第一話 さくらからの依頼 その一
ここは日本の西側にある無数の人間たちが行き交う誰もが知る有名なくいだおれの街
そのくいだおれの街の南の方の繁華街から少し外れた住宅街にある公園のすぐ前にかなり老朽化が進んだいつ取り壊されても不思議ではない築100年超えのそのアパートは何とも言いようのない不気味な雰囲気を醸し出しつつもひっそりとそこに存在していた。
そのアパートの二階部分の奥にある『猫又探偵社』という手書きの古びた木製の縦長の看板が掲げられた一室の前でジッと一人の少女がドアを見つめて立ち尽くしていた。
そして少女が意を決してドアノブに手を伸ばそうとしたと同時にそのドアは勢い良く少女に向かって開かれていた。
”ゴーーーーン!!”だったか?”グワァーーーン”だったか?もしかしたら”バァーーーーン!!”だったかもしれないのだがとにかくドアが開いた瞬間に物凄い音がして顔面にドアを食らった少女は脳震盪を起こしてその場で気を失って倒れてしまった。
幸い背中に背負っていた桜色のランドセルのお陰で後頭部を床で強打せずに済んだ事が少女にとっては、せめてもの救いだったのかもしれない。
「あれ?どうしたんやろ?なんかドア開けたら物凄い音したで?!誰かおったんか?このドア古いからあんな勢いで当たったらドアが壊れるやん!!大丈夫かいな・・・」
ドアを力一杯開けて出て来たのはこの猫又探偵社に居候中の妖怪「西のメリーはん」で
ドアに当たった障害物に気付いてまずは部屋のドアが壊れていないか確認していた。
部屋のドアが壊れていないことを確認して目の前に白目を剥いて転がっている人間の少女にやっと気付いたメリーはんは驚いて物凄い叫び声を上げながら必死になって少女を起こそうと頬を叩いてみたり身体を揺すってみたりしていた。
「ちょっと!大丈夫か?なぁー!ちょっと!起きて!起きて~な!お嬢ちゃん?大丈夫か?どないしたんやー!傷は浅いでー!死んだらアカーン!!責任者出て来てーー!!虎吉さーーーん!!大変やーー!!」
メリーはんに呼ばれて部屋の中からニュッと顔を出して
自分の前足の肉球を顎に当てて面倒臭そうに登場したのが、
見た目は明るい茶色の雄の雉虎猫だが・・・
そのお尻の方を見ると長くしなやかに分かれた三本の見事な尻尾を持ち
これまた器用に後ろ足でヒョイッと立って二足歩行で歩いている。
おまけにこの猫・・・
人間語(主に関西弁)を流暢に話す事が出来るいわゆる猫又という妖怪だ。
そしてこの猫又が【猫又探偵社】の責任者「猫川虎吉」である。
「ごめんやけど・・・うちなぁ~これからちょっと出かけるから!!虎吉さんこの子頼むわー!」
「へいへい!またどこぞの人間のとこへ電話しながら押しかけるんか?あんまりやりすぎんようにしときや!」
虎吉の言葉が耳に届く前にすでにメリーはんはヒョウ柄でデコられたド派手なガラケーを片手にこれから向かう人間の所へ電話をかけていた。
「もしもし~~?あ~~うちやけど!うちうち!!メリーはんやけど~~~!これからアパート出るからな!あーーーはいはい!また途中で連絡するわ~!」
ほぼ一方的に言いたいことを機関銃のように喋り終えるとメリーはんは楽しそうに鼻歌を歌いながらアパートの階段を軽やかに降りて行ってしまった。
「大丈夫かなぁー・・・この前は野良猫に向けてエアガンを打ったり学校で真面目でおとなしい子を虐めて小遣いを巻き上げてたような酷いクソガキやったからメリーはんやり過ぎてしもてそのクソガキ生きた屍状態で病院送りにしてしまったらしいですよ!なんぼ都市伝説の妖怪や言うても!ちょっとやり過ぎでしょ?(苦笑)」
虎吉の助手の「猫田ニャンゴロー」が横たわっている少女を引きずって部屋へ運びながら虎吉に向かって顔を引きつらせながら話していた。
すると用心棒のジャーマン・シェパードの「政宗」がその様子を見兼ねて黙って人型に姿を変えると少女をヒョイッと抱き上げてソファーへ寝かせてひざ掛けを掛けてやっていた。
「ううううう・・・あ・・・イタタタ・・・あーー痛い・・・」
「大丈夫か?頭打ったんやなぁー?ちょっと冷やしたほうがええかもなぁー」
やっとのことで目を覚まして起き上がろうとしている少女に向かってニャンゴローは素早くタオルを水で絞って少女の額を冷やしてやろうとしていた。
「ええええーーー?!嘘ーーーー?!なんで?なんで猫が猫がしゃべってるん?」
少女は驚いて大声を上げて叫ぶとキョロキョロと部屋の中を見渡しておでこを抑えながら立ち上がった。
「なんや?お嬢ちゃんわしらのことよう知らん癖にここまで来たんかいな?」
驚いている少女を慣れた様子で虎吉は依頼人の座るソファーへ座らせるとニャンゴローが用意していたタオルを少女の額にあててニィっと口の端を上げて笑った。
「だって!こここここ・・・このチラシを見て来たから・・・」
少女はスカートのポケットの中からそのチラシを取り出して広げて虎吉に恐る恐る手渡した。
虎吉は少女から手渡されたチラシの内容に目を通すとすぐにピンと来てニャンゴローの方を見た。
「へへへ♪せっかく探偵社って看板掲げてるんですから依頼が来んと商売にならへんでしょ?(苦笑)そやからちゃちゃっと手書きのチラシをコンビニで50枚程コピーしてご近所さんに配ったんですわ!」
「こないだからコソコソなんかしてると思ったらこんなチラシ作って配っとったんかい!」
ニャンゴローは頭を掻きながら虎吉に内緒でチラシを勝手に作ってご近所に配った事を認めて苦し紛れな言い訳をしながら顔を引きつらせていた。
「ああああああ!!もう!わかった!もうええ!もうええから!お前はこのお嬢ちゃんにジュースかなんか入れてやれ!無いならミケに頼んで貰って来い!!」
怒られたくない一心で虎吉を潤んだ瞳で見つめるニャンゴローに向かって虎吉は怒る気も失せたのか怒鳴って仕事を与えると怯えて震えている少女の方に向きを変えて髭をピンと立てて器用に前足でペンを持って手帳を広げると質問を始めていた。
おおきに~一話目読了ありがとうございますm(__)m♪
小説の挿絵は私の大切な読者であり良き協力者であるマダラ画伯さまにご協力頂きました。感謝でありますm(__)m♪