プルサティラを鳴らす
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記憶の中にある彼女は、どの部分を切り取ったとしても皆の目を引く存在だ。
いつもきれいで、美しく、かわいく、かっこよく、彼女に足りないものは何だろう?と、一昼夜考えても結論が出ない。それは彼女に欠点がないことを示しているのではない。その欠点すら、まとめて愛せる存在であった。容姿だけでなく勿論性格面でもだ。彼女には敵がいない。どれだけ男子に好かれようと、教師に好かれようと、同性から疎まれることは決してなかった。なぜなら女子たちも彼女のことが好きだったからだ。裏表がない性格。天真爛漫でみんなを引っ張る。まさにコミックから出てきたような理想の女性だったからだ。皆彼女にあこがれ、好かれようとした。勿論この私も。
そう思っていたのは昔の話だ。今話したことも全部昔の話だ。
彼女の晴れ姿を見つめる私の瞳は、黒く、濁っている。
今、泣きながら両親に向けて感動のスピーチをしているのが、先ほど話した彼女だ。
白いドレスに身を包み、幸せそうな表情で泣いている彼女は、まるで天使が降臨したと勘違いするようなきれいさだった。
それと対照的に、黒い服に身を包み、誰もが涙ぐむスピーチに冷たい視線を送っている不細工が今の私だ。
「この年になってようやく、母と父の偉大さが分かり、あぁ私は愛されていたんだなぁ・・・と、わかるようになりました。本当にありがとう。大好きです」
パチパチパチパチ。拍手の音が広い会場に響き渡る。あぁ、なんてすばらしい式だろう。みんな幸せな顔をしている。自分の保護から離れていく娘を寂しそうに、それでいて嬉しそうに見つめる両親。これからパートナーとともに幸せになろうとする娘。絶対に彼女を幸せにすると覚悟を決め、精悍な表情をする奴。そして約一名を除き、それらをうれしそうに見つめる観客。
来なきゃよかった。ここにきたって自分の醜さが浮き彫りになるだけだ。
「何のアニメが好き?」
昼休み、いつも通りスマホでアニメを見ていたら、うるさい子が話しかけてきた
「何?急に話しかけてきて」
不機嫌そうに、イヤフォンをとる私。短い休み時間を邪魔されたんだ、これくらいの塩対応でいいだろ。
「いつもアニメ見ているからさー、アニメ好きなのかなって思った次第です」
敬礼して少しおどける彼女。その様子を見て短気な私は少しイラついた。かわい子ぶりやがって。しかしイラついても、それを外に出してはいけない。その最低限の処世術を持ち合わせていた私は普通に対応した。
「別に普通だよ。話題になっているアニメしか見ないし」
「へー、そっか。じゃああれ見た?今季一番の話題作の〇〇〇〇は!?」
少し興奮した様子でしゃべる彼女。顔を思いっきり私に近づけたせいで、少しのけぞるしかなかった。それにしても、やっぱり顔整ってるなー。こりゃ学年中がとりこになるわけだよ、ハッ。
「もちろん見たよ。もういい?早くアニメの続きみたいんだけど」
「えー、しょうがないなぁ。今回ばかりは仕方ない。」
かわいくため息をつく。何してもかわいくなるな、くそっ。
「じゃあ、また明日アニメの話しようねー」
その言葉にいやそうな顔で返したが、彼女に伝わっているかわからない。多分伝わっていないだろう。あんなきれいな笑顔だったんだから。
いつの間にか色々進んでいたようだ。知らない初老の男性が何か喋っていたが、今の私には何も耳に入らなかった。今は彼女との思いでを思い出すのに精一杯になっていた。現在の悲しい現実から逃れようとするために
初めのころはずっと塩対応だったことは覚えている。絡んだこともない子が急に話しかけてくるなんて、何かの罰ゲームかなんかだと思って、ずっと警戒していた。まぁただの勘違いだったけれども。
彼女は絶対的にやさしくて、純粋で、かわいくて、きれいだった。
友達はたくさんいるタイプじゃない私は、誰かと楽しく会話することが苦手だった。だから休み時間に私が嫌っていうまで、話しかけてくる彼女は非常に苦手だった。苦手なだけで嬉しくなかったわけではない。
「結構アクション系の漫画好きなんだ?」
「ん、確かにそうかも。男子が好みそうなジャンルが好き。」
「なるほどなー。ドラゴンボールとかも?」
「勿論。あれは義務教育だよ」
「ハハハ、なにそれ」
「そっちは恋愛系好きそうな感じする」
「当たってるよ。さすがですな。私のことよく知ってらっしゃる。」
「最近ずっと話してるからね」
この時、ずっともやっていた事を思い切って聞いてみた。なけなしの勇気をフル絞って、勇気ゲージがからになるまで。
「なんで・・・私に急に話しかけてきたの?これまでずっと絡みなかったじゃん」
「なんでって、君のことが好きだからだよ?」
「はぁぁ!ちょっとやめてよ」
らしくない高音を上げてしまった。仕方ないだろ、教室の隅っこで告白されるなんて思ってなかったし。
彼女は口角を上げ、にぃぃと笑みを深めた
「冗談だよ。こんなみんないる中で愛の告白しないって。」
「じゃ、じゃあなんで?」
「うーん、内緒。だけど安心して、めちゃくちゃポジティブな理由だから」
「なんだよそれ・・・」
あ、そういえばまだこの時の答え聞けてなかったな。
気になり始めたらしょうがない。彼女に今すぐにでも聞きたい気持ちがあふれてくる。
だけど、彼女と二人っきりで話すってなると、今にも泣いてしまいそうになるから難しいかもしれない。
ほんとに情けないな
あれ?いつの間にか閉会の時間になってた。彼女の一生に一回の晴れ舞台なのに、あまり覚えていない。これは友達失格だな。
見た感じ旦那さんもいい人そうだ。見た目からでしか判断してないけども。もし離婚することになったら一生恨む。あんたは私と何も関係ない他人だけれども、あんたが結婚する女性は私の人生で一番大切な人なんだから、殺されても恨むなよ。まぁそんなこと絶対ないと思うけど。
彼女の見る目は確かなはずだもの。私なんかよりずっと。
「愛をこめてはーなたばをー、大げさだけ―ど受け取って、理由なーんて聞かないでよね」
カラオケに二人で来ていた。彼女はやっぱり歌がうまかった。もともとの声がいいからそりゃ歌もうまいだろうと常日頃から思っていたが、予感は当たっていたようだ。
「うわー93点か、もうちょっと行けたなー」
「この点数でも十分高いでしょ」
「いやいや、この前まりこが100点取ったんだよ。この曲でね、すごくない?」
まりこ?だれだっけ。・・・・あー、あの身長高い同じクラスの子か。話したことなしから一瞬ピンとこなかった。そういえば仲良かったよな。
「それはすごいな。その子も呼んで来ればよかったのに」
勿論そんなことは思っていない。嘘である。よくしらない子とカラオケなんてバンジージャンプより嫌だ
「絶対そんなこと思っていないでしょ。私が別の子と話していたらすぐどっかにいくくせに。もー独占欲強すぎだよ。そんなに私のこと好きなの?」
「そりゃ好きなんだから、二人っきりでいたいよ」
あっちがふざけてきたから、こっちもふざけ返してやった。なかなか恥ずかしいな、面と向かって好きだっていうの。
「あ、そ、そう・・・。ありがと・・・」
なんだよ、その可愛いリアクション。顔を赤らめて、少し下を向いている。そんな顔されたら、こっちもまた照れてくる。
「つ、次、私歌うな」
お見送りして、今日の予定はすべて終わった。あとはもう家に帰って寝るだけだ。明日からはまたいつも通りの生活になる。
「すいません、あ、やっぱり来てた」
急に誰かから話しかけられた。
「まりこ・・・ちゃん」
久しぶりに会った高校の頃の友達。見た目は少し大人っぽくなって、昔はかわいい系だったが今はきれい系になっている。髪の毛もきれいな黒髪から派手な金髪になって、一瞬気付かなかった。
「そうだよ!久しぶり、元気してた」
「うん、元気だったよ。そっちはずいぶん見た目変わったね」
「この髪?金髪にするの昔から夢だったんだよねー」
「それでどうしたの?何か用事」
「別に用事ってわけじゃないけど・・・ちょっと話さない?」
「ねぇ、ちょっといい?」
「なんでしょうか・・・・・」
またもやクラスの人気者に話しかけられた。この子の名前はまりこだ。この前カラオケ行ったときに話題に上がったから覚えていた。
「誕プレ選びに行かない?」
「誰の誕プレ?」
「わかるでしょう。私とあなたの共通の友達。多分一人しかいないでしょう」
なるほどな。確かに一人しかいない。でもなんで私なんだ?ほかにもいっぱいいるでしょうに。
「ちょっとあなたとお話をしたかったし、いい機会かなって」
「なるほど・・・」
「それで、どう?」
美人の圧にやられた私はもはやこう答えるしかできなかった。
「喜んで」
「懐かしいなー、初めて話した時がもう4,5年も前か」
「そうだね」
今、私たちは近くの喫茶店でお話をしていた。久しぶりに会った友達だし、これから会う機会も少なくなると思うから、どうせなら行ったほうがいいと思ってここにいる。ほんとは帰りたい気持ちが強いんだけど。
「まさか、あの子が一番初めだとはね、考えもしなかったよ」
「そうかな?美人だし案外直ぐだと思ってたけど」
「いやね・・それがそうでもないんだよね」
「どういうこと?」
なんか含みがあるような話し方だ。回りくどいしゃべり方は何も変わっていない。高校生のころから。結論だけを早く求める私と、相性が悪いそれに懐かしさを覚える。
「だって高校のころあの子って男子と何にも接点なかったじゃん。あれだけ愛嬌あって美人でクラスの中心人物だった子がだよ」
「別にそういう人もいるでしょ。大学入ってから恋愛したくなったんじゃない」
なぜか胸が痛んだ。別に普通の会話だ、なんも変哲がない、日常会話。なのに苦しい。
「うーん、その説もあると思うよ。でもねこっから本題」
うん?なんか話がつながってない気がする。そしてやはり回りくどい。結局何が言いたいんだ。
「これはね、私なりの解釈。信じるも信じないもあなた次第ってやつ。あの子、君の前でだけ態度が少し違ったんだよ?」
「何の話?」
「誰にでも平等な博愛主義だと思ってる人も多かったけど、君の前でだけ少し、ううん。明らかに態度が違ってた。心の底から嫉妬するレベルでね」
「そんなことないでしょ。私にとってたった一人の親友だったけど、あの子にとったらただの大勢の友人の中の一人でしょ。友達数えきれないぐらいいたし」
ズキッ
また痛い。張り裂けそうなくらい。自分で自分を傷つけている。
「君はそう思ってるんだね・・・」
「私・・・高校のころあの子のこと本気で好きだったんだ」
「え?」
「全部好きだった。本当に全部。告白でもしようかなーとか思ってたんだけど、勝ち目なかったし、友達続けたかったから結局やめた」
「・・・・なんで私にそれを伝えたの?」
「高校のころ、あなたになりたかったから。今となっては違うけどね・・・ごめん。これは意地悪だった」
やばい。なんでだろう。とても泣きそうになってる。急に来た。現実と後悔が。
「呼び出したのはこれが半分の理由。理由になっているかはわからないけどね」
待って、今、ちょっと頭が痛い。
「もう半分がある人に頼まれたから」
待って、ホントに。
まりこが誰かに着信をかける。すぐに切る。
「じゃあ、私はこれで。ごめんね、少し八つ当たりみたいになっちゃった。またどっかで会いましょ」
お金を置いて席を立つ。ほとんど入れ替わるようなタイミングで別の人がこの席に来た。
「やっほー。元気してた?」
目の前に私の最愛の人がたっていた。
多分君は私のことを覚えていないと思う。今は明るくなって、友達もたくさんいるような私だけど、昔は本当に地味な女の子だった。
そんな私にとって君はヒーローだったんだ。
グイッ
髪の毛を男子に引っ張られる
「い、痛い!やめてよ・・」
「こんだけ髪の毛あるんだからちょっと抜けてもいいだろう」
ギャハハハと下品な笑い声が聞こえる。なんで3人がかりで私をからかうんだろうか?ずっと不思議でしょうがなかった。
「おい」
ボゴッ
「イタッ!」
男子の一人が殴り飛ばされる。
「男だったら、地球を救うために群れろや。女の子によってたかってんじゃないぞ」
そこにいたのは、黒髪のショートカットで丸眼鏡をつけた可愛い女の子だった。身長は小学生にしては大きく、男子たちより大きかった。
殴られた男の子が泣きながら逃げ出したことで、ほかの人もどっかに行ってしまう。
敵をやっつけてくれたかわいい女の子は私に手を伸ばしてきた
「大丈夫?もう安心だよ」
その奇麗な笑顔に、私は・・・・・
そっからいろんなことを話した。私が転校するまでの数か月間。いろんなことを話したし、遊びに行った。
転校すると伝えたときは、お互い大号泣して大して話せなかったのがずっと心残りだった。
数年後、地元に戻ってきて進学した高校で私のヒーローを見かけた。
これは運命だと確信していた。
「うん。元気だったよ」
笑いながらそう答える。
「そう、それはよかった。卒業旅行ぶりだから1年ぶりぐらいかな?」
「そうだな。まさかあの時はこんな早く結婚するなんて思っていなかったけど」
「確かにね。私も思ってなかった・・・」
気の置けない関係のはずなのになぜか気まずい空気の二人。これを解消するのに一番早く済む方法は、お互いに本心をさらけ出すことだと両人とも理解していた。
それを実行できる勇気がなかった。
「私をここに呼んだのはなぜ?しかも、わざわざまりこを経由してまで」
「直接呼ぶのはちょっと恥ずかしくて・・・」
「本当に?」
息をのむ音が聞こえる。幸せな式の後に、緊張感あふれる時間を過ごしている。こんな不思議な光景はなかなかお目にかかれない。
「本当に、恥ずかしかったからまりこを挟んだわけ?」
「・・・ごめん、嘘ついた。・・・直接呼んだら断られる気がして・・・真理子に頼んだ・・・」
これは本心だ。
「そっか」
「結婚おめでとう」
「ありがとう」
また沈黙が生まれる。よく話しかけるほうが、今日は口数が少ない。理由は本人にしかわからない。
「ねぇ、結婚したばかりのあんたに言うのもなんだけど・・・」
「高校のころからずっと・・・」
「まって!」
立ち上がり、次の言葉を紡ぐのを遮ってしまう。
「ごめん、遮って。でも私から言わせて。多分、私のほうが先だったから」
深呼吸して、気持ちを落ち着ける。覚悟を決めて、目の前の彼女を見つめる。
そして笑顔で、
「ずっと好きでした」
「私も」
多分、ずっと両想いだったんだろう。この気持ちが成就しなかったのは、お互いに勇気がなかったのと、あいつの旦那さんの器のでかさのおかげだろう。
当時、私への思いをあきらめたあいつはいろいろぶっちゃけたらしい。主に私に対する気持ちを、今の旦那に。それを全部受け止めてくれて、今の形になったらしい。
なんだ、私が恋のキューピッドなんじゃないか。
多分あいつが結婚してなかったら、お互いに気持ちをぶちまけれることはなかっただろう。
これだけは確信を持って言える。二人とも繊細で、恥ずかしがりやすぎたのかもな。
お互い友情を選んだ結果が今の私たちだ。
断言して言える。後悔はしない。
でも、別の世界線とかだったら恋人になってたかもな。
「新婚旅行私もつれてってくれよ」
「ええ!それはちょっと・・・」
「冗談だよ。またどっか遊びに行こう。勿論二人で」
「独占欲強いねー。そんな私のこと好き?」
「うん。好きだよ」
ぷりてんだー




