例えば、誰かが誰かに料理を作る場面
例えば、誰かが誰かに料理を作る場面を思い浮かべてください。
もし仮に、子供やペットの為に料理を作ってあげるようなイメージをあなたが持ったのなら、あなたは女性原理的な価値観を持っていると言えるかもしれません。育成や調和を重視する価値観ですね。そうではなく、料理人が客の為に料理を作るようなイメージを持ったのなら、あなたは男性原理的な価値観を持っているのかもしれません。支配関係や法の秩序などを重視する価値観です。
一応断っておくと、女性原理、男性原理といった名前が付いてはいますが、これは必ずしも生物学的な性別の制約を受けるものではありません。女性原理的な価値観を持った男性もいれば、男性原理的な価値観を持った女性もいるのです。ただ、それでも、生物学的な性別から影響を受けているだろう点も間違いはないのでしょうが。
――さて、
ここで女性原理的な価値観を持った人と、男性原理的な価値観を持った人が協同して生活しているとします。まぁ、女性と男性だという事にしておきましょうか。そして、女性が家事…… 家の管理業務を担当し、男性は外で働いて収入を得る担当だとします。つまりは分業体制ですね。
女性は女性原理が強い人だとします。彼女が家事をするモチベーションには、子供の世話をするような心理が背景にあります。この言い方ではやや語弊があるかもしれないので、一応断っておくと、“子供”と言っても別に男性を低く見ている訳ではありません。そもそも生物が利他的な行動を執る起源の一つは、子供を護る本能だと言われています。つまりは利他行動に快感や満足感を得られる性格だという事ですね。
ですが、男性は男性原理的な価値観を持っているので、彼女のそのような行動原理を誤って理解しています。自分が収入を得る役割で、彼女は家事をやるのが役割。一種の契約関係だとして彼女の家事を捉えているのです。
ですから、特に彼女に気持ち良く家事をやってもらう為の配慮など必要ないと考えています。そしてその所為で、作ってくれた料理に対して「美味しかった」と感想を述べたりもしませんし、仕事で嫌な事があった時などは不愛想に振舞ってしまったりもします。当然、女性側には不満が溜まっていくでしょう。自然、彼女の“家の管理”に対するモチベーションは低下していってしまいます。モチベーションが低下すれば、家事の質も低下していくでしょう。料理が不味くなるかもしれませんし、掃除や洗濯もいい加減になっていくかもしれません。
そして、もしそうなってしまったのなら、男性は女性に「仕事を真面目にやっていない」と注意をするかもしれません。彼にとっては、彼女の仕事は契約関係に基づいたものなのです。ですから、“相手が好きだから”とか“喜んでくれるから”といった動機は理解できないのです。しかし、女性はそうではありません。その所為で、益々、女性は男性に対して不満を持つようになるかもしれません。そして更に家事の質が落ちるかもしれません。
――つまりは、負のスパイラルです。
近年になり始まった事ではないかもしれませんが、インターネットが普及し、SNSや動画サイトなどが普通になった事で、お互いの無理解から生じる齟齬による男性嫌悪や女性嫌悪が一部で激しくなっているように思えます。
しかし、本来、女性原理と男性原理は相補的なものです。
この問題をなんとかするのには、互いの無理解をなんとかするのが第一歩でしょう。男性はもしかしたら、「ご機嫌取りなんかしていられない」と言うかもしれませんが、ならばせめて「働くのが過酷である」点を、もう少しくらいアピールしてみるのも良いかもしれません。女性の同情を引けたなら、女性側の態度も変わるでしょう。
……ただ、それが女性にとって「苦労アピール」に観られてしまったら、逆効果かもしれません。
なので、ここでちょっと男性側を擁護しておきます。
今の日本社会は、男性の方が社会的成功を収める上で有利な環境になっているのは事実でしょう。ですから、もしかしたら、社会に出て働いている男性を羨ましく思っている女性もいるかもしれません。が、実は男女平等社会の方が男性の寿命は長い事が知られています。つまり、一家の収入を一手に引き受けるというのは、心身共に男性にとってかなりの負担になっているという事です。
もう少しくらいは、男性側の負担を慮ってあげてはどうでしょうか?
まあ、共働きなのに、一切男性が家事をやらないというのなら、流石に男性側が反省をするべきだと思いますが。