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第六話 取り戻した二人だけの時間

今日中に完結までアップします。ブックマークよろしく!

 それから私は、かいがいしく王子の世話をした。

 家事や介護など、まったく出来なかったが、この計画の為に完璧に練習した。

 王子は、完璧な介護に何度も感謝の言葉をかけてくれた。


 私は、アーサー王子に抱き寄せられた感覚を何度も反芻する。

 彼とは小さい子供の頃からの付き合いだが、手を繋いだ事さえなく、抱きしめられた事など全然無い。

 ああ、この感覚を私だけのものにしたい。


 今の王子は、私にだけ優しい笑顔を向けてくれる。

 私達は、昔話に華を咲かせ、お互いが初恋の相手だという事を確認しあった。

 この日々が永遠に続いてほしかった。


 しかし、それは不自然すぎる。

 ゴーヴァンが場所を誤魔化してくれているはずだが、捜索の手も近づいているだろう。

 徐々に薬を減らし、5日後にはアーサー王子は立てるようになった。



「ありがとう、ルイーゼ。君は命の恩人だ」


 アーサー王子が、もう一度私を抱きしめてくれた。

 私は、天にも昇る気持ちになり、生まれてきた事を感謝する。

 ああ、ありがとうサイファー。

 私はもう死んでもいいかもしれない。


「とんでもございませんアーサー王子。数々の罪を重ねた、この私に、優しい言葉の数々をかけて下さり、ありがとうございます」


 私は、感謝の意を伝える。


「すまない、父である国王の出した命令は簡単には撤回出来ない。君を社交界に戻すのは、しばらく無理だ。力の無い私を許してくれ」


 アーサー様が、私に謝って下さっている。

 こんな事は、小さい時以来だ。


「とんでもございません。私の犯した罪を考えれば、到底許されぬ事」


 私は、そう言った。


「そうだ、たまには話をしに来てもいいか?家庭の事で、幾つか悩みがあってな。妻と同じ女の君の意見が欲しい」


 アーサー王子は、そう言う。


「もちろん、いつでも歓迎いたします。ここでは、大したものは用意出来ませんが、王子の好きな焼き菓子を作って待っていますわ。たまの息抜きで構いませんので、狩りの途中にでも、お立ち寄り下さい」


 私は、深々と頭を下げた。


「ああ、楽しみにしているぞ。気心の知れた幼馴染というのは、やはりいいものだ」


 アーサー王子は、笑顔で帰路についた。


 アーサー様、あなたは私の理想の方のまま何も変わらない。

 あんなに素敵な方を騙して、私は何と罪深い女なのでしょう。

 でも、もう動き出してしまった。


 こうなれば、必ず彼を取り戻さなければならない。




 それから度々、アーサー王子は山の中の私のいる小屋に馬を走らせ、やってくるようになった。


 毎回の様に、何か王都から手土産を持ってきてくれる。

 食べ物や衣類、化粧品、私の身なりは少しづつ良くなっていった。


 ある日、私とアーサー王子は、日の差し込む森の中を散歩していた。


「あのアーサー様、私は長い間憧れていた事があるのです。一度でいいから、アーサー様と手を繋いで歩きたかった」


 私は、目をぎゅっと閉じて懇願した。

 気位の高い私は、一度もそんな事を頼めなかった。

 王子も、そんな私に手を出す事は出来なかったようだ。


「なんだ、そんな事か」


 彼は、笑いながら、さっと私の手を握る。

 大人になり結婚もした彼にとっては、大したことではなかったのかもしれない。

 しかし、私は体が宙に浮いたような気分になった。


「こ、こんな不貞行為が許されるわけはありません。私は罪深い女です」


 私は、思わず呟いた。


「何を言う。こんな事が不貞行為になるわけがない。いつも、偉そうにしていたわりには、うぶなんだな」


 アーサー様は、大きく笑った。


「からかわないで下さい。私は、王子以外とお付き合いした事が無いのです。そして、王子は何もして下さらなかった」


 私は、赤くなる。


「ルイーゼ、君も一時は人妻だったのだろう。何も経験していないという事はあるまい」


 彼は、目を丸くする。


「いいえ、何もありませんわ。だってフリードヒ辺境伯は、ずっと遠征に出たままで、離縁されるまで顔も見た事が無かったのです。私は身綺麗なままですわ」


 私は、下を向いた。


「そうか、では今日は二人で恋人気分でいるか。少しは君に昔の時間を取り戻してやりたい」


 アーサー様は、私に優しい視線を向けてくれる。


「はい!今日は、なんと良い日なのでしょう」


 私は、目を輝かせる。

 昔は素直になれなかった。

 でも、今は違う。

 大人になった彼に、罪を悔いて素直になった私。

 神様、少しだけ私に婚約者の気分を味合わせて下さい。


 私達は、手を繋いだり、腕を組んだりして歩いた。

 小屋の外のベンチに並んで座り、彼に肩を抱き寄せられながら話す。


 ただのプラトニックな時間。

 でも、私とアーサー様には出来なかった事ばかり。

 このまま時間が止まってしまえばいいのに。


「君に話したい事があるんだ」


 アーサー様が、あらたまった顔で私を見る。


「はい、何でしょう」


 私は、答える。

 彼が今、私に結婚しようと言ってくれれば、どんなに嬉しい事だろう。

 しかし、そんなわけはない。


「最近、エレインの様子がおかしいんだ。冷たいわけではなく、むしろいつもより私に優しい。しかし、どこか、よそよそしく感じる。夜も私の相手をしてくれない。外出も増えた」


 彼は、落ち込んだ顔で私に言った。

 そんな話は、今は聞きたくない。

 でも、これも作戦のうちだ。

 適切に答えなくてはならない。


「アーサー様。男は優しいだけでは駄目です。きちんとエレイン王太子妃に注意すべきですわ。外出禁止にされてみては」


 私は、エレインへ厳しく注意すべきだと忠告する。


「そうか、しかし私が女性に強く当たれないのは知っているだろう?」


 アーサー王子が、困った顔をする。


「そうです。私もアーサー様が強引に誘って下さるのをいつも待っていました。でも、それはいつまで経っても叶いませんでしたわ。何度枕を涙で濡らした事か。女は男に強く出てほしいと願っているのです。エレイン様にも厳しく出て、強引に抱いておしまいなさい」


 私は、半分本音で、作戦通りの内容を話した。


「そうか、彼女も待っているのかな。一度強く言ってみよう」


 彼は、頷く。


 ランスロット王子に気持ちが動いているエレインを外出禁止にしたり、強引に抱けば、彼女は余計にランスロット王子に恋焦がれるようになるだろう。

 アーサー様とエレインの夫婦仲は、最悪になるに違いない。


 私は、罪悪感に苛まれながらも、作戦の成功に期待する。


「しかし今日のアーサー様は、私の恋人。私を抱いて下さい」


 勇気を出してアーサー様に抱きつく。

 気持ちの高ぶった私は、思わず大胆な事を口走っていた。


「それは不貞行為。駄目だルイーゼ。私はエレインと子供達を愛しているんだ」


 彼が、悲しそうな目で断ってくる。


(いや)(いや)!今は、家族の事はお忘れになって!今日は、私と恋人気分ですごすと仰ったではないですか!」


 私は、彼の胸の中で泣く。


「分かった。今はこれで我慢してくれ」


 アーサー様は、私のあごに手をあて上を向かせると、唇にキスをした。

 私は涙で濡れた目を閉じ、それを受け入れる。


 私の初キスは、少し塩辛い味がした。

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