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ホラーDVDフラグ

後半にシロ視点が入ります。

 生徒会室にて。俺はいつものように自分の執務を全うしていた。

 ちょうど先日衣替えを終え、六条院の生徒達はブレザーから夏服であるワイシャツとベスト姿に。


 高校三年生と言えば進学や就職に備えているが、六条院はほとんどの生徒がエスカレーター。

 勿論外部に受験する者もいるが、俺はそのままエスカレーターで六条院の大学へ。

 そのため、朱音が志望校に合格しても離れずに済む。

 高校在学中に車の免許を取り、大学生活を朱音とデートで埋め尽くしたいという密かな野望を持っている。


 ――一年生は、生活ペースが慣れて来たようだな。


 俺は顔を上げて前方にある生徒会役員達の席へと顔を向けた。

 役員には新一年生も加わっていて、入学当初はガチガチだった顔が今は落ち着いている。


 自分も仕事の続きをやろうと、パソコンのキーボードを打っていく。

 もう少しで書類が完成するというタイミングで、前方より「会長」と声を掛けられてしまう。


「ん?」

 俺はパソコンを操作するのをやめ、ゆっくりと顔を上げれば、新一年生の新庄しんじょうの姿が。

 六条院は基本的に幼等部からエスカレーター式のため大抵が顔見知り。

 新庄もそうで、中等部では同じ生徒会だった。


「書類の確認をお願いします」

「相変わらず仕事が速いな」

「僕なんかまだまだですよ。匠先輩に憧れていますので、先輩目指して頑張ります。ご指導よろしくお願いします」

「今でも充分だと思うぞ」

「いいえ、まだまだです。匠先輩は遥か頂点にいらっしゃいますから。あの……会長。実は気になっていることがあるのですが、執務に関係ないことですが伺っても?」

「構わないぞ」

 俺は受け取った書類を軽く確認しながら唇を動かす。


「会長の机にあるクマのヌイグルミは、もしかして美智様とお揃いなのでしょうか? 先輩にしては珍しいなぁとずっと気になっていたんです」

「美智? 美智も同じのを持っているけど、美智とではなく俺は朱音とお揃いだ」

「朱音さん……ああっ! 昨年の六条院祭で噂になった彼女さんですね。羨ましいなぁ。僕も婚約者がいますけど、彼女はお揃いとか好まないタイプなんです。僕も恋愛に関しても会長を目指しますね!」

 どう答えれば良いのだろうか。俺と朱音はまだ付き合ってないのだが……

 むしろ、親が決めた婚約者でも仲が良い彼女がいる新庄は、そのままでいいんじゃないか?


 新庄は爽やかな笑顔を残して自分の席へと戻って行った。


 ――あー。なんか、朱音のことを話したら朱音に会いたくなっちゃったなぁ。


 執務や授業に集中していれば彼女のことを考えずに済むと思っていたけど、些細なことでどうしても彼女を思い出してしまう。

 俺はスマホの待ち受けを見て朱音不足を補おうと、机の上に置いてあったスマホへと手を伸ばせば、ランプが点滅しているのに気付く。


 ――ん? メッセージ?


 スマホの電源ボタンを押せば、シロを抱き締めている朱音の姿が映し出される。

 可愛いと可愛いで俺にとって最大の癒しの待ち受けだ。

 いつか朱音が抱きしめているのがシロではなく、俺であって欲しいと願う。


 アプリのメッセージを読むためロックを外せば、アプリ一覧と共にメッセージが表示された。


 ――朱音からだ。


 文字を読んで行き、俺は歓喜の雄叫びを上げたくなってしまうのをぐっと堪える。


 内容は、朱音からのお誘いメッセージだった。

 朱音がクラスメイトから勉強の息抜きにホラーDVDを進められて借りたらしい。怖いから、もし俺の時間があれば一緒に見て欲しいということだ。

 美智ではなく、俺にアプリメッセージが来た!! という大進歩。


 ……美智にも同じメッセージを送ってないよな? いや、でもそれなら美智も一緒にいるグループにメッセージを送るだろうし。


 どうしよう。幸せ過ぎて顔がにやけてしまう。

 久しぶりの朱音としかも、ホラーDVD。


 朱音は怖いのが苦手なので、シチュエーションは決まっている! しかも、美智もいないからフラグは全て俺が回収できるはずだ。


 俺がすぐさま、了承のメッセージを送ったのはいうまでもない。




 +

 +

 +



 生徒会の仕事を上機嫌でしていたため、臣を始めとした友人には俺の身に何が起こったかすぐさま悟られ、後輩達には「会長、ご機嫌ですね」と言われる始末。

 どうやら嬉しさがにじみ出てしまったらしい。


 五王の屋敷に戻っても、俺のテンションは止まらなかった。


「シローっ! 聞いてくれ。朱音とホラーDVDを一緒に見ることになったんだ」

「わふっ?」

 廊下でシロにばったり出会ったので、俺は嬉しさのあまりシロへと報告。

 きょとんとしているシロの後方をミケが通ったので、すぐに呼び止めミケにも報告。


 いつものようにスルーするかな? と思ったミケだったが、珍しく俺の話を聞いてくれていた。


「これは絶対にフラグ立つよな!」

「ワン」

 シロが俺の周りをジャンプしている中で、ミケが「みや~、みや~」と鳴いている。

 これはきっと俺のことを応援してくれているのだろうと思えば、ミケが今度はシロに向かって鳴きだす。


「にやー、にゃー、にゃ」

「わふっ?」

「みゃみゃみゃー」

「わふっ」

 ミケとシロは顔を見合わせたまま、何か会話をしているようだ。


 何を話しているかさっぱりわからないが、猫語と犬語は話が通じ合うのだろうか?

 俺としては日本語と英語くらい違うと思っているんだけど。


 そういえば、猫や犬の言葉が翻訳できる機械やアプリとかあるのかな?

 もしあったら、何を言っているのかわかるかもしれない。

 きっと、俺と朱音のことを応援してくれているのだろうと思い、俺は部屋に鞄などの荷物を置きに向かった。







(シロ視点)


「ご主人様ご機嫌だったねー。朱音ちゃんとでぃーぶぃでぃー? 見るって言っていたけど、でぃーぶぃでぃーってなに?」

 ご主人様が立ち去った後、僕はミケおばあちゃんに聞いてみた。


「シアタールームで匠や光貴がたまに見ているやつだ。匠にも言ったけど、ヘタレイケメンの匠にしては絶好のチャンスをものにしたな」

 ヘタレイケメンってなんだ……?

 あっ! そうだ。思い出したよ。イケメンってたしかカッコイイって意味だよね! 確かに僕のご主人様はカッコイイもん。


「いいか、シロ。さっきも言ったが、朱音が一緒に見ようと言っても絶対に匠と朱音の間には座るなよ。シロが真ん中に座ったら、朱音が匠ではなくシロに抱き付くからな」

「うん。わかったー。真ん中には座らないよ。でも、朱音ちゃんに一緒に見ようって言われたらどうすればいいの? 僕、朱音ちゃんのこと大好きだし」

 朱音ちゃんはいっぱい遊んでくれるから大好き。


 シロちゃん大好きってぎゅっとしてくれるんだけど、ご主人様が羨ましそうに見ているから、僕はご主人様の元に必ず向かう。

 そして、僕のことを抱きしめていいよって言ってあげるんだ。


「朱音もシロのことが大好きだから一緒に居てやればいい。朱音も受験勉強で疲れているだろうから、ゆるキャラ的なシロの癒しも欲しいだろうし。朱音の隣に座ればいいんじゃないか? そこは匠がびしっと男らしく『怖くなったら、俺にしがみ付いて』って言うだろうし」

「そっかー」

 朱音ちゃんと久しぶりに会えるのが嬉しい。


 前はよくうちに来てくれていたけど、今は受験生なんだって。

 だから、あまりうちに来られなくなったってご主人様が寂しそうに言っていた。

 朱音ちゃんに会える時間が減って、僕も寂しい。


「朱音が五王家の家族になったら、一緒に暮らせるぞ」

「家族に? わー、今すぐなって欲しいよ」

「それは匠次第だ。匠が朱音と結婚したら万事解決する。匠に光貴のチャラさがあればなぁ」

「チャラいって軽いって意味だっけ? でも、軽かったらご主人様じゃないよ」

「確かにな。まぁ、私は朱音と匠がくっついたら美智が嬉しいだろから、協力してやるだけだ」

「ミケおばあちゃん、美智ちゃん大好きだもんね」

「当たり前だ」

 そんなことを言っているけど、ミケおばあちゃんがみんなのことも好きなことを知っている。


 朱音ちゃんが泊りに来ると、僕は朱音ちゃんと一緒に寝るんだけど、ミケおばあちゃんは僕の代わりにご主人様と一緒に寝てくれる。

 お触りは禁止らしいけど。


 ご主人様と朱音ちゃんが結婚したら一緒に暮らせるのか。早く訪れて欲しいなぁ。そうすれば、みんな一緒にいられる。


「とにかく今度朱音がうちに来る時がチャンスだ。いいか? 朱音と匠を見守るぞ」

「うん。わかったー。ちゃんと朱音ちゃんの隣に座るね」

「――随分楽しそうね。私もまぜてー。ミケ、シロ」

 突然割って入ってきた声に、僕とミケおばあちゃんは同じ方向へと顔を向ける。

 すると、そこには着物姿の女の子が立っていた。


「あっ、夜乃よるのおばあちゃん」

「誰がおばあちゃんよ。私は永遠の六才よ」

 夜乃おばあちゃんは頬を膨らませながら腰に手を当てている。


「外見だけだろ。この家で最高年齢じゃないか。明治初期生まれの自称座敷童」

 ミケおばあちゃんの呆れた声が聞こえてきた。


 夜乃おばあちゃんは、ご主人様のかなり前の御先祖様というものらしい。

 座敷童って言っているけど、座敷童ってなんだろうね。


「相変わらずミケはクールビューティーね。私のことを最初に座敷童って言ったのは光貴よ。それより、何か面白いことあったの?」

「匠と朱音がホラーDVDを今度見るらしい。二人きりで」

「あら、絶好のチャンスじゃない。あの二人ってじれじれなのよね。少しずつ進展しているけどさ。前にシロがじゃれついた弾みでほっぺにキスした事件以来、何もないんでしょ?」

「ないね。ただ、匠が進展あったぞ。ブライダル雑誌を定期購読し始めた」

 ブライダル雑誌ってご主人様がよく読んでいる雑誌かな。


「え、待って。あの子、付き合ってもないのにブライダル雑誌読んでいるの? 未来先取りしすぎているわよ。朱音と結婚出来なかった未来が怖いわ。どうなるの? あの子。私、座敷童っていっても悪い気を祓うしかできないわよ」

「結婚できなかったらどうしよう系は、春ノ宮家の祖父が常に心配している」

「……でしょうね。じゃあ、やっぱり今度のDVD観賞がチャンスだわ。楽しみね」

 どうチャンスになるかわからないけど、早くその日が来て欲しいなぁって思う。


 僕も朱音ちゃんに会いたいけど、ご主人様が朱音ちゃんに一番会いたいだろうから――






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