左利きについて語る僕とその話を聞く彼女
【作者より】
遅くなりましたが、「左利きの日」にちなんで書いてみました。
本作品は『闇医者・悪役令嬢シリーズ(https://ncode.syosetu.com/s0121d/)』と『キケサバシリーズ(https://ncode.syosetu.com/s8255d/)』のコラボ作品です。
本作品の登場人物
『キケサバ』シリーズ(https://ncode.syosetu.com/s8255d/)より。
・イルザ・アナフェローズ
・ヴィンセント・ミッドフォード(注・本作品では名前のみ)
『闇医者・悪役令嬢シリーズ』(https://ncode.syosetu.com/s0121d/)より。
・ジャスパー
ここはとある魔界裁判所。
そこに勤務しているのは裁判官や探偵、その両方の資格を持つ相互判定員が存在し、それぞれの業務に従事している。
とある部屋には女性がひとりだけいるだけ。
彼女の名はこの裁判所で相互判定員の資格を持つ唯一の女性と言われているイルザ・アナフェローズ。
顎くらいまで伸びているダークブラウンのストレートヘア、紅い瞳を持ち、右目尻に泣き黒子ほくろがあり、左目には眼帯をしている。
両耳にはピアスを開けており、眼帯をしている左側に3個、泣き黒子がある右側には2個開けられていた。
胸元が見えるくらいボタンが開け、裾と襟が出されたYシャツにゆったりと縛られている黒いリボンに黒のジャケット、パンツを着用している。
彼女が使用しているノート型パソコンのキーボード音が微かに聞こえてくるだけだった。
誰かが部屋の前を通過すると思いきや、コンコンとドアを叩く音がする。
イルザは「はい」と返事した。
「こんにちは。失礼いたします」
彼女はキーボードを叩くことをやめ、パソコンから扉の方に視線を移す。
開いた扉の先には裁判所内では風変わりな男性が入ってきた。
「こんにちは……って、ここは部外者立ち入り禁止だぞ!? 裁判所長には内緒にしておくから、速やかに出て行ってくれ!」
イルザから部外者扱いされている謎の人物……高身長で艶やかな銀髪で顔の半分を隠している美男。職業は白衣を着用しているため、医師か研究者と思わせるような雰囲気。
彼女はほんの少し苛立ちを覚えたが、彼から「まあまあ」と宥められた。
「そのようなことを言わずに。あなたの相棒から許可はいただいておりますので」
「ヴィンセントめ! いつの間に! ……何、勝手にヴィンセントの席に腰をかけている!」
イルザはよくこんな奴をここまで通せたなと思った矢先、普段はヴィンセントが使用している椅子に腰かけている。
「唐突ですが!」
「ん? なんだ?」
「本日は8月13日ですが、なんの日かご存じですか?」
「8月13日だろう? 今日は私達の作者である楠木 翡翠先生の誕生日。それくらいは覚えておいて当然のことだ」
「おめでたいですよね」
「それはおめでたいことだ」
「あとでケーキでも差し入れに伺いましょう」
「同意する」
彼らは簡易ではあるが、作者の誕生日を祝った。
「ですが、他にもあるのですよ?」
「どうやら「国際左利きの日」でもあるらしいな」
「正解です! 今日は僕が左利きについて語りたいと思います! ところで、そのパソコンはいつから!?」
「最初からあったのだが……私はここで調書を書いていた。そうしたら部外者が入ってきた。何か問題でも?」
彼女は調書を保存し、ぱたんとノート型パソコンを閉じる。
「……業務中だったのですね。失礼いたしました……」
「さて、本題に入らせていただこうではないか。左利きのメリットとは何か?」
「メリットはですね……ノートは横で使う機会が多いですが、ごく稀に縦にして使ったりしますよね? 試しに何か書いてみてください。右手はもちろん、難しいとは思いますが左手でも」
彼からのノートを受け取り、左右それぞれ同じ文章を書いてみるイルザ。
「ノートの罫線を縦にすると縦書きがしやすいな。その時に何かあるのか?」
「両手を見てください」
「はい。右手が黒くなっているが左手は綺麗なままだ」
「縦にした時に小指が汚くなりにくいことだと思います」
「確かに上から下だからな……右利きだと小指が汚れやすいが、左利きだと汚れづらい」
「他には左利きの人口が少ないという点でも憧れを持つ人もいらっしゃるのではないかと。スポーツだと競技によっては有利働くことがあり、音楽家やイラストレーターなどの芸術家タイプとも言われています」
「確かに。賢そうと思ったりする印象はあるな。一方のデメリットは?」
「まずは先ほどのノートを横に戻して同じように書いてみてください。左手が汚れますから」
彼から言われた通りノートを戻す。
同じ文章を横書きで左右どちらも書いてみた。
彼女は「本当だ」と呟く。
「左利きのハサミは存在しているそうですが、ほとんどの刃の噛み合わせが右利きに準じているそうなので、扱いにくい」
「確かにヴィンセントもハサミは苦労しているところはよく見かけるが、そういった不便な面もあるのだな」
「左様でごさいます。デメリットはまだまだありますよ。僕の職業の話になりますが、外科手術がやりづらい点。他のスタッフが右利きがほとんどなので対の動きが生じます。左利きのスタッフがいれば多少はやりやすいのですが、さすがにこればかりは妥協して僕が対の動きを習得して乗りきっている状態です。調理器具だと缶切りや包丁はうまく使えないですし、レストランのスープ用のおたま……レードルというのですが、スープは溢れまくりますし、楽器は左利きのものはあまりなく、右利きのものをなくなく使わなければならないこともありましたね。食事は右利きの人が隣にいると腕がぶつかりますし……」
ペラペラと左利きのデメリットを話している彼。
イルザはまだその話が続くのかと呆れた表情を浮かべていた。
「……そんなにデメリットがたくさんあるならば、私からいくつか言わせていただこう」
「?」
「左利きについて知ることが大切だと思う。今、話してもらったメリットやデメリットを知るのはいいことだ。あとは……」
「あとは?」
「それは……私みたいに両利きになってしまえ。以上!」
「道理で右で書いても左で書いても達筆だと思っていたら両利きなのですね……」
「両利きならば使い分けられるから便利だ。用件は済んだのか?」
「は、はい。お忙しい中、僕の話につきあっていただきありがとうございました。失礼いたしました」
彼は用が済み、彼女の部屋から退出。
彼女はやれやれと肩を竦め、調書作成の続きを始めるのであった。
最後までご覧いただきありがとうございました。
・『キケサバ』シリーズ(https://ncode.syosetu.com/s8255d/)
・『闇医者・悪役令嬢シリーズ』(https://ncode.syosetu.com/s0121d/)
もしよかったら読んでみてくださいね。
2025/08/14 本投稿