お風呂場の恐怖は伝染する
今回のイベントに一番乗りで投稿できないかな〜
登場人物一覧
主人公 松波 拓海 大学生。お盆休みってことで父方の実家に一人で帰省中
松波の友人 甲田 駿 大学生。拓海の同級生。ほぼ毎日のように一緒にゲームしたりしている。
甲田の友人 茂木 駿介 大学生。甲田の所属する、大学のTRPGサークルに所属している縁で仲良くなった。一応甲田の後輩にあたる。男の娘。
茂木の知人 湯浅 結月 30代くらい?
わかりづらいと思ったので場面転換の際は>ー<というマークを入れています。
和室の天井から吊るされた、今どき珍しい、ヘイローのような蛍光灯の時折ちらつく薄暗い光と窓から差し込む赤っぽい太陽光の下、ずっしりとした座卓の上のスタンドに置かれたタブレットには、テールというHNがアニメキャラを切り抜いたアイコンの上に表記され、音声が入るたびに軽く伸縮しながら明滅する。
外からは蜩の物悲しい鳴き声が響き、山間の田舎なので夏であっても日が沈むのが早く、まだ5時にもかかわらず、既に日は山の天辺に掛かろうとしている。
「そういえばこの前体験した恐ろしい話を聞いてくれない?」
「どんな話?」
「あぁ、どちらかというと俺もあいつから聞いた話になるがまぁいいや、この前茂木の家に遊びに行ったんだが⋯」
>ー<
茂木の住むアパートに遊びにいくのは久しぶりだった。とはいってもサークル活動で直接会ったり、週末はいつもチャットツールで会話しながらゲームしたりセッションを回したりしているからそんなに特別感というのは無い。つまみやビールに、やっすいウォッカの瓶等が入ったコンビニのビニール袋を振りつつ住宅街の路地を歩いていって茂木の住む安アパートに辿り着いた。
特に気兼ねなくインターフォンを鳴らせば、すぐに室内から「はーい」と返事があり出てきた茂木にすぐに室内に招き入れられた。
多少部屋のレイアウトは変わっているとはいえ見慣れた部屋だ。少し腐臭がする気がしたが、夏場だし暑さでシンクの生ゴミが軽く発酵してしまってるのだろうと軽く流して茂木が出してきた折りたたみテーブルの上に買ってきた酒やらツマミを並べて、Sw◯tch2でマ◯カーをプレイした。その時わざわざ茂木のアパートまで来たのは茂木がSwit○h2の抽選に当選したから、一緒に遊ばないかって誘われたからだ。
え?俺はって?勿論尽く外れてるに決まってんだろチクショウが。
まぁいい。それで数時間後くらいだったかな、二人ともそこそこ酒も入って○リカーそっちのけで駄弁ってたんだがそこで茂木がこう言ってきたんだよ
「そういえば僕最近怖い目にあったんだよね」
「へぇ、どんな?またそういう奴に襲われかけたのか?」
「流石にまだ記念すべき30回目には到達してないよ」
>ー<
「ちょいちょいちょい、まってまって、いや流石に多くない!?29回?29回も!?いやおかしいでしょ!」
「それな。因みに此処1年の記録だぜ。どうなってんだろうな、あいつ。」
「えぇ、、流石に盛ってるでしょ。あそこらへんってそんな治安悪かったっけ?」
「そんな事無いはずだけどな。少なくとも住んでて治安悪いなって感じることなんて全く無いどころか寧ろ治安良いほうだと思うんだけどなぁ。
因みに恐らく盛ってはいないと思うぞ。この前一緒に街歩いてたら何回かナンパされてたし、別の日にたまたま茂木を見かけたときはおっさんに路地裏に連れ込まれかけてたしな。」
「なにかそういう化学物質でも放出してるの?人が欲望に忠実になるような。それか呪われてる?お祓いにつれてってあげな?」
「あぁ。今度そうするわ。てか話を戻すぞ」
>ー<
それで茂木が話してくれた話な。
ある時オンラインTRPGのセッションで仲良くなった女性がいたんだってさ。湯浅さんっていうらしいが。それでなんやかんやあって家も近いことがわかったから湯浅さんの家に茂木は招かれたんだってさ。
まぁあんな目に遭っておきながらホイホイと殆ど見知らぬ人の家に招かれる奴も奴だとは思うがスルーするぞ
まぁ普通にお茶会の真似事したりしてたらしいんだがしばらくして湯浅さんはどっか行ったんだってさ。言いたいことは分かるがなんで居なくなったかは茂木も詳しく覚えてないって。
けど茂木は家にあがったときからずっと気になってることがあったんだってさ。時折何処からか酷い腐臭してくるって。
それで湯浅さんが丁度居なくなったからこの腐臭の原因を探ってみることにしたんだって。なんか違和感も感じてたらしいからな。
それで匂いを辿っていった先にあったのは浴室だった。軽く開いた風呂場のドアから中を覗いてみれば天井付近の採光用の小さな窓以外には窓が一切なく、ほぼ完璧な密室になっていた。そして立ち込める腐臭。こころなしか少し鉄臭いような気もする。やはり明らかに異臭の源は風呂場。風呂場そのものには特に異常は無いため原因は蓋の被せられたバスタブだろう。
正直初対面の人の家を勝手にうろつきしかも風呂場にまで侵入するのは少し、いやかなり気が引ける。それでもTRPGプレイヤー、探索者たるもの辺り構わず目星を振って聞き耳を振り、少しでも情報を集めるのが使命で命題だろう――好奇心に抗えなかっただけではない。断じて。――心中で言い訳を並べ立てながらもう少し扉を開けて体をそこに滑り込ませる。
なんとなく忍び足でバスタブまで近づき、音を立てないように気を使いつつ風呂蓋を捲りあげてみる。これまでとは比べ物にならないほどの腐臭がバスタブから立ち昇る。
思わず風呂蓋から手を離し、込み上げてくる吐き気を抑えなければならないほどの腐臭だ。
軽くえづきながら意を決してバスタブの中を覗き込んでみれば、赤錆色のドロッとした液体が湛えられていた。表面は全体的に分厚い泡に覆われ、渦を巻いている。所々に血餅のような何らかの固形物が浮かび、バスタブの側面には髪の毛と思しき物体がいくつか張り付いている。
直視するのも難しい、血の池地獄のような、いやそれよりも遥かに質が悪そうな、なみなみと湛えられた血の色をした悍ましい液体の前で、反対に顔面の血の気はサーっと引いていくのを自覚する。
ふと有名な、スープおじさんという「検索してはいけない言葉」の一つを思い出す。余計に恐ろしくなってきた。
実はこのバスタブの中で亡くなった人間がいて骨以外が残らず溶けてしまうまで待ってから下水に流そうとしているのだろうか。溶けるまで待つ間に匂いが周囲に漏れ出さないように蓋をされていたのだろうか。
それともこの家は事故物件で、嘗て起きたことがその時の残留思念や霊によって再現されて、いま目の前に現れているのだろうか。さっき湯浅さんが居なくなってからやけに静かで、時間が経ったように感じられるのは、自分だけが異界に入ってしまったからなのか。だとしたらどうやって此処から抜け出せるのだろうか。もしかして実はこのバスタブの中に飛び込ませるために此処に誘い込まれてしまったのだろうか。あいにく数珠などは持ち合わせていない。流石にそこまで信心深くないのをこのときばかりは非常に後悔した。
第一、数珠程度で何とかなるような物なのだろうか。
もし湯浅さんがシリアルキラーで、夜な夜な死体を希硫酸を注いだバスタブに入れて溶かしていたら。唐突に自分が家に招待されたのはターゲットに選ばれたからなのではないか?
「茂木くん何してるの?」
心臓が口から飛び出そうなほど驚いた。居なくなっていたはずの湯浅さんがいつの間にか戻ってきたことに加え、音も気配もなく後ろに居たのだから。
心臓が早鐘を打ち冷や汗が背筋を伝う感覚がやけにはっきりと感じられる。
なんと言い訳をしたものか。下手な言い訳をすれば自らもこのバスタブの中身と文字通り一体になることだろう。なんならどううまく取り繕ったところで辿る結末は同じかも知れない。故に下手に声を出せない。
「あぁ〜。バスタブの中身を見ちゃったのね〜」
あぁ。終わった。やっぱり自分は運が無かったのだ。ただもう少しいろんなものを見てみたかった。
「まぁ匂いも独特だし気になっちゃうよね〜」
果たしてこの途轍もなく酷い腐臭を独特な匂いと形容して良いものなのか。妙にぼんやりと落ち着いた頭の片隅で考える。
「知ってるかな?これはマコモ湯っていうんだ。」
「えっ?」
間の抜けた声が口から溢れる
>ー<
「なぁ、、?言おうかどうか迷ってたんだが、もしかしてこの家に入ったときからかすかに漂ってきてたこの匂いってまさかとは思うが、、?」
「よくわかったね!そうだよ、僕も彼女に勧められて始めてみたんだよ。」
「あ〜、一応聞いておくが何を始めたんだ、、?」
「勿論、マコモ湯に決まってるでしょ!」
「、、、ちゃんと水は変えてるんだよな?」
「うん。流石に数年も替えてない水に入る勇気も無いから、流石に1週間に1度は替えるようにしているよ」
「案外まともだった」
>ー<
「いや1週間溜まった水に入るのは果たしてマトモなのか?」
「数年間熟成されたドブに浸かるよか遥かにマシだろうて」
「それはそう。てかお前は大丈夫だよな?」
「おう。流石に、
甲田が喋ってる途中でとたとた、ぱたぱたと小走りで廊下を駆け抜けてくる足音と共に障子を開ける音が聞こえてくる。おそらく従兄妹の明海だろう。
「拓海〜、お風呂湧いたってよ〜」
「おっ、ありがとな。ってうちのお風呂は大丈夫だよね!?」
「へっ!?」
3日に一度は換えてるぞ」
甲田の最後の一言が誰にも聞き取られなかったことはある意味幸運だったのだろうか。
恐怖は伝染する。
これを書くにあたってちょっと検索してみたけど、要約AI君が大分汚染されてて乾いた笑いが出た。
どうでも良いけど自分は4時半くらいの太陽がまだ沈んでない時間帯にお風呂に入るのが好き。
あと小雨が振っている日は照明を消して、ローファイを流しながら曇りガラス越しに中庭の植物と曇り空を眺めるのも良き。