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居眠り野郎

祠の空気が、ますます重く淀んでいた。月光が隙間から差し込み、埃の粒子を淡く輝かせる中、古井座一見は背を向けたまま、静かに耳を傾けていた。三体の霊獣――元禄斎、竿兄、玉弟――は、まだ諦めきれず、浮遊しながら彼女を追うように近づいてくる。


彼らの紫がかった光が、祠の壁に不気味な影を落としていた。激論は、まだ終わっていなかった。三兄弟は、伝統や義務のカードを切り尽くした後、最後の切り札を繰り出そうとしていた。それは、古井座家の繁栄そのものを、自分たちの功績に結びつけるものだった。


元禄斎が、干からびた梅干しのような頭部を震わせ、威厳を装って声を張り上げた。その声は、古風な響きを保ちながらも、焦りがにじみ出ている。



元禄斎「待て、小娘よ! おぬしはわかっておらぬ! この古井座家が、300年もの長きに渡り栄えてきたのは、わしら三兄弟が見守ってきたからじゃぞ! 平安の世より続く血脈を、わしらが護り続けてきたのじゃ! 妖怪の脅威から家系を遠ざけ、幸運を呼び込み、繁栄を支えてきたのだ! わしらの存在なくしては、古井座家など、とっくに滅びておったわい! おぬしの父も、祖父も、そのまた先も、すべてわしらの見守りがあったからこそ、財を築き、名を残せたのじゃ!」



竿兄が、低く重厚な声で追従する。直立不動の竿のような姿が、まるで古の柱のように堂々と浮かぶ。



竿兄「うむ。わしらの霊力は、祠から家全体に広がり、災厄を払い、福を招いてきた。300年、引きこもっていたわけではない。見守りとは、そういうものじゃ。継承者が役目を果たさぬ今も、わしらは家系の守護を続けている。おぬしの拒否は、その恩義を踏みにじる行為じゃぞ。」



玉弟は、丸い玉のような体をぴょんぴょんと弾ませ、陽気に加勢する。だが、その声には、必死さが滲んでいた。



玉弟「そうだぜ、姉ちゃん! 俺らが見守ってたから、古井座家は今みたいに大金持ちで、立派な屋敷持ててるんだよ! 妖怪が近づかないように、ずっとパトロールしてたようなもんさ! 300年も見守り続けてきた恩を、忘れちゃいけないぜ! 俺らの功績を認めて、役目を引き受けてくれよ!」



三兄弟の言葉は、まるで古い家系譜から飛び出してきたかのように、誇張に満ちていた。彼らにとって、見守りとは抽象的なもので、具体的な行動を伴わない栄誉だった。祠に封じられたまま、ただ存在するだけで、家系の繁栄を支えていると信じ込んでいる。


だが、一見の耳には、それは空虚な自慢にしか聞こえなかった。


彼女はゆっくりと振り返り、クールな瞳を三体に向けた。口元には、いつもの優雅な微笑みが浮かんでいるが、その目は鋭く、炎のように燃えていた。現代の少女として、こんな曖昧な主張を許す気などない。彼女の心の中では、歴代の当主たちの苦労が思い浮かんでいた。商売に奔走し、政略結婚を繰り返し、時代を乗り越えてきた先祖たちの努力を、こんな引きこもり霊獣たちが横取りするなど、許せなかった。



一見「まあ、皆様。300年もの見守りで、古井座家が栄えてきたとおっしゃいますの? それは、随分と都合の良いお話ですわね。」



一見の声は穏やかだが、言葉の端々に棘が潜んでいる。彼女はドレスの袖を優雅に払い、続ける。論破の時間だ。



一見「見守るだけで、実際、あなた方は何もしていませんわ。古井座家が栄えたのは、歴代の当主が必死になって働いた結果ですのよ。江戸時代での交易拡大、明治維新後の産業革命への適応――すべて、人間たちの努力ですわ。あなた方が祠に引きこもっている間に、先祖たちは汗を流し、血を流し、夜を徹して家業を支えてきたのです。見守りなどという曖昧な言葉で、功績を独り占めしようなど、虫が良すぎますわ!」



元禄斎は目をパチクリさせ、慌てて反論しようとする。頭部が震え、浮遊の軌道が乱れる。



元禄斎「な、何を言うか! わしらの霊力が、家に幸運を……ええと、妖怪を遠ざけ……」



だが、一見は容赦なく畳みかける。彼女の声が、徐々に熱を帯びる。吹奏楽部の指揮台で培ったリズム感で、言葉を叩きつける。



一見「あなた方のおかげで当家が栄えたというのであれば、実際に何をしたのか、具体的な説明をしてくださいませ! 300年引きこもりニートが、何をしたのですか!? どの時代に、どの妖怪を退治したのですか? どの災厄を防いだのですか? 証拠を挙げて、説明なさいませ! ただ祠にいるだけで、栄華を支えたなど、笑止千万ですわ! あなた方は、ただの寄生虫ではございませんの!? 違うとおっしるならば、その証拠を具体的に説明してくださいませ! さぁ、さぁ、さぁ!」



一見の剣幕は、まるで嵐のようだった。普段のクールな令嬢のイメージを崩し、激しい感情が露わになる。彼女の瞳は輝き、祠の空気を震わせる。母親の放棄した役目を、自分が引き受けるなど論外だが、それ以上に、この三兄弟の自己中心的な主張が許せなかった。


現代の価値観で言うなら、ニートが家族の成功を自分の手柄にするようなものだ。彼女は手を差し伸べ、三体を指差す。優雅な仕草だが、圧力は凄まじい。


竿兄が、低い声でしどろもどろに言い返す。直立の姿が、わずかに揺れる。



竿兄「え、ええと……わしらは、霊的な波動で……家系の運気を高め……たとえば、江戸時代に、ええと、疫病が流行った時、わしらの力が……いや、待て、具体的に言うと……」



玉弟が、慌てて助け舟を出すが、声が上ずっている。丸い体が、縮こまるように見える。



玉弟「そうだぜ! 俺ら、ずっと祈ってたんだよ! 見えないところで、幸運を呼んで……たとえば、姉ちゃんの曾祖父の時代に、商売が上手くいったのは、俺らの見守りが……え、証拠? それは、ええと……」



元禄斎は、地団駄を踏むように浮遊し、必死に言葉を紡ぐ。だが、300年の引きこもり生活で、具体的なエピソードなどない。祠から出たことがないのだから、当然だ。



元禄斎「ふ、ふむ……わしらの存在自体が、護符のようなもので……妖怪が近づけぬように……たとえば、元禄の頃に、大地震が……いや、待て、わしらはその時、封じられたばかりで……ええい、具体的に言うと、霊力で家系の血を強くし……」



三兄弟の言葉は、どんどん支離滅裂になっていく。しどろもどろの反論は、ただの言い訳にしか聞こえない。一見の迫力に押され、彼らの光が弱々しく揺らぎ始める。元禄斎の頭部が、干からびた梅干しからさらにしぼみ、竿兄の直立が崩れかけ、玉弟の跳ねが止まる。祠の空気が、緊張のピークに達した。


一見は息を吐き、静かに見据える。彼女の勝利は、明らかだった。



一見「まあ、皆様。ご説明できないのですね。引きこもりニートの限界ですわ。古井座家の繁栄は、先祖たちの努力ですの。あなた方の見守りなど、ただの幻想ですわよ。」



ついに、三兄弟は耐えきれなくなった。元禄斎が、ぽてんと箱の上にへたり込み、頭部を垂れる。竿兄の直立が崩れ、横倒しのように浮かぶ。玉弟は、丸く縮こまり、震える。紫がかった光が、薄れ、真っ白な霧のようなものが彼らを包む。それは、敗北の象徴だった。


元禄斎の声が、弱々しく響く。威厳など、どこにもない。



元禄斎「う、うう……わかった、わかったぞ、小娘……わしらの負けじゃ……300年、見守ってきたつもりじゃったが……具体的に何も……ええい、敗北じゃ……おぬしの勝ちじゃ……」



竿兄が、低く呟く。



竿兄「うむ……轟沈じゃ……」



玉弟が、泣きそうな声で続ける。



玉弟「へへ……真っ白だぜ……負けたよ、姉ちゃん……」



祠に、静寂が訪れた。一見は優雅に微笑み、満足げに頷く。自分で偉いと思ってる者に「NO」と言う快感が、胸を満たしていた。夜風が、祠の扉を優しく叩く中、彼女はゆっくりと外へ向かう。激論は、ついに終わった。


祠の空気が、敗北の余韻に満ちていた。三兄弟――元禄斎、竿兄、玉弟――は、へたり込んだまま、紫がかった光を弱々しく明滅させている。干からびた梅干しのような元禄斎の頭部はうなだれ、竿兄の直立は完全に崩れ、玉弟の丸い体は縮こまって震えていた。一見は優雅に微笑み、満足げに祠の扉へと視線を移す。彼女の心は清々しく、現代の論理で古い価値観を粉砕した達成感が胸を満たしていた。夜風が祠の隙間から入り込み、埃を優しく舞い上げ、静寂を破る。


だが、その静けさを突然、足音が破った。祠の外から、複数の気配が近づいてくる。重厚な革靴の音と、軽やかなヒールの音。SPたちの声が、遠くから聞こえてくる。



「お嬢様の声が……祠の方から?」



一見は眉を寄せ、振り返る。まさか、こんな夜更けに誰かが来るなんて。


扉が軋む音を立てて開き、二つの人影が祠の中に踏み入ってきた。月光が彼らを照らし、顔を浮かび上がらせる。


それは、古井座家の現当主・古井座源一郎と、その妻・古井座響子だった。


源一郎は40代半ばの壮健な男で、銀色の髪をオールバックにし、厳格な表情を湛えている。古井座家の財閥を一代で拡大させた辣腕経営者だ。一方、響子は40代後半の優雅な婦人で、黒髪を上品にまとめ、着物姿が夜の闇に映える。だが、その顔には疲労と心配の色が濃い。


二人は、祠の奥で浮遊する三体の霊獣を目撃し、息を飲んだ。源一郎の目は見開かれ、手に持っていた懐中電灯の光が震える。響子は顔をしかめ、思わず後ずさりする。祠の埃っぽい空気が、二人の驚愕を増幅させる。


源一郎は、ゆっくりと息を吐き、呟いた。声は低く、驚きと感慨が入り混じっている。



源一郎「これは驚いた……伝承は本当だったのか……」



彼の言葉は、代々語り継がれてきた家系の秘密を思い起こさせるものだった。古井座家の古い書物に記された、祠の守護霊獣の話。源一郎はそれをただの迷信だと思っていたが、今、目の前に現実に存在する。干からびた梅干しのような元禄斎、直立不動の竿兄、丸い玉のような玉弟――その奇妙でわいせつな姿に、彼の理性が揺らぐ。初めて目にする性獣……もとい、霊獣に、源一郎の心臓が速く鼓動を打つ。


一方、響子は顔を青ざめさせ、嫌悪感を隠そうともしない。彼女は何十年ぶりにこのわいせつ物を目撃し、過去のトラウマが一気に蘇る。中学生の頃、13歳でこの祠に入り、三兄弟の姿を見て悲鳴を上げて逃げ出したあの夜。直立する竿兄の威厳ある――いや、露骨な――態勢が、少女の心に深い傷を残した。あの経験が、彼女が役目を放棄した最大の理由だ。今、再びその姿を前に、響子の唇が震え、目が細くなる。彼女は源一郎の腕を強くつかみ、吐き捨てるように言った。



響子「こんな……こんな下品なものが、まだ存在していたなんて! 嫌悪感が込み上げてくるわ……。あの時と同じ、吐き気がする……」



響子の声は、鋭く響く。彼女の視線は、三兄弟を――特に竿兄を――射抜くように鋭い。恨みの炎が、瞳に宿っている。中学生当時のとてつもない嫌な経験が、彼女の心を蝕み、今も癒えていない。あの時、祠の闇の中で見た「わいせつ物陳列」の光景が、フラッシュバックする。響子は思わず、源一郎の体に寄りかかり、声を荒げる。



響子「しかも、あの竿兄とかいうの……本当に下品! 源一郎、あなたのほうがずっと立派よ! あんなものより、よっぽど威厳があるわ!」



その爆弾発言が、祠に炸裂した。


響子の言葉は、恨みから出たものだった。三兄弟に与えられた屈辱的な経験が、夫への褒め言葉として歪んで噴出する。源一郎の顔が赤くなり、一見の目が丸くなる。三兄弟は、へたり込んだまま、ぽかんと口を開ける。元禄斎の頭部が震え、竿兄の体がピクッと反応する。玉弟は、縮こまったまま固まる。


源一郎は、妻の腕を優しく振りほどき、厳しい視線を向ける。声は低いが、咎める調子が強い。



源一郎「響子、そんなことを言うものじゃない。失礼だぞ。たとえ伝承のわい…霊獣だとしても……いや、だからこそ、言葉を選べ。君の過去の経験はわかるが、ここは家族の場だ。一見もいるんだぞ。」



響子は唇を噛み、目を伏せる。だが、嫌悪感は消えない。彼女は三兄弟から視線を逸らし、源一郎に寄り添う。一見は、状況を静かに見守り、内心でくすりと笑う。母親の爆弾発言が、意外な展開を生んだ。祠の空気が、再び緊張に満ちる中、源一郎はゆっくりと三兄弟に近づき、伝承の真実を確かめようとする。


祠の空気が、緊張と驚きの渦に包まれていた。月光が隙間から差し込み、埃の粒子を淡く照らす中、古井座源一郎はゆっくりと三兄弟に近づいた。彼の銀色の髪が懐中電灯の光に輝き、厳格な表情がさらに引き締まる。妻の響子は源一郎の後ろに控え、嫌悪の視線を三兄弟に向け続けている。一見は静かに傍らに立ち、状況を見守っていた。へたり込んだ三兄弟は、突然の来訪者に戸惑いながらも、浮遊を再開し、威厳を取り戻そうとする。


源一郎は深く息を吸い、まず娘の一見に視線を向けた。



源一郎「一見、ここで何をしていたんだ? 夜更けに祠など、危ないぞ。」



一見は優雅に頭を下げ、クールな微笑みを浮かべる。



一見「お父様、お母様。お騒がせいたしましたわ。実は、この霊獣様たちと、少しお話を……」



彼女はこれまでの出来事を、簡潔に説明した。祠の秘密、秘宝の存在、妖怪退治の役目、そして三兄弟の主張に対する自分の論破。源一郎は黙って聞き、三兄弟に視線を移す。三兄弟も、しどろもどろになりながら、補足を加える。元禄斎が干からびた頭部を振って語り、竿兄が低く頷き、玉弟が陽気に付け加える。彼らの目的――古井座家の継承者が秘宝を使って妖怪を退治すること――が明らかになると、源一郎の目が驚きに見開かれた。



源一郎「妖怪退治……まさか、そんな古い伝承が本物だったとは。平安の世から続く血脈の役目か……驚いたな。」



源一郎の声は低く、感慨深げだ。彼は古井座家の古い書物を思い浮かべ、伝説が現実だったことに衝撃を受けている。一方、一見の論理的な反論――現代の自由、権利、未成年者の立場、そして三兄弟の「引きこもりニート」論破――を聞き終えると、源一郎の口元に満足げな笑みが浮かんだ。彼は娘の肩に優しく手を置き、目を細める。



源一郎「さすがはわしの娘だ。一見、お前の論理力は見事だ。伝統を盲信せず、現代の価値観で切り返すとは……誇らしいぞ。」



一見は照れくさそうに微笑み、



一見「ありがとうございますわ、お父様」



と応じる。響子も、娘の言葉に頷き、わずかに安堵の表情を見せる。だが、三兄弟はまだへたり込んだまま、不安げに源一郎を見つめている。元禄斎の頭部が震え、竿兄の体がピクピク動き、玉弟が縮こまる。


源一郎はゆっくりと三兄弟に向き直り、当主としての威厳を湛えた声で語り始めた。声は落ち着いているが、決意に満ちている。



源一郎「確かに、一見の言うことはもっともだ。だが、このわいせ……もとい、霊獣の方々のおっしゃるように、この街の安全を守ることも必要だ。もちろん、一見一人に妖怪退治をやらせるような事はしない。当家もお役目を放棄するようなことはしない。最大限の支援をさせてもらう。古井座家の総力を挙げて、妖怪や悪霊の脅威に対処しようではないか。」



その言葉に、三兄弟は大喜びした。へたり込んでいた体が一気に浮上し、紫がかった光が強く輝く。元禄斎は干からびた頭部を高らかに上げ、歓声を上げる。



元禄斎「ほ、ほう! さすがは古井座家の当主じゃ! わしらの役目を理解しておるわい! 大喜びじゃぞ!」



竿兄は直立を回復し、低く満足げに唸る。



竿兄「うむ……これで血脈が続く……喜ばしい……」



玉弟はぴょんぴょん跳ね回り、陽気な声で叫ぶ。



玉弟「やったぜ! 総力で妖怪ぶっ飛ばすんだな! 姉ちゃんじゃなくて、当主が引き受けてくれるなんて、最高だぜ!」



三兄弟の喜びは爆発的だった。300年の引きこもり生活が、ようやく報われる瞬間。祠全体が、彼らの霊的な波動で振動する。源一郎は穏やかに頷き、響子はため息をつきながらも、夫の決定を受け入れる。一見は静かに微笑み、事態の展開を見守る。


だが、源一郎はそこで止まらず、三兄弟に視線を向け、ある質問を投げかけた。声は好奇心に満ち、鋭い。



源一郎「ところで、霊獣の方々。九尾の狐はどこにいるのか? あなた方が一目置かれていたという、あの伝説の大妖怪だ。」



三兄弟は一瞬、目をパチクリさせる。元禄斎が代表して、威厳を装って答える。



元禄斎「ふむ……九尾の狐か。あやつは殺生石の下で眠っておるわい。あと1000年くらいは起きんだろうて。封印されておるからのう。」



竿兄が低く補足する。



竿兄「うむ……強大な力ゆえ、封じられたままじゃ……」



玉弟が陽気に言う。



玉弟「へへ、そんな古株より、今は妖怪退治だぜ! 古井座家の総力で、俺らも活躍できるよな!」



三兄弟は九尾の狐の話題など、どうでもいい様子だった。源一郎が古井座家の総力をもって妖怪退治を引き受けたことに、大歓喜し、興奮が収まらない。祠の空気が、彼らの喜びに満ちあふれる。


しかし、そんな三兄弟の喜びを、木っ端微塵に吹っ飛ばす提案を源一郎がしてくる。源一郎の目は輝き、辣腕経営者の本領を発揮した冷徹な笑みが浮かぶ。



源一郎「…殺生石の下の居眠り野郎を叩き起して、妖怪退治を手伝わせてやろうか。伝説の大妖怪の力、眠らせておくのはあまりにも惜しい。」



その言葉に、三兄弟は「へ!?」と固まった。元禄斎の頭部が凍りつき、竿兄の直立が崩れ、玉弟の跳ねが止まる。祠の空気が、一瞬で凍りつく。響子は目を丸くし、一見はくすりと笑いをこらえる。源一郎の提案は、伝統などお構いなしの、三兄弟からすれば驚天動地の言葉だった。


祠の空気が、喜びの余韻から一転して凍りついた。三兄弟の紫がかった光が、ぴたりと止まり、浮遊する体が空中で静止する。元禄斎の干からびた梅干しのような頭部が、ゆっくりと傾き、大きな目がぱちくりと瞬く。竿兄の直立不動の姿が、わずかに揺らぎ、玉弟の丸い体が、ぴょんと跳ねるのを忘れて固まる。


彼らの視線は、すべて古井座源一郎に集中していた。源一郎の言葉――「殺生石の下で眠りこけてるサボりを叩き起こす。」――が、祠の壁に反響し、埃の粒子を震わせる。


源一郎は、辣腕経営者の顔を覗かせ、腕を組んで三兄弟を見据えた。彼の銀色の髪が、懐中電灯の光に鋭く輝く。古井座家の当主として、数々のビジネス危機を乗り越えてきた男だ。伝統など、ただの道具。現代の技術と力で、問題を一掃するのが彼のスタイルだった。


響子は夫の横で目を丸くし、一見はクールな表情を保ちながら、内心で父の過激な提案にくすりと笑いをこらえる。祠の外では、夜風が庭園の木々を優しく揺らし、SP達が守りを固める。




遠くで、ドーベルマンの低いうなり声が響いていた。



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