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第九話 愛でしか乗り越えられないもの

 私は、作戦会議をする為、アイザック侯爵夫人の屋敷に一時戻った。


 リビングのテーブルの上には、美味しそうな料理やスイーツが並んでいる。


「さあ、ルイーゼお姉様。山の中の小屋では、ろくなものを食べられなかったでしょう。これは、お祝いです。遠慮なくどうぞ」


 侯爵夫人は、ニコニコしながら私を席に座らせる。


「ああ、あの可愛かったお嬢様が、遂に大人の女性に…」


 サイファーが、ハンカチで目頭を押さえている。


「あなた達!からかうのは、やめて!」


 恥ずかしくなった私は、彼等を制止した。


「失礼いたしました。今、王宮ではエレイン様とランスロット王子の駆け落ちで、大変な騒ぎになっております。しかし、子供が全て姫だった事、エレイン様が農家出身だったので元々結婚に反対していた者が多かった事が幸いして、このまま静かに終わりそうです。国際問題にしてまで、エレイン様が連れ戻される事は無いでしょう」


 サイファーが、真面目に状況を説明する。


「確かにお嬢様とアーサー王子は結ばれましたが、お嬢様の社交界出禁が解けたわけではありません。このままでは、一夜の情事として忘れ去られ、アーサー王子は別の姫と再婚する事になるでしょう」


 サイファーが、冷静な意見を言う。

 そうだった、自分がやってきた事が悔やまれる。


「もう!情事とか言わないで、私達は愛し合ってるの」


 私は、顔を赤くして言う。


「はあ?どう見ても、場の勢いでしょ」


 サイファーが、呆れた顔をする。


「お互い、愛してるって言ったし!」


 私は、ふくれた。


「ベッドの上での愛の告白はあてになりません」


 サイファーが冷静に言い放った。


「そんな風に言わなくてもいいのに。ここまで心を痛めながら頑張ったんだから」


 私は、文句を言う。


「うぶな、お嬢様にしては本当に頑張りました。えらい、えらい」


 サイファーは、ニッコリ笑って言った。


「で、この状況をなんとかする手筈は?天才執事のあなたなら用意は出来ているんでしょう?」


 私は、馬鹿にされた気がして、ふくれながらサイファーに聞いた。


「はい。しかし、最後は正攻法でなければ、どうしようもありません」


 彼は、そう言った。





「お父様、お母様、親不孝者をお許し下さい。何とか私を、もう一度社交界に」


 私は、父と母の屋敷に戻り、両親の前で地に伏してお願いした。

 いわゆる土下座だ。


「お前は、自分が何をしたか分かっているのか!とんでもない不忠者だぞ」


 父が、私を叱る。


「不忠ついでに申し上げますが、アーサー王子と関係を持ってしまいました」


 頭を地面に擦りつけながら言う。


「何という事だ。アーサー王子とエレイン王太子の離縁に、お前も関わっていたとは」


 父が、天を仰ぐ。


「この娘は、アーサー王子を深く愛していたのです。これ以上、責めないでやって。王子と結ばれたなら、それを盾に交渉のしようもありましょう」


 さすがに肝の据わった母が、父をなだめる。


「結婚していた王子と不貞行為に及んだのだぞ。上手くいかなければ、この娘は死罪になるかもしれん。良くて国外追放」


 父が、溜息をつく。


「ルイーゼ、覚悟は出来ているのですね?」


 母が私に確認する。


「はい、アーサー様と添い遂げられるなら、命も投げうつ覚悟です」


 私は、頭を下げたまま、お願いする。


「ああ、我が家も終わりかもしれん。しかし、可愛い娘の為、国王様にお願いしてみるか」


 父は、私の為に決断してくれたようだ。




 私は、両親と共に、国王様に御目通りを願い。

 王座の前に膝まづき、3人で頭を下げた。


「よい、我が息子が選んだ道だ。それにルイーゼ。そなたを、小さい頃から知っておる。あの頃は、可愛かったのう。アーサーと共に並んだ姿は、天使の様だった。そなたは、既に私の娘の様なものだ。息子が、そなたを選ぶのなら、全ての罪を許そう」


 意外な事に、国王は私をすぐに許してくれた。

 アーサー様が、私との再婚を願い出ていてくれたらしい。

 彼は、やはり私を真剣に愛してくれていたのだ。

 愛人として捨て置く事も出来たはずなのに。


「ルイーゼ、私と共に、もう一度新しい人生を歩んでくれないか。全ては間違いだった。最初から君と共に歩むべきだったのだ。君は、私の婚約者だったのだから。裏切ったのは私、君には何の責任も無い」


 国王の隣に立っていたアーサー王子が歩み出て、膝まづく私の手を取り、そう言ってくれた。


「王子、もう二度と、この手を離さないで下さい。あなたがいないと私は駄目な罪深い女になってしまうのです。あなたが側にいる限り、私は誇り高く美しい姫であり続けると約束します」


 私は、彼に誓った。


「誓おう、もう二度と離さない。ルイーゼ、君を必ず幸せにする」


 アーサー王子も、そう誓ってくれた。




 数カ月後、私はアーサー王子と結婚式を挙げた。

 披露宴会場に、オープンの馬車で向かう。

 アイザック侯爵夫人を始め、私の取り巻きだった娘達は、披露宴会場で待っていてくれるはずだ。


 路上には、沢山の国民が私とアーサー様を祝福しに集まってくれていた。

 白いウェディングドレスと白いモーニング、二人共白い衣装に金髪碧眼。

 国民達は、その姿に憧れ、熱狂している。

 私と彼は、国民に手を振りながら進んでいく。


 その中に、サイファーの姿があるのを見つける。


 ありがとう、サイファー!私は、今、最高に幸せよ!

 あなたと戦った日々は、私の心の中に仕舞い、地獄まで持っていくわ。

 たとえ地獄で裁かれたとしても、私は後悔しない。

 愛するアーサー様と、もう一度愛し合う二人になれたのだから。




「お嬢様、本当に良かった。このサイファー、本望でございます」


 サイファーは、ルイーゼを見送りながら呟いた。

 その声は、雑踏にもみ消される。


「満足したか?サイファー」


 サイファーの横に立ったのは、白いドレスを身に付け、日傘をさした貴婦人だった。

 あの悪魔、シトリーだ。


「ええ、行きましょうか」


 サイファーは、涙を貯めた目でシトリーの方を向いた。


 二人は、雑踏を離れ、路地裏に向かう。

 そして、その姿は霧の様に消える。

 その後、ルイーゼとサイファーが再び会う事は死ぬまでなかった。




「あの間女め!私の夫を奪うとは許せない。お願い、あの女から私の夫を取り戻して!」


 一人の貴婦人が、暗い部屋の中で魔法陣の上に座り、悪魔を呼び出す儀式を行っていた。


 やがて、その前に悪魔が呼び出される。


「お嬢様、あなたの夫は必ず取り戻せます。私にお任せ下さい」


 その悪魔は、サイファーの姿をしている。

 耳は尖り、背中には蝙蝠の羽根、口からは牙が覗く。

 もはや人間ではなかった。


「恋愛を司る悪魔シトリーの使い魔、この執事サイファーが、あなたの復縁コンシェルジュとなりましょう」


 彼は、深々と頭を下げた。

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