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それから三年の月日が過ぎた。陛下は私がミルヴァルで成人とされるまでの二年間、実の父や兄のように接してくれた。私はそれに応えるように、イムハンの言葉も覚えていった。しかしどちらかというと妃の一人ではなく、華亮皇子や翔豪皇子、美鈴皇女たちと兄弟姉妹のように一緒に過ごしていた。それはまるで、家族みんなでカタレニアにいた頃の生活を私に思い出させた。
本来そのような事は異例であり、臣下からは相当不審に見られていたようだ。陛下は実際、あまりに歳の離れた私をどう扱っていいのか、困惑されていたのだろう。いつまで経っても、陛下が私の寝室にいらっしゃる気配はなかった。
けれど、やはり永遠に子どものままの暮らしがそのまま続きはしなかった。事件が起こったのが、華亮が十三歳になった年のとある夏の日のことだった。
華亮と翔豪が宮殿の池のほとりにある木に登って遊んでいた。そこに美鈴がやって来て、自分もと登り始めたらしい。美鈴は途中で足を滑らせ、池に落ちてしまった。すると、すぐに華亮は美鈴を助けに飛び込んだという。
知らせを聞いた時には既に華亮は自室に戻ったあとだった。美鈴は水を飲んでしまったが、医師を呼んで意識を取り戻した。なのに華亮はなかなか戻って来ない。
侍女を華亮の部屋に向かわせたが、華亮がすごい剣幕で入れさせないのだと言う。
「どういうことなの?!」
私は黒曜に訊いた。三年前、逃げようとした時に出会った子猫だ。もう一匹の白瑛は華亮のところにいる。
「白瑛に訊いてみませんと、私もわかりませんわ・・・」
黒曜はやけに澄ましていた。猫と心は通じても、猫の心までは読み通せない。
それにしても、あの優しく聡明な華亮が取り乱しているなんて・・・?
「もういいわ、直接華亮に会います」
黒曜を置いて華亮の部屋に向かうと、扉の前にいた侍女たちが道を空けた。
「華亮?大丈夫なのですか?もうすぐ夕食よ?」
扉の向こうからは弱々しい声が聞こえた。
「大丈夫です、淑陽さま・・・。食事は、部屋に持って来てもらえませんか・・・」
「どうしたのです、あなたも水を飲んで具合が悪いのではないですか?医師を呼びましょう」
「いえ、それには及びません」
「では、私だけでも入れてください。あなたの顔を見せて、そうすれば病気じゃないかわかるから」
「・・・」
少しの沈黙のうち、
「では・・・淑陽さまだけなら・・・」
と中から錠の外れる音がした。
侍女をすべて下がらせて、私は一人で中に入った。
濡れたままの衣を着た華亮の顔は真っ青だった。
「華亮、あなた顔色が・・・」
口にした途端、華亮はそのままふらりと倒れ込んだ。駆け寄って抱き起こすと僅かに熱があるのがわかった。着替えさせなくてはと意識のない華亮の衣を解いた。そして、華亮の身体を目にした時、驚きとともに私は様々なことが理解できた。
華亮は、本当は皇女だったのだ。