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名実ともにイムハンの妃になるということ。華亮が快復すると、私は威龍陛下に、今度こそ寝室に来ていただくよう使いを送った。
陛下は最初、かなり躊躇っておられるようだった。
「妃の方から呼ぶなど、はしたないことをして申し訳ありませぬ」
「いや、それは構わない。ただ・・・」
「ただ、これまで私のことを妹のように、娘のように慈しんでいらっしゃったので、戸惑っておられるのですか。私ももうミルヴァルでも立派な成人です」
「はは・・・、淑陽は鋭いな」
「もう一度、私の顔をよくご覧ください。以前寵愛されていた華亮さまのおかあさまに似ているという、この顔を。その方・・・斉旭さま、私をその方と思ってくださっても構いません」
「そんな・・・そんなことはできん!そなたと、斉旭は別の人間だ。淑陽、無理をしているのではないか」
「いいえ、私はこの三年間、陛下を敬愛して参りました。もう待てないのです。これからは、父や兄代わりではなく、夫として仕えさせてくださいませ。皇家の一員だけではなく一人の妃として、新しく陛下との絆を築きたいのです。どうか・・・」
無骨なところもある陛下は、返事の代わりに、私の中の世界で一番優しい口づけと愛撫をくれた。
少女時代に別れを告げた痛みの代償に、私の中で小さな自信が芽生えていた。愛されているということ。守るものがあるということ。
翌朝、夢うつつの中で、誰か男女の声を聞いた。
「そなたの毒は、今回はなかなか効かなんだのう」
「申し訳ございませぬ、怪しまれぬよう、効き目がゆっくりと現れる類の薬でございますゆえ」
「それにしても華亮め、ますますあのミルヴァルの奴隷女に似てきおって、いまいましい」
「・・・・・・」
「淑陽とやらは、いまだに陛下のお気に入りではないのかえ?」
「淑陽様のご寝室には、陛下はまだ一度もいらっしゃったことがないと・・・。皇子様がたとお歳が近いので、娘のように可愛がっていらっしゃるようです」
「ふん、まあよい。陛下の寵姫にならないのであれば・・・」
「しかし、畏れながら、こんな物を淑陽様の婚礼道具の中に見つけました」
「ん?これは・・・斉旭、あの奴隷女の髪飾りの片割れではないか!どうしてあの娘が!」
「もしかすると、そっくりな容姿やミルヴァルの出ということからも、あの2人には何か関係があるのかもしれません」
「まさか、斉旭のことを知ってあの娘はイムハンまで来たと申すか!」
「わかりませぬ」
「もしや、復讐に・・・?」
目が覚めて、私は震えだしていた。まさか、そんなはずは。
あの声は、三年前にも聞いた。それどころか、今でもよく聞いている。
玄峰。あの男が華亮に、毒を・・・?
そして、やはり華亮の母、斉旭妃は叔母だった。叔母の死の真相もまた、私は解かなくてはいけない。
こうして、私の闘いは始まった。でも、初めてここに来た日のように、私はもう怯えてはいない。悲しくもない。
今の私は、イムハンの第二皇妃にして、皇位後継者である華亮の“母”なのだから―――。
淑陽編、一旦ここで完結しますが、ファランが去った後のイムハンに何が起こったのかもまたいずれ...。