表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

 それから三年の月日が過ぎた。陛下は私がミルヴァルで成人とされるまでの二年間、実の父や兄のように接してくれた。私はそれに応えるように、イムハンの言葉も覚えていった。しかしどちらかというと妃の一人ではなく、華亮皇子や翔豪皇子、美鈴皇女たちと兄弟姉妹のように一緒に過ごしていた。それはまるで、家族みんなでカタレニアにいた頃の生活を私に思い出させた。

 本来そのような事は異例であり、臣下からは相当不審に見られていたようだ。陛下は実際、あまりに歳の離れた私をどう扱っていいのか、困惑されていたのだろう。いつまで経っても、陛下が私の寝室にいらっしゃる気配はなかった。

 けれど、やはり永遠に子どものままの暮らしがそのまま続きはしなかった。事件が起こったのが、華亮が十三歳になった年のとある夏の日のことだった。

 華亮と翔豪が宮殿の池のほとりにある木に登って遊んでいた。そこに美鈴がやって来て、自分もと登り始めたらしい。美鈴は途中で足を滑らせ、池に落ちてしまった。すると、すぐに華亮は美鈴を助けに飛び込んだという。

 知らせを聞いた時には既に華亮は自室に戻ったあとだった。美鈴は水を飲んでしまったが、医師を呼んで意識を取り戻した。なのに華亮はなかなか戻って来ない。

 侍女を華亮の部屋に向かわせたが、華亮がすごい剣幕で入れさせないのだと言う。

「どういうことなの?!」

 私は黒曜に訊いた。三年前、逃げようとした時に出会った子猫だ。もう一匹の白瑛は華亮のところにいる。

「白瑛に訊いてみませんと、私もわかりませんわ・・・」

 黒曜はやけに澄ましていた。猫と心は通じても、猫の心までは読み通せない。

 それにしても、あの優しく聡明な華亮が取り乱しているなんて・・・?

「もういいわ、直接華亮に会います」

 黒曜を置いて華亮の部屋に向かうと、扉の前にいた侍女たちが道を空けた。

「華亮?大丈夫なのですか?もうすぐ夕食よ?」

 扉の向こうからは弱々しい声が聞こえた。

「大丈夫です、淑陽さま・・・。食事は、部屋に持って来てもらえませんか・・・」

「どうしたのです、あなたも水を飲んで具合が悪いのではないですか?医師を呼びましょう」

「いえ、それには及びません」

「では、私だけでも入れてください。あなたの顔を見せて、そうすれば病気じゃないかわかるから」

「・・・」

 少しの沈黙のうち、

「では・・・淑陽さまだけなら・・・」

 と中から錠の外れる音がした。

 侍女をすべて下がらせて、私は一人で中に入った。

 濡れたままの衣を着た華亮の顔は真っ青だった。

「華亮、あなた顔色が・・・」

 口にした途端、華亮はそのままふらりと倒れ込んだ。駆け寄って抱き起こすと僅かに熱があるのがわかった。着替えさせなくてはと意識のない華亮の衣を解いた。そして、華亮の身体を目にした時、驚きとともに私は様々なことが理解できた。

 華亮は、本当は皇女だったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ