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イムハンでは、皇女が継承権を持ち、結婚せずとも帝位につける。それはまだミルヴァルに居た頃、学んだこの国の知識だった。現在陛下には、娘は美鈴皇女しかいない。当然本来の皇位継承者第一位は華亮だ。でも、あの皇后がそれを許すはずがない。鳳潔皇后の陰険そうな目つきを思い出しながら、華亮が女子と知ってしまったら・・・と私は戦慄した。
しかし、こうしてもいられない。このままだと華亮の熱は上がってしまうだろう。
「湯にはまだ浸かっていないのね・・・」
侍女に湯を持って来させると、私は華亮の身体をまず温めることにした。
「あったかい・・・おかあ、さん・・・?」
華亮の言葉に目が覚めたのかと一瞬私はぎくりとした。さらに驚いたことに、華亮は髪まで染めていた。私たちの国のブライトカラーの髪から、イムハンのダークカラーへ。
亜麻色の髪で眠る、華亮の顔に叔母の面影が重なり、これも母親の愛情だったのだと改めて思った。この子が、イムハンで恙無く生きていくための。
それにしても、この幼い身体に、なんて秘密を抱えてきたのだろう。
染料を探してもう一度髪を黒く染め直し、着替えさせた。途中でもし華亮の目が覚めても、私の心はとっくに決まっていた。
これからは、私が華亮のお母さんになって、守ってあげる。
私にとって、華亮もまた生きるよすがになった。もういつまでも、少女のままではいられない。華亮を守るためにも、イムハンの妃としての道を歩むしかない。
私は華亮の看病のため、しばらく華亮の部屋で食事を取ることにした。あの玄峰という臣下が、気を利かせたのかよく果物などを送ってくれるようになった。公務で会った時、私は玄峰に声をかけてみた。
「いつもありがとう、華亮も喜んでいます」
「恐れ入ります。華亮さまのお加減は」
「良くなっています。いずれ彩露殿にも顔が出せるでしょう。ところで、あなたはミルヴァルの言葉を話せる?」
「いいえ、まさか」
「前にあなたとよく似た声の人に、ミルヴァル語で話しかけられたことがあるの。婚礼の旅の途中で」
「お人違いですね」
玄峰は柔和に微笑んだ。「私は一度もミルヴァルに行ったこともなく、また淑陽様にお会いしたのは陛下の婚礼です」
深々と礼をする姿を見て、三年前の記憶もおぼろげになり、私は自室に戻った。やはり、人違いだったのだろうか・・・?