五王家の可愛い応援団
シロ視点です。
朱音ちゃんがうちに来てくれる日。
いつものようにご主人様が朱音ちゃんを迎えに行ったので、僕は二人が来るのを玄関で待っていた。
妙にそわそわとして落ち着かない。
きっと久しぶりの朱音ちゃんだから、早く会いたくて仕方がないんだ。
朱音ちゃん、早く来ないかなぁ~と思っていると、後ろから「シロ」と声を掛けられたので振り返るとミケおばあちゃんがいた。
リズミカルな足音を鳴らしながら廊下を歩き、僕の方へ。
『シロ、忘れてないだろうな?』
『わかっているよー。ご主人様と朱音ちゃんの間には座らないで、朱音ちゃんの隣でしょ? 僕も大人だもん』
『わかっているならいい。匠もやたら気合いが入っていたな。朱音と会える時間が少なくなっているから、会える時間がより大切になったんだろう。今日はチャンスだな……でも、あいつヘタレ残念イケメンだからなぁ』
「うん。ご主人様はイケメンだね!」
今日はミケおばあちゃんも朱音ちゃんのことを出迎えるようで僕の隣に座った。
最近暑くなってきたから、ひんやりとしている床が気持ち良いー。
暫くすると車の音が聞こえてきたので、僕は立ち上がった。
やや間があき、人の話す声と共に足音が近づくにつれ僕の心は大きく弾んでいく。
玄関の扉が開き現れたのは、待ちに待った朱音ちゃんとご主人様だった。
「シロ、待っていたのか? しかも、珍しくミケも」
「シロちゃん、ミケちゃんっ!」
朱音ちゃんは僕とミケおばあちゃんを見ると、顔を緩めて屈み込む。
そして手を伸ばすと、僕をわしゃわしゃと撫でてくれる。
朱音ちゃんの手は優しいから好き。
「美智さんは……?」
「美智は母さんとお茶会。お祖父様は会合。みんな、朱音と会えなくて残念がっていたよ。でも、夕食までに戻ってくるから会えると思う。今日は父さんも直帰だから五王家全員揃うよ」
ご主人様の話を聞いていると、どうやら朱音ちゃんは夕食を一緒に食べるみたい。
わーい! いっぱい朱音ちゃんと一緒にいられるー!
「ミケちゃんも待っていてくれたの? ありがとう」
『にゃ~(気になるからな)』
「わぁ! ミケちゃんが返事してくれたよ、匠君っ!」
朱音ちゃんはいつもクールなミケおばあちゃんが反応してくれたのが嬉しいようで、ご主人様にしがみ付くと興奮気味に言った。
朱音ちゃんは動物が好きなのかも。
いつも、僕やミケおばあちゃんに声を掛けてくれるから。
『匠、デレデレだな』
ミケおばあちゃんはご主人様の方を見ながら呟く。
ミケおばあちゃんの言うとおり、ご主人様は朱音ちゃんにしがみ付かれて顔を緩めている。
良かったね、ご主人様っ!
「これからDVDを見るんだけど、ミケちゃんもシロちゃんも一緒に居てくれる? ホラーDVDだから怖くて……」
『ニャ、ニャ、ニャ~(もちろん、そのためにここにいるんだ)』
『わふっ(僕もー)』
「ミケちゃんもシロちゃんも本当に可愛いね。癒されるなぁ。後で写真を撮ってもいい?」
「いいよ」
「ほんと? ありがとう」
朱音ちゃんは僕達のことを見ながら、にこにことしている。
朱音ちゃんやご主人様が笑ってくれていると僕も嬉しくなっちゃう。
『あら、今日だったの? 朱音が来るのって』
『夜乃おばあちゃん』
声がしたので振り返れば、夜乃おばあちゃんが立っていた。
『幽霊だから曜日感覚が鈍ってわからなくなるのよね。美智や匠が生まれてやっと立ったと思ったら、もう高校生だし。年をとったわね、私も』
『それはそうだろう。おまえは明治生まれだ。もうすぐ平成が終わるんだぞ』
『え、嘘っ! 平成って終わっちゃうの?』
『ねー、へいせいってなにー?』
夜乃おばあちゃん達としゃべっていたら、朱音ちゃんの声が聞こえた。
「た、匠君……ミケちゃんもシロちゃんも誰もいない所に向かって鳴いているんだけど……しかも、二人共同じ方向を見て……」
朱音ちゃんの方を見れば、朱音ちゃんが身体を震わせていた。
ご主人様は僕達の方を一瞥すると、今度は朱音ちゃんの肩を軽く触れる。
「きっと虫でもいるんだろ。大丈夫、俺がいるから」
「今からホラーDVD……」
「うち、幽霊騒ぎとかなかったから居ないと思うし。あっ、でも美智がかなり小さい頃、夜乃ちゃんという女の子と遊んでいるって言っていたっけ。俺には美智が一人で遊んでいるように見えたけど。父さんに話したら、座敷童だよって。俺、一度も見た事ないけど、座敷童がいるなら願い事叶えて欲しいよな」
「願い事……あっ、受験合格……」
そういえば、朱音ちゃんとご主人様は夜乃おばあちゃんが視えないみたいだ。
夜乃おばあちゃんは、たまに現れて様子を見に来てくれているのに、全く気付いたことがない。
どうしてだろう? ってちょっと気になっていたんだよねー。
『どうして朱音ちゃん達には視えないの?』
『霊感がないからじゃないかしら。でも、たまに私の事を視える人間がいるのよねー。タイミングや波長かも。美智は五歳くらいまでは視えていたけど途中から視えなくなったし。光貴と会ったのは彼が中学生の頃に一度だけ。しかも、驚くどころか、座敷童初めてみたよ! って一方的に座敷童認定されるし』
『あいつ、全てにおいてチャラいもんな』
『ほんと。あれでよく巨大な会社を動かせているなぁと感心するわ。私の存在よりもそっちの方が謎よ。それより、今は匠よ。匠! こんなに応援団がいるんだから頑張ってよね!』
夜乃ちゃんは腰に手を当ててご主人様の前に立ったが、ご主人様は朱音ちゃんしか見ていない。
でも、朱音ちゃんはその視線に気づいていないようで呆然として、「座敷童……」と呟いている。
『朱音がこの匠の熱視線に気づくように、私達応援団が応援するわよ!』
夜乃おばあちゃんが拳を握り、天井に向かって手をつきあげた。
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朱音ちゃん達と共に、シアタールームっていう部屋に来た。
左右にはご主人様の腰くらいの高さの棚があり、そこには僕やミケおばあちゃんも一緒に写っている家族写真が飾られている。
パパさんとママさんの結婚式の写真やおじいちゃんの結婚式の写真も飾られていた。
ご主人様はここに朱音ちゃんとの結婚式の写真を飾るのが夢なんだって。
家族写真に夜乃おばあちゃんが写っていない。
夜乃おばあちゃんの写真もあればいいのにねって言ったら、私が写ったら心霊写真よって言われちゃった。
シアタールームは、主にパパさんが休みの日にいる部屋だ。
ママさんと一緒だったり、一人だったり、家族とだったり……いろいろだ。
「匠君の家ってシアタールームがあるんだね」
朱音ちゃんが辺りを見回しながら言った。
「父さんの趣味。映画やライブ映像を休日にここで見ているんだ。棚とかそのDVDでぎっしり。父さんの高校時代のライブテープをDVDに変換したやつもあるらしいけど、色々な意味で衝撃的だろうから見ていない」
「そっか。だから、ギターとかも飾られているんだね」
朱音ちゃんは飾っているギターを見詰めながら唇を開く。
「そう。父さんが使っていたやつ。バイト代で初めて買ったやつだから思い入れが強くて捨てられないんだって」
ご主人様はテーブルの上に置いてあったリモコンを手に取りスイッチを押す。
すると、天井から白い布が降りてくる。
――これ、ジャンプして遊びたくなるんだよね!
でも、もう大人だから我慢だと、じっとソファの端に座って待った。
ご主人様と朱音ちゃんの間には座らないよ!
「匠君、手伝うことがあったら言ってね」
「大丈夫。朱音は座っていて。あとはDVDを入れるだけだから」
朱音ちゃんは、僕の隣に座ると微笑んで僕を見た。
ミケおばあちゃんはソファではなくフローリングの上に座り、夜乃おばあちゃんはテーブルの上に乗っているものに興味津々のようで屈み込んで見ている。
ちなみにテーブルの上にあるのは、ジュースとポップコーンっていうお菓子。
ポップコーンってお菓子は、甘い匂いがするよねー。
僕やミケおばあちゃんには、僕達用のおやつが用意されている。
「朱音。準備が出来たから見ようか?」
「うん」
朱音ちゃんが頷くとご主人様が朱音ちゃんの隣に座り、ご主人様がリモコンを操作すれば部屋が薄暗くなって布に映像が現れる。
「映画の予告が数本流れるのか。予告も見る? もしかしたら、おもしろそうな映画を見つけられるかも」
「うん」
最初はゆったりとした音楽と共に森の映像だったんだけど、突然歪んで音が止んだと思えば、前髪の長い白いワンピ―ス姿の女の人が突然現れ出す。
ゆらゆらと体を動かしながら歩いているなぁと思えば、今度は凄まじい勢いでこちらに掛け寄って来た。
前髪があんなに長くて前が見えるのかな? と思っていると、隣に座っている朱音ちゃんが小さな悲鳴を上げた。
……かと思えば、腕を伸ばして僕に抱き付いてきてしまった。
『わふっ?(あれー?)』
あれー? おかしいなぁ。ミケおばあちゃん達と話していたのと違うんだけど。
ご主人様に抱き付く予定のはずなのに。
『しまった! 予告を考えてなかった。予告もホラーなのかっ!?』
『毎回思うけれども、なんで幽霊は黒髪で前髪長いの? しかも、白いワンピース』
『夜乃! 今、それどころじゃないだろ。この状況をなんとかしろ』
『仕方がないわね。匠のために一肌脱ぐわ。本家本元の幽霊の力を見せつけてあげましょう』
と、テーブルの傍に座っていた夜乃おばあちゃんが立ち上がった。