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8/11

覚醒

午後十時。


那須の山頂を越える冷たい風が、殺生石の岩肌を鋭く撫でるように吹き抜けた瞬間、夜空にB-2 Spiritステルス爆撃機の影が、まるで闇そのものが裂けたかのように滑り込んだ。


風は枯葉を舞い上げ、岩の隙間から硫黄の微かな臭いを運び、月明かりの下で白く輝く雲をゆっくりと押し流していた。山の稜線は黒く浮かび上がり、遠くの温泉街の灯りがぼんやりと霞む中、空の一点に異変が生じた。


高度一万二千メートル。レーダーには映らない。エンジン音すら届かない。漆黒の塗装が星明かりを完全に吸い込み、機体はただの“空の穴”のように存在していた。翼の曲線は完璧な流線型で、大気抵抗を最小限に抑え、乱気流すら生まない。機体の表面は特殊なレーダー吸収材で覆われ、電波を散乱させ、存在を抹消する。


パイロットのコールサインは



「ゴースト・ワン」。



彼は酸素マスクを装着し、ヘルメットのバイザーを下ろしてHUDヘッドアップディスプレイに映る赤い照準マークを睨みつける。指先は震えていないが、心の中では任務の重圧が渦巻いていた。



(この一撃で歴史が変わる。失敗は許されない。家族の顔が浮かぶが、今は集中だ。)



訓練通りの冷静さで、すべてのチェックリストを頭の中で再確認する。燃料残量、航路、気象データ、すべてが完璧。



「ターゲット座標確認。緯度37.0725、北。経度140.0150、東。誤差0.3メートル。GBU-57、ウェポンベイ・オープン。」



彼の声は、無線で冷たく、静かに響く。暗号化されたチャンネルを通じ、地上の司令本部に届く。機体の腹部が、まるで生き物の口のように静かに開いた。油圧アクチュエーターの微かな唸りが、機内だけに響き、ウェポンベイのライトが淡く照らす。


そこから滑り落ちるのは、30,000ポンド(約13,600kg)の巨弾――GBU-57 Massive Ordnance Penetrator。


通称「MOP」。


全長6.2メートル、直径0.8メートル。鋼合金とタングステンで強化された先端は、地下深くの硬化目標を貫くための“槍”そのものだった。表面は耐熱コーティングで覆われ、摩擦熱に耐え、内部構造は多層の衝撃吸収材で爆発エネルギーを集中させる。


内部には2.7トンの高性能爆薬が詰め込まれ、GPSと慣性航法装置(INS)が融合した誘導システムが、CEP(半数必中界)1メートル未満の精度を保証する。弾体には微細な制御フィンが付き、落下中の姿勢を自動調整し、風や大気の乱れを補正する。


落下速度はマッハ0.8。空気を切り裂く音すら、ステルス形状が完全に吸収する。弾体は回転しながら降下し、殺生石の中心――封印の“核”――を正確に狙う。


地表まで残り3秒。


弾体の先端がわずかに輝き、摩擦で熱を帯び始める。


2秒。


雲を突き抜け、月光が一瞬弾体を照らす。


1秒――



ズドン。



地表がわずかに沈み、まるで巨大な生き物が息を呑んだかのように静止した。


次の瞬間、地下60メートルで爆薬が同時点火。


衝撃波は岩盤を粉砕し、封印の結界を内側から引き裂く。


地響きが山全体を震わせ、硫黄臭のガスが噴火のように噴き出し、黒い霧が渦を巻いて立ち昇る。


周辺の老木が根元から折れ、倒木が連鎖的に崩れ落ちる。


地面に亀裂が走り、赤熱した岩屑が火山灰のように舞い上がった。


爆発の余波は、司令本部にまで届き、テントの支柱が軋み、机上のコーヒーカップが震える。モニターが一瞬白飛びし、映像が乱れる。


源一郎は反射的にモニターを握りしめ、指先が白くなるほど力を込めた。



源一郎「これで目覚める……準備は、できているのか!? 一見…!」



彼の脳裏に、一見の顔が浮かぶ。娘の決意。古井座の血。そして、柊武の冷たい視線。すべてが、この一瞬に懸かっていた。源一郎の額に汗が浮かび、銀髪が乱れる。心臓の鼓動が耳に響き、喉が渇く。



(失敗は許されない。だが、一見を危険に晒すのは…… )



彼は無意識に拳を握りしめ、爪が掌に食い込む。



――そして、覚醒。



殺生石の中心が光る。


赤い。


燃えるような。



九尾の炎。



岩が割れ、土が盛り上がり、爆発的な噴火のごとく噴煙が上がり、猛烈な速度で衝撃波雲が上空に立ち昇る。放射状に衝撃波が拡がり、周囲に展開した各部隊を襲う。


一番近い森の木々がなぎ倒され、土煙が巻き上がる。


ドローンカメラが捉えた映像は、モニターに白いノイズを走らせ、源一郎の瞳に映る。


そして、噴火の中心点から、巨大な赤い毛皮の巨躯が、まるで地獄の門が開いたかのように現れた。


体長は50メートルを超え、九本の尾は業火の鞭のように空を裂く。尾一本一本が独立して動き、炎の残像を残しながら蠢く。


狐の瞳は黄金色に輝き、千年以上の眠りから覚めたばかりの寝ぼけ眼で周囲を睨みつけた。



「……なんだこれは……人間の、愚かな試みか……?」



声は地鳴りのように響き、山の木々が震える。狐の意識はまだ覚醒の狭間にあった。



「フフフ……宮廷を操ったあの時代……美貌と知略で人を弄び、民を苦しめた……再び、支配する時が来たということか……」



だが、違和感が胸を刺す。



「だが……この匂い……鉄と硫黄……そして、ただならぬ霊力の波動……これは、ただの人間の仕業ではない……」



狐はゆっくりと首を振り、鼻を鳴らした。硫黄と硝煙の混じった空気が、鼻を突く。



「……目覚めには少し早いが……だが、構わぬ。まずは、周りを囲む不届き者どもを焼き払うとするか……。我を討とうとする人間ども、分をわきまえぬ愚か者どもが。…まずはこの尾一本で、お前らの肉を裂き、骨を砕き、魂を焼き尽くしてやる。泣き叫べ。絶望にまみれ、這いずり回りながら、我が名を呪え。この世を、血と炎で塗り替えるまで、一匹残らず、喰らい尽くしてやる。」



九本の尾が一斉に広がり、炎の嵐が巻き起こる。


その瞬間、特科部隊の初弾が、闇を切り裂いて飛来した――。






特科部隊の初弾――「Tail-1 精密切断射撃」

(覚醒後 0.8秒 以内に発射・着弾)。


司令本部 FDC(射撃統制センター)。モニターに映る狐の3D熱源モデル。


「Tail-1(第1尾根元)」 に赤い照準リングがロック。


射撃統制官(佐藤1等陸佐)の声が、AFATDS端末に叩き込まれる。



佐藤「全砲門、Tail-1 優先! エクスカリバー48発中、初弾12発を同時発射! 射撃諸元配信――NOW!」



1. 99式155mm自走榴弾砲 × 4輌(第1特科隊)

位置:殺生石北西5km、林間掩体壕

弾種:XM982エクスカリバー Block II(GPS/INS誘導)

初速:827m/s(チャージ7)

射程:29.4km


発射シーケンス(0.3秒間隔)

1. 自動装填機がカシャン!と弾を薬室へ。

2. 油圧反動吸収器が沈み、砲身が仰角12.7°に固定。

3. レーザー測距+気象センサーが風速3.2m/s、北西を自動補正。

4. 火薬点火――



ズドォン!



砲口炎が夜を裂き、マズルフラッシュが林を白く照らす。履帯が土を抉り、車体が30cm後座。


弾道:放物線を描き、マッハ2.4で飛翔。

フィン展開→GPSロック→最終誘導で尾根元へ。



2. M777A2 155mm軽量牽引榴弾砲 × 4門(米軍)

位置:南東5.1km、岩場偽装陣地

弾種:M982A1エクスカリバー

射撃管制:デジタル火器管制で0.1秒同期


発射:砲耳が軋み、油圧ジャッキで車輪を浮かせる。薬莢装填→雷管起爆→



ドン!



砲身が赤熱し、排煙が螺旋状に立ち昇る。



3. HIMARS × 2輌(米軍)

位置:東4.7km、トレーラー偽装

弾種:GMLRS-ER(射程150km) × 初弾6発発射:

ロケットポッドがカシャン!と垂直に立ち、



ブオオオオオン!



尾炎が青白く燃え、マッハ3.0で突進。



着弾――覚醒後 2.1秒



12発のエクスカリバーが0.4秒間隔でTail-1根元に集中。

1. 第1弾:毛皮を貫通、内部で空中爆発。

2. 銅製ライナーが2,000m/sのジェットとなり、尾骨を粉砕。

3. 第2~4弾:連続命中で尾肉を蒸発、血煙が黒霧と混じる。

4. 第5弾:尾根元完全切断。



ドスン!



30mの尾が地に叩きつけられ、炎が爆発的に散る。



九尾「グオオオオッ!? この痛み… 尾が…!」



特科隊員『Tail-1 切断確認! 次弾、Tail-2へ移行!』



――炎の嵐を切り裂く、第二波12発が既に飛来していた。


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