サーカス団の少年 【月夜譚No.273】
サーカス団に拾われた少年は、笑顔を失っていた。街道の端に襤褸布のように転がっていた少年を見兼ねた団長が拾ったのだが、団員が笑いかけても食事を与えても、にこりともしない。
感情が抜け落ちたように常に真顔で、言葉も発しないから何を考えているのか判らない。もしかすると喋れないのではないかと危惧したこともあったが、立ち寄った町の医者に診せたところ、自発的に喋らないだけのようだ。
最初は積極的に少年に話しかけていた団員も、やがて彼を遠巻きにするようになった。決して避けているわけではないのだが、打っても響かない彼を不気味に思うようになったのだろう。
団長だけは負けじと毎日声をかけているが、変化はほとんどない。人形のような、機械のような、そんな印象の少年だった。
ある日、サーカス団は湖の畔で野営を行うことになった。旅巡業を生業とする集団だ。手慣れた様子でテントを張り、旅の疲れを少しでも回復すべく早々に眠りに就く。
そんな中、少年はテントの外に座り込んで星空を見上げていた。昔から、眠れない夜はこうやって空を眺めるのが常だった。かつて傍らにいた両親が同じようにやっていた影響かもしれない。優しい光を放つ星々は、今も昔も変わらない。
少しだけ淋しい気持ちで星を眺めていると、視界の隅に光るものが過った。思わずそちらに視線を向けると、次の瞬間、ぶわりと溢れるように草木の合間から光の粒が闇に飛び出した。光は少年の周りを泳いで、夜を散策しているようだ。
光虫が作り出した幻想的な光景に、驚きで目を見開いた少年は目元を和らげた。その優しげな微笑みは、光虫だけが見ていた。