第二話 さくらからの依頼 その二
お気に入りの桜色のランドセルを背負ったままで学校帰りに一枚のチラシを頼りに藁にもすがる思いで【猫又探偵社】へ少女はやって来た。
ところが実際来てみたら頭で描いていた【探偵社】とはあまりにもかけ離れていたのと額のたんこぶがズキズキと痛くて少女はソファーに座ったまま肩を震わせて俯いたままだった。
ドアに額を強打して意識を失いそして目覚めてみたら目の前に言葉を話す猫が二匹と少女が最も苦手とする大きな犬までいるのだから、すぐにでもこの部屋を出て家に帰りたいというのが普通の人間の子供の心境だろう・・・。
(あの大きな犬も喋るんやろか?・・・噛んだりせえへんよな?)
少女はチラッとジャーマン・シェパードの政宗を見て目が合うと慌てて目線をソファーの前のテーブルに置かれたオレンジジュースの入ったガラスのコップへ戻した。
(アカン・・・涙出そうやわ・・・どうなってるんや・・・)
今すぐ泣きたい気持ちでいっぱいの少女に向かって責任者である虎吉が少女の向かい側に座って淡々と質問を始めた。
「このチラシを見てここへ来たと言う事は何か困った事を抱えてると言うことやろ?話し聞いたるからとりあえずはお嬢ちゃんのお名前を教えてもらえるかな?あと年齢もな!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
確かに依頼したいことがあったからここまで来た少女だったがさすがにこんな怪しい猫又に名前とか年齢を気安く教えて良いのか困ってしまいすぐには虎吉の質問に返答出来なくて目にいっぱい涙を溜めて俯いていた。
「へへへ♪怖がらんでも大丈夫やで?別にお嬢ちゃんを食べたりせえへんがな!(笑)これも何かの縁やと思ってどんなことを頼みに来たんか位は話してくれへんかな?何でも力になったるで?ほら?このオレンジジュース美味しいんやで!」
少女の横にへへへ♪と頭を掻きながら座ったニャンゴローがティッシュで少女の涙をそっと拭うとニィっと笑ってオレンジジュースを少女に差し出していた。
「あ・・・ありがとう・・・あの・・・うちは木下さくらって言います。10歳です。」
「うんうん・・・キノシタサクラちゃんね・・・10歳っと・・・で?どうしたんや?」
ニャンゴローに絆された少女はやっと顔を上げて虎吉の質問に答えてオレンジジュースを一口飲むと美味しいと言って少しだけ白い歯を見せて笑った。
「お・・・お母さんを・・・お母さんを探してもらいたくて・・・」
「お母さん?お嬢ちゃんの・・・さくらちゃんのお母さんを探すんか?」
少し虎吉が目を丸くしてさくらと名乗る少女に念をおすように依頼内容を聞き返していた。
「そうです!うちのお母さんです・・・二年前にお父さんとリコン?ってやつをして家を出て行ってしまったんです。ずっと会いたくてもお父さんが困ると思って・・・うち我慢してたんやけど・・・やっぱり・・・すごく会いたくて・・・そしたらこのチラシがポストに入ってたから・・・」
「ううううう・・・そやったんかー・・・泣かせるなぁー・・・まだまだ母親が恋しい年頃やもんなー!!ズズズ・・・ブシュッ・・・ブシュブシューーーン!!」
さくらの横で聞いていた涙もろいニャンゴローがすでに泣きながら手に持っていたティッシュで止まらなくなった鼻水をすごい音をさせてかんでいた。
「大人の事情ってやつやなー!それで悲しい思いをするのはいつでも残された子供なんや・・・人間ってやつは複雑な生き物やからな!それでも子供が会いたい言うなら母親を探したらなアカンな!」
「ほっ!ほんまに?探してくれるん?ありがとうございます!!・・・あ!そやった・・・お金・・・どれくらいかかるんですか?今はうち・・・これだけしか持ってないんやけど・・・」
さくらの母親を探すことに前向きな様子の虎吉にさくらは前のめりになって嬉しそうに声を上げたかと思うと急に不安そうな表情で依頼料を虎吉に持っているだけの小遣いをテーブルに広げて見せて尋ねていた。
これだけとさくらは言ったが少なくとも千円札を十枚ずつ束ねた札束が20束はある。
「子供のくせにこんなに小遣い持ってるんかい!!今時の小学生は金持ちやなぁー(笑)依頼料は後から考えようや!今はとりあえず母親の名前とか田舎・・・じいちゃんやばあちゃんが住んでる所とか教えてくれるか?あとは・・・写真が欲しいな!」
「お父さんがご飯代言うて毎日お金置いていくからそれをずっと少しずつ残して貯めてました!(笑)お母さんの田舎は行ったこと無いです。おじいちゃんもおばあちゃんも会ったこと無いし・・・写真はあります!これで良いですか?」
さくらは見かけよりもずっとしっかりした子供のようで広げていた札束をソファーの裏側に置いてあるランドセルの中へ仕舞うと一枚の写真を取り出してテーブルの上に置いてソファーに座りなおすと虎吉を見た。
そしてその写真を見てニャンゴローが驚いて声を上げていた。
「ああああああ!ちょっと!ちょっと!この人って料理研究家の前園ユリさんですよ!!うわぁ~!」
「なんや?有名人なんか?そう言えばテレビで見たことあるような・・・」
差し出された写真に写っていたのが料理好きでテレビっ子のニャンゴローが師匠と勝手に慕っている売れっ子料理研究家の前園ユリだったのでニャンゴローは声を上げてソファーから転げ落ちてしまった。
おおきに~二話目読了ありがとうございます。
今回の挿絵もお楽しみ頂けましたでしょうか?
想像以上のイラストを頂けてとても感謝感激している柳乃でございます。
マダラ画伯ありがとうございましたm(__)m♪
招き猫家の登場はもう少しだけお待ち下さいm(__)m♪