ときよっつ
身長が伸びた時、どう思った?
嬉しい? そりゃそうか。普通はそう思うもんだよね。
え? 僕? 僕はそうは思わない。
全然、逆張りとかじゃなくてね。まあ逆張りだと思ってくれても別にいいけど……
なんでかっていうと、僕のベッド、2段ベッドなんだけど、そりゃあ、小学生の頃とかは、2段ベッドの上は床に立ちながらだと見れないわけじゃん?
でも、身長が伸びたら、上が見えるようになった。景色が、変わったんだ。
「見える世界が変わったってことじゃん」って言うと、なんだかポジティブに聞こえちゃうけど、僕にとってはそうじゃない。
「見える世界が変わった」ってことは、もう二度と、昔の景色を見れないということ。いつだったか忘れたけど……中2か、中3か、まあ、そんくらいの時期に、それを悟った。時期はそんな重要じゃないけどね。こんなに早くそれに気づいた自分を知らしめたいだけ。愚かだね。
笑ってよ。それくらいの方が話しやすいでしょ?
なんで嫌なのか? 決まってるよ。
だって、寂しい、じゃん。昔に見た旅行中の景色が頭に戻ってくるたびに、それが、楽しかった思い出としてじゃなくて、もう二度と帰れない景色として流れるのが。
そんなことを感じてしまう自分を、連れて行ってくれた親に対して失礼だと思うし、薄情だと思う。でも、その感性っていうのは人それぞれにあるものだし、言い訳はできる。
かと言って、それで戻れるのかって言ったら、そうじゃない。
無駄な、過去への固執なんだよ。どうしても、昔から未来に対して前向きになれない。
どうしてみんな未来に向かって頑張れるんだろう。未来のことをずっと頭の片隅に置いておけるんだろう。
よくいうじゃん、将来のことを考えたら勉強頑張らなきゃって気持ちになるって。それで行動できる人って、きっといるんだろうけど、どういう脳の構造してるんだろう。僕が異端なのかな?
ああ、ごめん、話が逸れたね。
まぁ結局、何が言いたいのかっていうと、僕はきっと変化が嫌いなんだろう……と。それだけ。
いつから変化を恐れ始めたのか、自覚し始めたのか。もう、わかんないけど。
君は怖くないの? 僕は怖いよ。
僕は、小説を書いてるから、書きたいことがなくなることが怖い。
僕は、自分の中にある世界が、いつか壊れてしまうんじゃないかなって、怖い。
大人になって環境が変わったら、自然とそうなっていくんだろう。変化は避けられない。
昔だったら、ずっと死にたいって感情をもててた。その感情をどうにか押し殺しながらも、誰かに訴えたいと願っていた自分に対して酔いしれていた。
でも、この先、そんな感性もなくなってしまったら、僕は一体何を頼りにして生きていけばいいんだろう。何も成せない人生なんて、嫌なのに。
君たちには、自分で思い浮かべた空想とか理想なんてものは、ないのかな。
あるとしたら、どうして変化を受け入れられるのかな。
テセウスの船って、こういうことを言うのかなって、今ちょうど思ったよ。そして、はっきり言える。別物だよ。
僕は産まれるために、前の自分を殺して殺して殺し続けて、あげく前の自分の夢を奪って握り潰そうとしてる。
気づきたくなかったよ、こんな事実。
でも、一つ言える。
僕は、今ここにいる。
「過去の自分」という、屍の上に立っている。
そう考えたら、なんだか、報いたくなってきたかもしれないな。
……ま、行動には移せないんだろうな。僕のことだし。
こういうところに対しては変化を望むようになったくせに、いまだに変化を嫌うのは、ほんと、なんなんだろうな。人って、おもしろい。