表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/11

一進一退

那須の山々が、漆黒の闇に飲み込まれていた。


殺生石の周辺は、爆発の余波で土煙が立ち込め、硫黄の臭いが濃厚に漂う中、九尾の狐の咆哮が地響きのように響き渡っていた。目覚めたばかりの妖獣は、地下からの解放感に浸る間もなく、現代の火力の洗礼を受けていた。


紫がかった霧がその巨躯を包み、黄金の瞳が周囲を睨みつける。体長50メートルを超える赤毛の体は、炎の尾を八本、闇雲に振り回し、空を切り裂くように鞭打っていた。狐の意識はまだ混濁しており、千年の眠りから目覚めたばかりの寝ぼけ眼で、状況を把握しようとしていた。



「何だ、これは……おのれ人間ども……」



狐の心に、古の記憶がフラッシュバックする。


かつての栄華、宮廷を操った日々。美貌と知略で帝を惑わし、数多の民を苦しめたあの時代。


だが、今の敵は違う。鉄の臭いと火薬の煙が、鼻を突く。まだ完全な力は発揮できていない。


狐の咆哮が山を震わせ、周辺の木々が根元から折れ、岩が転がる。狐の体が一瞬よろめき、黄金の瞳が怒りに燃える。痛みは鋭く、再生力が追いつかないほどだった。


狐は即座に反撃の姿勢を取る。残りの尾が蠢き、妖気の塊を形成し始める。空気が歪み、紫の光が尾先で渦を巻く。






一方、司令本部では、FDC(射撃統制センター)がざわめいていた。モニターに映る狐の3D熱源モデルで、Tail-1の切断が確認されたからだ。


佐藤1等陸佐は、拳を握りしめ、満足げに頷いた。センター内のオペレーターたちが、キーボードを叩く音が響く。熱源マップでは、狐の体温が異常上昇を示し、切断された尾の部分が急速に冷却されているのが見て取れた。佐藤の隣に立つ米軍のジョンソン中佐が、無線で確認する。



Tailテイル-1 downダウン. Goodグッドゥ hitヒットゥ. Proceedプロスィードゥtoトゥ phaseフェイズ twoトゥー.」


(テイル・ワンを排除。命中確認。第二段階へ移行せよ。)



センターの壁に張られた地図では、狐の位置が赤いマーカーで示され、周囲の部隊配置が青い点で散らばっている。


佐藤は即座に次の指示を出す。間髪入れず、第二射の準備が整っていた。Tail-2を狙った次の波、12発の精密誘導弾が、夜空を切り裂いて飛翔する。


99式155mm自走榴弾砲から発射された弾は、初速827m/sで放物線を描き、M777A2の軽量牽引榴弾砲が追撃。HIMARSのGMLRS(誘導多連装ロケット)がマッハ3で突進する。弾道は完璧、着弾寸前の軌跡がモニターに表示される。


各弾のGPS信号がリアルタイムでフィードバックされ、風速3.2m/sの補正が自動適用されている。


砲兵たちの心理は高揚していた。


陣地で待機する自衛隊員の一人、砲手の高橋二等陸曹は、汗を拭いながら思う。



(一撃で尾を落としたぞ。次もいける! 家族のため、日本のためだ。)



だが、九尾の狐は既に朦朧の霧を振り払い始めていた。黄金の瞳が鋭く光り、飛来する弾の速度を見切る。



「来るか……人間の玩具め!」



狐の尾が一斉に動き、妖気の塊が尾先から生成される。赤黒いエネルギーの球体が、無数に浮かび上がり、弾幕のように乱射された。


乱れ飛ぶ妖気弾は弾道を整えるとランダムに一気に加速。音速を超える速度で来る飛来弾を一直線に迎撃。最初のエクスカリバー弾が、妖気弾の群れに飲み込まれ、空中で爆発。連鎖的に他の弾も撃ち落とされる。


夜空に花火のような爆炎が広がり、破片が雨のように降り注ぐ。爆音が谷間に反響し、土煙がさらに濃くなる。


狐の妖気弾は、単なるエネルギーではなく、近接で破裂して弾体を破壊する性質を持っており、精密誘導システムを無力化していた。


九尾の狐は自衛隊と米軍の初撃を即座に分析。即興で迎撃手段を考案していたのだ。



「全弾撃墜! 敵の反撃、エネルギー弾らしきものによる迎撃確認!」



FDCのオペレーターが叫ぶ。


モニターでは、撃ち落とされた弾の残骸が熱源として散らばる。佐藤の顔が強張る。狐の能力は、未覚醒の部分があるとはいえ、現代兵器の精密さを凌駕する反応速度を示していた。


ジョンソン中佐が眉を寄せ、



Damn(ダム), it's(イツ) adapting(アダプティング). We(ウィー) need(ニードゥ) more(モー) firepower(ファイアパワー).」


(くそっ、状況に適応しているぞ。もっと火力が必要だ。)



と呟く。


センター内の空気が重くなり、スタッフたちの呼吸が荒くなる。佐藤は即断した。ヘッドセットに声を叩き込む。



「各部隊、状況確認! 特科部隊の支援により、地上・航空戦力を即時投入! 火力集中で敵の注意を分散せよ! 撃ち方、始めぇっ!」



号令が響き渡る。


瞬間、四方八方から全火力の集中投射が開始された。今までに無い地響きのような轟音が響き渡り、雨霰のような攻撃が、九尾の狐を襲う。戦場は一気にカオスと化し、爆音と閃光がカーニバルのように連続する。







まず、地上部隊の10式戦車が咆哮を上げる。


那須の山間部に隠蔽された複数の戦車が、小隊ごとに次々に主砲を放つ。120mm滑腔砲から徹甲弾(APFSDS)が発射され、マッハ5を超える速度で狐の体躯を狙う。


戦車長の井上三等陸佐は、狭い車闘室で叫ぶ。



「HEAT-MP装填! 連続射撃! 奴の脚部を狙え!」



自動装填装置が作動し、装填サイクルはわずか3秒で完了。弾頭が狐の側腹に命中し、高温の金属ジェットが毛皮を一瞬で溶融。狐の体が揺らぎ、痛みに身をよじる。


戦車の履帯が土を抉り、後座の衝撃で車体が沈む。


井上の心理は、



(奴の動きを止めろ! 部下たち、無事でいてくれ。)



と祈るようだった。


反撃の妖気弾が戦隊隊に向かって飛来する。弧を描いて落下してきた妖気弾が空中で破裂し、多数の妖気弾の破片が地面や木々に当たり細かい爆発を引き起こす。


戦車の装甲が妖気弾の余波で焦げ、内部温度が上昇するが、冷却システムが稼働し、耐える。







同時、上空からAH-64Dアパッチ・ヘリコプターが襲いかかる。何十機もの編隊がホバリングし、ヘルファイア・ミサイルを連射。レーザー誘導で狐の尾をロックオン。ミサイルが空を切り、着弾すると爆炎が広がる。


操縦士の松本二尉は、FLIRディスプレイを睨み、



「シーカー・ロックオン! 発射!」



とトリガーを引く。


狐の尾が一本、吹き飛ぶが、残りの尾が反撃。妖気弾がヘリに向かい、フレアで欺瞞されるも、機体が焦げる。



『耐えろ! 奴の視界を奪え!』



と、無線にがなりたてる。


ヘリのチタン装甲が耐え、回避機動で妖気弾をかわす。プロペラの音が戦場に響き、低空からの射撃が続く。







さらに、高高度からF-35AライトニングIIの編隊がGBU-39 SDB(Small Diameter Bomb)を複数投下。翼幅が約1.38メートルに達する展開式主翼が自動的に展開され、九尾の狐目掛け殺到する。ステルス機の影が夜空を滑り、精密誘導爆弾が狐の背中に降り注ぐ。


迎撃の妖気弾が放たれるが、あまりの飽和攻撃に全て撃ち落とすことができない。胴体に数発命中、右頬に殴られたような衝撃を受け爆発が起こる。のけぞりながら九尾の狐は上空を睨みつける。



「ぬうう…おのれ……鉄の殻に身を包みたる地走りの怪物どもめ! 空を舞う鋼の竜が、火矢を放つとは……そして、あの隼のごとき翼……我が妖気を嘲笑うかのごとく強烈な炎を落とすとは! 人間ども、我が眠りについていた間に、神をも凌ぐ力を得たというのか!? 許さぬ……この痛み、倍にして返すぞ!」



ライトニングのさらなる追撃準備。


SDBはウェポンベイ内に収められ、ステルス性を維持しつつ、250ポンド級の爆薬でピンポイント攻撃可能だ。


パイロットのレイザーは、HUDで第一波攻撃の結果を確認し、



『命中! 継続攻撃!』



と無線で報告。狐は上空の脅威に気づきにくく、翻弄される。F-35のレーダー吸収材が妖気の探知を妨げ、攻撃を続行。レイザーの声が無線に響く。



『奴にはこちらが見えていないようだ!ステルスが鍵だ。奴の目を欺け!』



と冷静だった。







ここで、米軍の追加戦力が投入される。


A-10 Thunderbolt II、別名「ウォートホッグ」の2機編隊が、山間部を縫うようにして低空から突入してくる。そして、複数の2機編隊が九尾の狐を目掛けて四方から時間差を置いて低空で飛来する。


この対地攻撃機は、チタン装甲の「バスタブ」コックピットで知られ、耐久性が高く、低速で精密射撃が可能。


機首のGAU-8 Avenger 30mmガトリング砲が、実戦制限速度の毎分2,100発で高性能徹甲榴弾(APHE)を吐き出す。劣化ウラン弾は日本国内では環境・政治的理由で使用できないので、APHEに置き換えた。


複数の編隊は那須の谷間を縫うように飛来し、狐の体を低空から狙う。


第一編隊のリード機のパイロット、キャプテン・エリック・モーガンは、ナイトビジョンで狐を捉え、



Guns(ガンズ) hot(ホット)! Engage(エンゲージ)!」


(発砲準備完了!交戦開始!)



と叫ぶ。


ガトリングの回転音が猛然と響き、弾丸の嵐が狐の表皮を直撃して毛皮を削り取る。凄まじい土煙が湧き上がる。周囲に飛び散る弾丸の破片。九尾の狐は弾丸の雨霰から逃れようともがくが、あまりの弾数に迎撃が追いつかず、雨に打たれるかのごとく咆哮が響く。


A-10の翼下にはAGM-65 Maverickミサイルが搭載され、赤外線誘導で尾を狙う。ミサイルが発射され、狐の体に命中。爆発が連続し、狐の動きを鈍らせる。


モーガンが叫ぶ。



『この機体は怪物殺しだ。低空で食らいつけ!』



と興奮する。


A-10のエンジンが低く唸り、20機の編隊が輪を描くように攻撃を繰り返す。狐の妖気弾が何機かを掠め、機体が損傷するが、チタン装甲が耐え、撤退せず攻撃を続ける。







さらに、C-130ガンシップ、AC-130Uガンシップの6機が上空から支援を開始する。


AC-130Uは105mm榴弾砲、40mmボフォース砲、25mmガトリングを搭載した空中砲台だ。


機体は円を描くように旋回し、精密射撃を加える。


ガンシップのオペレーター、サーージェント・リサ・トンプソンは、FLIR画面で狐をロック。



105(ワン・オー・ファイブ)mmミリ), fire(ファイア)!」


(105ミリ弾、発射!)



と命令。


連続で撃ち出された榴弾が高速で落下し、狐の体に直撃。爆発が地響きを起こす。C-130の心理的優位は、高高度からの一方的攻撃。


トンプソンは、



「奴の頭上から叩け! 再生なんてさせない!」



と叫ぶ。


一番機に続き、五機の後続機が縦一列の等間隔に並んだまま、連続して旋回を行う隊形(テイルチェイス(Tail Chase))を組み連携。各機105mm砲と40mmの連射、ガトリング咆が唸りを上げ弾丸を放ち、狐の尾を叩く。砲弾の雨が降り注ぎ、狐の妖気が乱れる。







地上の混成チームも加わる。


構築された塹壕に展開した部隊がM2重機関銃とM4カービン、12.7mmと5.56mmの弾丸を雨のように浴びせる。


曹長のマイク・スミスは、バリケードから叫ぶ。



「3点バーストで! 弾薬残量監視! 奴の目を狙え!」



新隊員の田中二等陸士は、NVG越しに狐のシルエットを捉え、トリガーを引く。



「怖いけど、撃つんだ!」



と自分を奮い立たせ、弾丸が狐の毛皮にぶち当たる。


スミスが、



「これは戦争だ。集中しろ、みんな!」



と部下を鼓舞。


銃身が熱くなり、水冷ジャケットが蒸気を上げる。







九尾の狐は、未覚醒の部分があるとはいえ、全能力を発揮して迎撃する。


健在な尾から妖気弾を乱射し、飛来するミサイルや弾丸を撃ち落とす。口から炎を吐きしなるムチのごとく、必死に回避するアパッチやA-10を狙う。


炎は周囲を焼き払い、戦車の装甲を焦がす。あちこちで山火事が発生する。



「思い上がるな人間どもめ、数の多さで勝てると思うな! 我の妖力が上回る!我を怒らせたことを死をもって思い知るがよい!」



と怒りに燃える。


妖気のバリアを展開し、GBU-39 SDBの爆発を一部防ぐ。尾が鞭のように振るわれ、波のような衝撃波が地上部隊を薙ぎ払う。戦車一輌が直撃を受け、転覆。隊員の悲鳴が響く。


A-10の一機が炎に包まれ、墜落。パイロットは脱出し、パラシュートを開き地上に降下。AC-130Uの砲弾を妖気で弾き返し、放たれた衝撃波の直撃を受けたAC-130Uの機体がダメージを受ける。


狐の再生力が働き、切断された尾がゆっくりと伸び始めた瞬間、低空飛行で進入してきた何機もの自爆ドローンが切断面に突入。次々と爆発して傷口を広げ再生を阻止する。


思い通りに再生できない九尾の狐の怒りの咆哮が響く。







戦場はカオス。


爆音、炎、煙が渦巻く。特科部隊の99式自走榴弾砲が、RAP弾にGPS誘導キットを装着し、精密射撃で攻撃。砲口炎が林を照らし、飛来した弾が狐に命中。


米軍のM109A7 Paladin自走砲が、自動装填で毎分4発を叩き込む。狐は妖気で迎撃、砲弾を空中で爆破。航空戦力のF/A-18が空爆を加え、狐の頭部を狙うが、妖気弾で迎撃される。


地上では、迫撃砲RTが焼夷弾を投射、狐の再生を妨害。狐の咆哮が響く。A-10のガトリングが狐の目を狙い、視界を乱す。AC-130Uの105mmが頭部に命中、狐の動きを止める一瞬を生む。


兵士たちの心理は、恐怖と興奮の狭間。


田中は、



「生き延びるんだ! 奴の弱点を探せ!」



と銃を撃ち続ける。


スミスは、



「これが人類の力だ。怪物など、相手にならん!」



と静かに呟く。


モーガンはA-10のコックピットで、



「機体が持つ限り、撃ち続ける!」



と歯を食いしばる。


トンプソンはAC-130Uの画面で、



『精密に、奴の心臓を狙え!』



と指示を飛ばす。


佐藤はFDCで指示を連発。



「創成射撃(目標に対する最初の正確な射撃データを確立するための射撃)に移行! 奴の動きを封じろ!」



移動弾幕射撃(砲兵が目標地域に対して継続的な弾幕を形成しつつ、その着弾地点を徐々に前進させていく射撃方法)のように、火線を前進させ、狐を包囲。


19機のA-10が低空を飛び回り、ガトリングの雨を降らせる。AC-130Uが上空から砲撃を継続、狐の妖気を削ぐ。



戦いは一進一退。



狐の妖力が消耗し、尾の動きが鈍くなるが、再生が追いつき、反撃を繰り返す。


一機のA-10のエンジン部に妖気弾が直撃、爆発。パイロットの叫びが無線に響くが、残り1基のターボファンエンジンが唸りを上げて推力を上げ機体を保持。墜落を免れる。


AC-130Uの40mmが狐の口に命中、炎の吐息が爆発して狐の動きを一時止める。怨嗟に満ちる狐の瞳。



「おのれ…疲労が蓄積する……人間ども、尽きぬ火力!我としたことが…侮っていたわ!」



と苛立つ。妖気のバリアが薄くなり、弾丸が体を貫通し始める。







そんな中、古井座一見は、特別に構築された陣地の中で、静かに立っていた。


陣地は殺生石からかなり離れた高台の岩陰に設けられ、周囲を自衛隊のバリケードと米軍のシールドで固められ、物理的な偽装と霊的な防御結界で護られ護衛の部隊が展開している。


彼女の戦闘装束は、七彩光滅之聖衣。白銀の鎧が月光を反射し、仮面のスリットから冷たい瞳が覗く。



手に握るのは秘宝の剣――七彩光滅之聖劍。



彼女は目を閉じ、集中する。霊力が高まり、身体を覆う七色の光が淡く輝き始める。


一見の心理は、クールさを保ちつつ、激戦の音に心をざわつかせていた。



(皆が戦っている……私も、集中せねば。古井座の血が、導くわ。)



彼女は一人で霊力を高める。


周囲に虹色の霊方陣が形成される。一見の前にピアノの鍵盤が出現した。彼女は剣を掲げ手を離すと、剣は宙に浮き目の前で滞空する。両手の指をそっと鍵盤に置いた。


陣地の周囲では、警備の隊員が銃を構え、彼女を守る。


戦場の喧騒が聞こえる中、光が徐々に強まる。A-10のガトリング音が響き、AC-130Uの砲撃が地響きを起こす。狐の咆哮が混じり、戦いはさらに激化する。


一見は静かに息を吐く。


その指先が虚空に浮かぶ立体的なピアノ鍵盤の上で優雅に動き、最初の音を紡ぎ出した。それは、古井座家の血脈に受け継がれる霊歌の旋律――焔を呼び覚ますための、古き呪文のような調べ。彼女の声は、戦場の喧騒を切り裂くように、静かだが力強く響き渡った。




焔よ、目覚めよ。

古井座の血脈に宿れ。

妖の炎、呼び起こせかな。

秘めし力、湧き出でよ。

剣の刃に、宿りたまえ。

古の焔、燃え上がれぞ。

闇を払い、光を放て。

血の呼びに、応えよ。

焔の息吹、ここに満ちよ。




メロディが響くたび、周囲の霊方陣が鮮やかな輝きを増し、虹色の幾何学模様がパズルの欠片のように次々と入れ替わり、複雑な文様を織り成していった。空気が震え、模様はまるで生き物のように脈動し、七色の光が渦を巻いて一見の周囲を包み込んだ。それは、古の霊力が現実の布地を裂き、異界の息吹を呼び寄せるかのようだった。


彼女の歌声は続き、声に込められた霊力がさらに高まる。




古の血潮、流れよ。

流れ流れ、剣に集え。

霊力の川、奔流せよかな。

代々の魂、呼び起こせ。

祖先の声、響き渡れ。

血の絆、強く結べぞ。

力の源、湧き出づる。

我が身に宿り、輝けなり。

焔の血脈、永遠に続き。




霊方陣の直上に、純白のエネルギー球体がゆっくりと姿を現した。虹色のオーラを纏い、静かに膨張を始めるそれは、まるで星の核のように眩く輝きを放ち、周囲の闇を払いのけていく。光は次第に強烈さを増し、陣地の空気を熱く震わせ、護衛の隊員たちの肌を粟立たせた。


この球体こそ、九尾の狐を霊的に力づくでねじ伏せる秘宝の術――今回の作戦の切り札である「従属の焔」のエネルギー源だった。


そして、それを生成するためのプロセスが、一見自身が考案した革新的な方法、



「術式 詩想励起」。



立体ピアノ鍵盤の演奏に、伝承の霊歌を重ね合わせることで、霊力のイメージを鮮明にし、エネルギー充填時間を一気に短縮する技法だ。古の儀式を現代の感性で再構築したこの術は、彼女の天才的な洞察の賜物であり、血脈の限界を超越する鍵となっていた。


一見は静かに呟いた。



「あと少し……パワーを溜めねば…。」



彼女の周囲の空気が、霊力の奔流で激しく震え始め、風が渦を巻き、岩陰の葉がざわめいた。護衛の隊員たちは息を潜め、銃を構えたままその光景を凝視する。戦場の爆音が遠くに響く中、この小さな陣地は、まるで別世界の聖域のように輝きを放っていた。












……九尾の狐の巨躯全体が、鳥肌のようにざわめき立った。


本能が、鋭い警報を鳴り響かせる。



“危険だ。早く対処せよ”



……と。


凄まじい霊力の奔流を感じ取り、狐は即座にその方向を睨みつけた。無数の火線が自身に伸びる戦場の中で、ひときわ眩い光が、遠くの高台から放たれているのが見えた。


九尾の狐の黄金の瞳が、驚愕に大きく見開かれる。



(…あれは…まさか…)



九尾の狐の巨大な口に、猛烈な炎のエネルギーが急速に収束していく。空気が焼けつくような熱を帯び、口元が赤く輝き始めた。



「そこにいたかぁ!!…憎き虹彩の剣いいいぃぃぃぃ!!!!」



閃光のごとく、炎の奔流が放たれた。それは、陣地を焼き尽くす業火の槍のように、夜空を切り裂いて一直線に飛翔した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ