「普通」じゃない、ナニカ。
『力の刻印』――それは所有者に異常な能力を与える紋章のことである。
だが、その起源は自然の産物ではない。悪名高き科学者、ヴォルク博士が、人体実験として生み出した“人工刻印”だった。街の路地や戦闘アリーナで見られる刻印は、元はすべて博士の実験体からコピーされたものにすぎない。
能力者たちは互いに力を競い合い、時には街を破壊しながら生き延びる。そして、刻印を持たぬ者は――ほとんどいない。
だが、トノは例外だった。彼は刻印を持たない唯一の人間。その体は普通で、どこにでもいる少年の姿をしている。それでも、何かが違った。彼の視線はいつも、能力者たちの狂気と光を鋭く見据えていた。
「……なぜ俺だけ、力がないんだ」トノは自分の手のひらを見つめた。そこには何の印も刻まれていない。ただの皮膚。それなのに、街を覆う恐怖は、確かに自分を指名しているかのように感じられた。
その日、路地裏で小さな戦闘が始まった。二人の刻印保持者が、塵を散らしながら互いに力をぶつけ合う。トノは身を潜めながらも、その戦いを冷静に観察した。他者には見えない「歪み」が、戦闘の中心にうごめいていたのだ。
――その瞬間、トノの中で何かが目覚めた。刻印はない。だが、彼には刻印者すら理解できない「何か」が、眠っていたのだ。
静かに、だが確実に、トノは歩みを進めた。




