの小さな悲鳴が聞こえてしまう。


「う、うっ、うごっ……う…ごい……」

 夜乃おばあちゃんが動かしたから動いたんだけど、朱音ちゃんは顔を真っ青にしてスクリーンを指さしている。

 今にも倒れそうなので、僕は朱音ちゃんの腕からすり抜けると、夜乃おばあちゃんの元へと駆けていく。


『朱音ちゃんが怖がっているからやめてよ』

『怖がっていいのよ。続々起こる怪現象から匠に朱音を守らせるんだから。匠の男らしさアピール。ほら、私って本家本元だし』

「なんで急にスクリーンが激しく動いているんだよ。もしかして、空調か?」

 ご主人様には夜乃ちゃんの姿が見えないため、首を傾げている。


「大丈夫だよ、朱音。たぶん、空調の調子がおかしいのかも」

「た、たく…み……くん……」

 ソファに座っている朱音ちゃんが震える声でご主人様を呼べば、ご主人様が腕を伸ばして朱音ちゃんを抱き締めた。

 その時、「「よしっ!」」というミケおばあちゃんと夜乃おばあちゃんの声が綺麗に重なる。


「もう見るのはやめにしようか? 無理しなくてもまた次の機会に見ればいいし」

「借り物なの。だから、返さなきゃ……少し見て怖くて仕方が無くなったら、DVDを止めて貰ってもいい……?」

「いいよ。でも、その態勢だとスクリーン向くと首痛くない?」

 朱音ちゃんはソファに横向きに座っているんだけど、そんな朱音ちゃんをご主人様が抱きしめている。

 確かにあの態勢じゃスクリーンを見れないよね。ご主人様の方を見ているから。


「俺の膝の上に座って見てみる? シロとミケに左右挟んで座って貰えば、ミケ達がガードしていてくれているから怖くないだろうし」

「膝の上…って…重いから……」

「大丈夫。むしろ、心地よい重みを俺に感じさせてくれっ!」

『追い風が来たから匠の奴、ここぞとばかりに押し始めたな』

『そうね。さっきまで凹んでいたと思ったら、早くも立ち直ったわ。そこが匠の良い所よね。だてに回数こなして慣れてないわ』

『だな』

 ミケおばあちゃんと夜乃おばあちゃんは、ご主人様と朱音ちゃんを見詰めながらおしゃべりしている。


「朱音、俺のところにおいで」

 ご主人様が朱音ちゃんの手を掴んで誘った。

 すると、朱音ちゃんは少し間をあけてご主人様の膝の上に斜めに座れば、ご主人様が朱音ちゃんの腰に手を回す。


 朱音ちゃんはやっぱり怖いようで、体を動かすしてご主人様の方を向き抱きついた。

 ご主人様は強張っている朱音ちゃんとは対照的に、顔を緩めてデレデレしていた。


『やったな! ミッション完了だ。傍から見れば恋人同士。匠、ホラーDVDに感謝だ』

『私達は任務を全うしたわね』

 ねぇ、みんなDVD見てないけどいいの?


「シロ、ミケ。朱音の隣に居てやってくれ」

「ワン(いいよー)」

「みゃ~(勿論だ)」

 僕とミケおばあちゃんは、それぞれ朱音ちゃんとご主人様を挟むようにソファの左右に座った。


 スクリーンには、女性が映し出されている。

 どうやら本編というものが始まったようで、今は華やかな着物姿で漆黒の髪をした少女だった。

 なんか美智ちゃんみたい!


 彼女は手に真っ赤な椿の花を持っていたんだけど、ぐしゃりと握りつぶしてしまった。

 勿体ない。せっかく綺麗なのにー。


『さて、任務も完了したし、私はそろそろお昼寝……あら?』

 夜乃おばあちゃんは、右手に広がっている棚に興味が湧いたようだ。

 色々な本が収納されている所から、一つの冊子を取り出す。

 ご主人様の制服に付いている校章が書かれたものだ。

 それをめくりながら、おばあちゃんが唇を開く。


『懐かしいわー。これ、光貴の卒アルじゃない』

『おい、夜乃。今はやめろ、匠達がいるんだぞ! リアルポルターガイスト現象になっているじゃないか』

 と、ミケおばあちゃんが大声で叫ぶと、「ミケ?」「ミケちゃん?」とご主人様と朱音ちゃんが不思議そうにミケおばあちゃんの視線の先を追う。

 そこには卒アルというやつを持っている夜乃おばあちゃんの姿が。


 おばあちゃんは、しまった! という表情を浮かべていた。


『あっ、やばい』

『やばいじゃないだろうが。匠と朱音にはお前の姿が視えないんだぞ!?」

 朱音ちゃんが大きく体を震わせたかと思えば、力が抜けて体が傾いてしまったが、ご主人様が支えているので倒れることはなかった。


「ワンワン!(朱音ちゃん!)」

 屈み込んで朱音ちゃんの頬を舐めた。


「なんで父さんの卒アルが浮いているんだ。重力はどうなっているんだよ?」

 ご主人様は訝しげに夜乃ちゃんの方を見ている。


「た、たく、た……くみ…く…ん」

「大丈夫。何があろうと朱音だけは守るから。でも、不思議なことに悪い感じはしないんだよな。それに、うちに居る幽霊なら悪い幽霊じゃないと思う。うち、不幸な事なんて起きてないから」

 ご主人様の発言に、夜乃おばあちゃんは目を大きく見開き、泣きそうな表情をしだす。


「ほんと、光貴の息子ね。中学の頃のあの子と同じ事を言うなんて。悪い幽霊や妖怪だっているのに」

 夜乃おばあちゃんは、懐かしそうな眼差しで朱音ちゃん達を見ている。


「……まぁ、悪い気や禍々しい生物などは私が追い払ってやっているけどね。私、自称座敷童だから」

 そう言って微笑むと卒業アルバムというものを本棚にしまった。


「悪い幽霊じゃない……?」

「うん。幽霊騒ぎは美智が子供の頃あったんだけど、驚かせるや呪うとかじゃなくて一緒に遊んで貰ったらしいよ。座敷童ならいるって父さんが言っていたから、きっと座敷童なんだと思うよ。うちの御先祖様かもな」

 ご主人様はゆっくりと落ち着いた声で言いながら、朱音ちゃんの背中を優しく撫でている。

 ご主人様の手って大きいし、手つきが優しいから落ちつくんだよねと思っていると、朱音ちゃんの震えがさっきよりも落ち着き始めた。


「ご先祖様……」

「そう。父さんが言っていたんだけど、座敷童には諸説あるんだって。父さんが信じているのは、幼くして亡くなった御先祖様が子孫の子供達を守ってくれているって話。昔、子供は七歳まで神のうちって言われて人間ではなく神様とされていたんだ。七歳まで生きられるのが少なかったからだろうな」

 朱音ちゃんはゆっくりと夜乃ちゃんの方を見ると、唇を開く。


「は、はっ、初めまして。露木朱音です。い、いっ、いつも匠君達にはお世話になっています」

『あっ、初めまして。夜乃です。ずっと他の五王家達と共に匠と朱音をにやにやして見守っていました』

 突然の朱音ちゃんの自己紹介に、夜乃おばあちゃんが姿勢を正して深々と頭を下げる。


『朱音はきっと少し頭がパニックになっている上に、真面目な性格だから挨拶したんだろうなぁ』

 ミケおばあちゃんは、朱音ちゃんの膝をぽんと叩く。

 怖いなかよく頑張ったって褒めているかのように。


『さっきはごめんね、怖がらせちゃって。匠を応援するあまり白熱しちゃった』

 夜乃ちゃんが朱音ちゃんの前に立ちごめんねと謝った。

 でも、朱音ちゃんには聞こえないし、夜乃おばあちゃんが朱音ちゃんの肩に伸ばした手もすっと溶けるように消えてしまう。

 おばあちゃんは、悲しそうに自分の手を見詰めている。


『……聞こえないよね。謝りたいんだけどなぁ。『あの子』が来ればなんとかなるのに。でも、絶対に視えているし聞こえているのに、視えないし聞こえないふりするのよねー』

 あの子って誰だろう? と僕は首を傾げる。

 美智ちゃんかなぁと思ったけど、美智ちゃんならあの子って言わないし。

 んー、誰のことを言っているのかな。


「朱音。どうする? 怖いなら違う部屋に行こうか。それとも外に出る?」

「大丈夫かもしれない。匠君の話を聞いて、昔の五王家の人だって思ったの」

「そうか。なら、DVDの続きみようか」

「うん」

 朱音ちゃんが頷いたところで、夜乃おばあちゃんが「あっ」と声を上げた。

 顔を扉の方へと向けると、ミケおばあちゃんも耳をピクッとさせる。

 僕にも聞こえる。足音が三つ近づいて来ているのだ。


『ちょうどタイミングが良いじゃない。あの子が来たわ』







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