伝説の剣
古井座家の広大な敷地から少し離れた山間部に、秘密の訓練施設がひっそりと佇んでいた。外観は古びた倉庫のように見えるが、中は最新鋭の設備が揃い、私設武装部隊のメンバーたちが日夜訓練を重ねる場所だ。
コンクリートの壁は防弾仕様で、床には衝撃吸収材が敷き詰められ、天井には監視カメラが無数に設置されている。ここは、古井座源一郎が裏社会で影響力を拡大させる為に築いた要塞のような施設だった。
その日、古井座一見は父の源一郎に連れられ、施設の最深部へと案内された。彼女のドレスはいつも通り優雅だが、今日は動きやすい黒のトレーニングウェアに着替え、髪をポニーテールにまとめていた。
祠での出来事から数日…一見は妖怪退治の役目を拒否していたはずだったが、九尾の狐捕獲作戦の影響で、状況が変わっていた。源一郎の説得により、秘宝の力を試すことになったのだ。
霊獣の三兄弟――元禄斎、竿兄、玉弟――は同行する予定であったが、射撃場での「弾を撃つ」という単語に玉弟と元禄斎が異常に反応してしまい逃走。結局、祠に残り遠隔で一見を見守ることになった。
源一郎「一見、ここが訓練場だ。秘宝の力は未知数だ。まずは安全に扱えるよう、基礎から学べ。」
源一郎の声は厳しく、隣に立つ隊長の男が頷く。隊長は40代の屈強な男で、名を黒田と言った。古井座家に忠誠を誓うベテランで、部下たちを率いる彼の目は鋭い。
訓練室は広大で、標的となるダミー人形や鋼鉄の壁が並び、壁際には武装したメンバーたちが控えていた。彼らは一見の到着に緊張した面持ちで、令嬢の訓練をサポートする準備を整えていた。
中央の台座に、木彫りの箱が置かれていた。祠から運ばれた秘宝の箱だ。一見は静かに近づき、箱の蓋に手を触れる。紫がかった光が漏れ出し、空気が重くなる。彼女の心臓が少し速く鼓動を打つが、表情はクールだ。
一見「それでは、開封いたしますわ。」
蓋が開くと、中から輝く剣が現れた。
七彩光滅之聖劍。
柄は金細工で飾られ、刃は透明なクリスタルのように七色の光を反射している。軽そうに見えるが、霊的な波動が周囲を震わせる。一見は優雅に剣を手に取る。瞬間、彼女の瞳がわずかに輝いた。
一見「……これは……。」
数秒の沈黙。剣の情報が、まるで洪水のように一見の頭の中へ流れ込んできた。使い方、技の数々、歴史、力の制御法――すべてが一瞬で理解される。平安の世から続く剣の記憶が、継承者の血脈を通じて共有されたのだ。一見の脳裏に、歴代の女性たちが妖怪を斬る光景と薪割りに使う作業がフラッシュバックする。彼女は息を吐き、微笑んだ。
一見「まあ、なんてこと。剣の知識が、勝手に頭に入ってまいりましたわ。まるで、ダウンロードされたようですの。歴代の継承者の方々が、薪割りに使っていたのも面白いエピソードですわ。」
周囲のメンバーたちがざわつく。
薪割り?
予想もしない言葉に黒田隊長が目を細め、源一郎が驚いた表情を浮かべる。
…気を取り直す源一郎達。
普通なら、数ヶ月かかるはずの習得が、数秒で完了したのだ。一見は剣を軽く振り、七色の光が弧を描く。空気が切り裂かれるような音が響き、メンバーたちは息を飲む。
一見「では、早速、威力をお見せいたしましょう。軽い技の一つを。」
一見は剣を構え、集中する。頭の中の情報から、基本的な技「雷光の焔」を選んだ。剣先から蒼色の光が集まり、彼女は標的のダミー人形に向かって軽く振り下ろす。瞬間、眩い稲妻の波が放たれた。
――ズドォォン!
爆発のような衝撃が訓練室を揺るがす。稲妻の斬撃はダミーを粉砕し、その勢いのまま後ろの壁を貫通。コンクリートの壁が吹き飛び、鋼鉄の補強材が曲がり、施設の一角が半壊した。埃が舞い上がり、警報が鳴り響く。
メンバーたちは呆然とし、口をぽかんと開ける。その表情は、まるで漫画のキャラクターのように驚愕に満ちていた。目を見開き、口を大きく開けた「アノ顔」だ。黒田隊長すら、普段の冷静さを失い、額に汗を浮かべる。
「な、何だこれは……!」
「施設が……半壊……?」
源一郎は一瞬固まったが、すぐに部下たちに指示を飛ばす。
源一郎「すぐに自衛消防隊を呼べ! 怪我人はいないか?」
幸い、被害は物損だけだったが、訓練室は惨状を呈していた。一見は剣を下ろし、少し照れくさそうに微笑む。
一見「まあ、申し訳ありませんわ。軽くやったつもりでしたが、予想以上の威力ですのね。」
黒田隊長がようやく我に返り、声を震わせながら進言する。彼の目はまだアノ顔の余韻を残していたが、プロフェッショナルとして冷静を装う。
黒田「お嬢様……その剣の力、恐るべしです。まずはコントロールの仕方から覚えた方が良いかと。威力を抑える方法を優先的に。でないと、この施設が持ちません……。」
源一郎「一見…限度をかんがえろ限度を…」
一見は頷き、剣を再び構える。
一見「ご忠告、ありがとうございますわ。では、軽い扱い方から始めましょう。」
彼女は頭の中の情報を振り返り、剣の霊力を最小限に抑えるモードを選択。剣先から小さな七色の光球を生成し、ゆっくりと浮かべる。光球は優しく輝き、周囲を照らすだけ。メンバーたちは安堵のため息をつき、黒田が頷く。
黒田「それでよろしい。徐々に威力を上げていきましょう。お嬢様の才能は素晴らしい。」
訓練はそこから本格的に始まった。一見は剣の制御を学び、技を細かく調整する。光の斬撃を弱めてダミーを切る練習、防御用の光のバリアを張る訓練。時折、霊獣の三兄弟の声が頭の中に響くようだった。
竿兄「ふむ、継承者よ。わしの力で邪悪を貫け!」
竿兄の低音が励ますが、一見はクールに無視し、自分のペースで進める。
……数時間後、一見は汗を拭き、満足げに剣を箱に戻した。施設の復旧作業が始まる中、彼女の心は少し変わっていた。秘宝の力は確かに強大だが、妖怪退治のためではなく、家族を守るために使えるかもしれない。源一郎が娘の肩を叩く。
源一郎「よくやった。一見、お前の力は古井座家の宝だ。」
一見は優雅に微笑み、答える。
一見「ありがとうございますわ、お父様。でも、まだ始まったばかりですの。」
訓練施設の夜空に、星が輝いていた。
(…この秘宝。あの憎たらしい部長を始末するのに使えますわ。ウフフフフフフフフ♡)




