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東京

作者: 日向 瀬名

京王線の電車を降りて今日も家に着くのは21時過ぎ。

部屋に着くとテレビがつけっぱなしだった。

その誰もいない部屋でついていたテレビが、帰り道で路上ライブをしていた男の子と被って見える。


上京してから3年が経つ。

私はすっかり都会人だ。


たとえば、おしゃれなカフェで飲み物のサイズを「Lサイズ」だなんて注文しない。

「抹茶フラペチーノの『Tall』をください」と言う。

初めの頃は、トールって単語をレジに並んでる間に意地悪な悪魔が耳元で「タール」じゃないの?と囁いてきていた。

100%自信があったのに、私がレジに1歩近づく度にその囁き声は大きくなって、いざ注文するときには自信が50%になっていて、「Tall」という文字を指さして「これで」と言っていた。

あの囁いていたのは悪魔じゃなくて、田舎者の自分だったんだと今気がついた。

でも今は自信満々に「トール」と言う。

ほら私はすっかり都会人だ。


タクシーだってスマートに腕を上げて乗れるようになった。

昔は、腕を上げて車を止めて乗り込むなんて映画やドラマの世界だけのものかと思っていた。

初めの頃は緊張しすぎて、腕をピシッと真上に上げていた。

きっとその姿は小学1年生の初登校。

でも今はほら、すっかり都会人だ。


でも私がなりたかった都会人はこう言う事じゃない。

上京して1年目。

私はテレビで見るような都会人になりたくて、一度はネオンに囲まれた東京に飛び込もうとした。

でも、光に集まった虫がバチッと電気ショックを喰らって落ちるように私は京王線の端の駅で暮らしている。


テレビで見たことのある東京の食べ物もいっぱい食べてみた。

タピオカジュース、カラフルな綿飴、ちょっと高いお寿司なんかも。

でもカロリーと糖分だけを体は吸収して、次の日には東京はトイレに流されてしまう。


その結果、私の世界の東京は家から駅までの道のりと、駅前のおしゃれなカフェと京王線だけ。

それが私にとっての東京。


つけっぱなしだったテレビを消して、私は眠りについた。


朝、目が覚めて私はまた東京を歩く。

職場に着いて、今日もまた昨日を繰り返す。


気がつくと21時前。

帰り道、今日も男の子が路上ライブをしている。

私は足を止めてみることにした。

カバー曲2つと、オリジナルソングを1つ。

生まれて初めて路上ライブをちゃんと聴いた。

寄り道も悪くないな。


私の東京がちょっとだけ広くなった気がした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 東京に出てきた主人公の静かな葛藤が、印象的でした。 主人公は自分の居場所をきちんと見つけられるように思いました。
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