貴女への愛が神経毒のように体を蝕んでも
瞬きをした、光が入った、高校二年生の夏の頃だった。
白いシャツに滲んだ汗は、あまりにも私に似合わない。
当時、僕は学校に友達が多いとも言えず、少ないとも言えない、というより、そもそも友達と呼んでもいいのか、という状態での生活を送っていた。
例えば、教室の中では仲良くしているが、休日どこかにでかける となった時、僕だけ誘われない、などそういう点で友達と呼んでもいいのか、という疑問点があった。
そんな日常が、高校を卒業した後の僕の心を掴んで離そうとしない。
僕は、高校を卒業してもう1年ほど経つ。本当は大学に行きたかったのだが、精神疾患との兼ね合いで通うということが困難だと判断した為、進学を諦めた。現在の僕はフリーターだ。
色々な職場を転々と変えている。
居酒屋はクビになった。アパレルはやめた。カラオケ店では必要とされていない。
筆先で丁寧に描くのではなく、画材に絵の具をそのままグシャッと押し潰しているような日常だ。
話を戻します。 なぜ僕の心を掴んで離そうとしないあの時の青空があるかというと、それは、あまりにも現在の僕という状態に大きな影響を与えすぎているからだ。
精神疾患になったのも、高校生活を送れたのも、全部楽しかった。
僕はいつも思う。 思い出の中で静かに眠っていて欲しい、と。
ところが僕の青空はじっとしていられずに、僕の日常生活に支障をきたすほどの、悪影響を及ぼす。
アパレル勤務の時、高校の頃に発症したパニック発作を頻繁に起こしてしまい、素敵な方々に囲まれて働けた幸せな時間を、壊してしまった。 迷惑をかけてしまった。
これ以降、バイト先を転々とする度に、また迷惑をかけてしまうのではないか、と怯えて暮らすことになる。
青空、と表現したが、僕は青空が好きじゃない。
晴れ渡った空が、すべてがうまくいくような顔をしてこっちを見てくるからだ。
どこにも逃げ場がなくて、
悲しいなんて言えないほどに、
明るくて、まっすぐで、まるで“正しさ”のように
空が広がっているのが、怖い。
曇り空のほうが、まだ優しい。
雨の音のほうが、まだわかってくれる。
青空が嫌いだ。
だって、こんなに明るい世界で、まるで僕だけが影を引きずってるみたいじゃないか。
そんな自分の状態を受け入れることの無いまま、日常を送っていた。
ある日、いつも通りの退屈な日常を送っている時、そう、僕は寝て起きたら必ずTwitterを開くのだが、その瞬間、僕の世界に知らない色が入り込んできたのだ。
神様は、僕にしか教えていない色がある、と夢を見る度に思う。だが、それはあくまで夢の中での話だ。大抵の色は知り尽くした と思っていた。
しかし、違った あの瞬間、間違いなくあの子の色は僕の19年間の人生の中で1度も見たことの無い色だった。
勘弁してくれ、と思った。ただでさえ不安定な日常が、貴女の言葉、反応ひとつでさらにもっと不安定になる。
きっと、人の顔をしているだけの、黒い瞳の災害だ。
正直言って、この状態はかなり苦しい。 手の届かない存在に恋をするのは。
恋という状態で、自分の心をすり減らし、消費している。こんなことを続けていれば、僕は更に壊れてしまう。
水面に映る月を見ているみたいだった。届かない。けど目を逸らせない程美しい。
触れられないことが、この恋の1番の美しさなのではないか、とまで思った。
「好き」と言うには、僕の中の何かがあまりに破損していたし、
「諦めよう」と思うには、まだ君が綺麗すぎた。
痛みと執着の隙間に挟まれて、
僕は、君のすべてを愛してしまった。
こんなこと、誰にも言えない。
恋ではない。救いでもない。
これはもう、依存に似た何かが、神経に染み込んでいく感覚だった。
君が笑えば嬉しくて、でも同時に絶望した。
その笑顔に、僕は、必要ないんだって。
一番近くにいたいと思ってしまったのが、
そもそもの過ちだったのかもしれない。
手が届かない。
近づくほどに、遠ざかる気がして。
まるで、触れた瞬間に消えてしまう“幻覚”みたいだった。
それでも僕は、
この恋をやめようとは思わなかった。
どれだけ正気を削られても、
どれだけ他のすべてが壊れていっても、
君を想うこの感情だけは、僕に残された熱だった。
身体の奥で、脳が少しずつ軋む。
冷たいしびれが神経の末端を這う。
でもそれでも僕は、君にだけは、
“生きている”と思わせられた。
だからもう、どうでもよかったんだ。
貴女への愛が神経毒のように身体を蝕んでも、
僕はそれを、生きている証拠と呼ぶしかなかった。
ありがとうございました。