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4.君を忘れるなんて出来ない


リィヴェは三歳にしては賢いと言われ育ってきた。大人が良く褒めてくれる意味は分からないが、幼いながらも大人の言葉も良く理解している。


自分には父親は居ない。母親と二人だけだ。それが当然だったから、寂しいとも悲しいとも思わない。


庭には沢山のお友達がいる。リタはあまり触りたがらないが、リィヴェの遊び相手は色とりどりの綺麗な虫たちだった。


そんなリィヴェにも最近お話する友達が増えた。



「お兄ちゃん!またきてくれたの!?リィうれしい!」



夜眠れないらしいリタは、お昼に少し仮眠を取る。家の外には出ないでねと言われているが、リィヴェはいつもリタが寝ている間にこっそりと抜け出していた。


ほんの五分ほど、いつもおしゃべりするのは、いつだか庭先で母と話していたスネイヴと名乗る男だった。


母の居ない中庭まで抜け出して遊んでいたが転んでしまい、痛くて泣いていたリィヴェを放っておけずスネイヴが話しかけてくれたのが始まりだった。


いつもさみしそうな瞳をするスネイヴがリィヴェはどうしても気になった。


「リィヴェのパパはどんな人?」


そう聞かれ、ぽかんとした表情をした。


「いないよ。ママひとりだよ。ずっと、ママだけ。でもリィさみしくないよ!」


そう正直に言うと、スネイヴは目を丸くして、また悲しい目をして微笑んだから、ヨシヨシと頭を撫でた。


「お兄ちゃんだいすきよ。きっとママもお兄ちゃんがだいすき」


「ありがとう。僕もリィヴェもママも大好きだよ」



そんな風に内緒のお話をしていたことを、リタは知る由も無かった。




◆◆◆




花まつり当日。リタは玄関に立つスネイヴを見て、目を丸くした。あれっきり会うことが無かったので、諦めてくれたのとばかり思っていた。


「お兄ちゃん!きてくれたの?リィのドレス、みて!!」


何故かスネイヴに懐いているリィヴェは固まるリタを気にせず家の中にスネイヴを招き入れてしまった。



「リィがお兄ちゃんにおねがいしたの!ドレスみにきてねって!!」



「そ、そうなの?あの、娘が無理を言ってごめんなさい」


「いや……」



はしゃぐリィヴェの手前、帰って欲しいとも言えず、リタは平常心を装ってスネイヴにお茶をすすめるしか無かった。


テントウムシが刺繍されたドレスを着て、くるりと回るリィヴェに目を細める彼にリタは泣きそうになった。


本当だったら、こうして親子三人で過ごせていた未来があったのかもしれない。そんな身勝手な妄想をかき消すように頭を振る。



「あ、そうだ、お兄ちゃんにリィのだいじだいじ、みせてあげるね!」



何でも見せてあげたいリィヴェが宝物箱を引っ張り出して次々と披露している。面倒くさがらずに全部にちゃんと反応を返してあげているスネイヴは、その中で大切そうに仕舞われていた包に目を向けた。


「あっ……待って……」



はっとしたリタが声をかけたが、リィヴェはその包をスネイヴに見せてあげていた。



「これはね、ママのだいじだいじなんだって。大すきなひとにもらったハンカチなの。だから、リィのたからばこで、あずかってあげてるんだ!」



包から出されたドーナツ柄のハンカチに、スネイヴは目を奪われる。あの日、スネイヴがリタに初めてプレゼントしたオーダーメイドのハンカチだった。


ポロリとスネイヴの瞳から涙が零れ落ちた。



「お兄ちゃん、どうしたの?いたいいたい?」


「ごめんね、リィヴェ。嬉しくて、これはもう、捨ててしまったと思っていたから……」


スネイヴの言葉に、涙に、リタの中で何かが弾けるような、そんな感覚と共に涙が零れ落ちた。


捨てられるはずが無い。だって、リタにとって、これだけは変えようのない宝物なのだ。



「好きだ…リタ。やはり、君を忘れるなんて出来ない」



掠れた声でそう吐き出され、もうリタの涙腺は崩壊した。


好きだ。

スネイヴが。


何年経っても、色褪せない。

きっと、死ぬまで、リタの心の中にはスネイヴしか愛せる人は居ないだろう。


スネイヴの気持ちは嬉しい。このまま抱き着いて、私も好きだと、この子は貴方の子どもだと言ってしまいたくなった。けれども、リタの理性がそれを押し留める。


自分はスネイヴと自分の家族を天秤にかけ、家族を選んだのだ。一途に想ってくれていた彼を一方的に傷つけ、別れた。何度同じ状況になっても、きっと自分はスネイヴを選ぶことは無い。



「貴方の気持ちは…わかったわ。ありがとう、でも、私は貴方のこと、忘れてたの。酷い女でしょう?貴方も忘れた方がいいわ。さあ、もういいでしょう?」


傷ついたように瞳を揺らすスネイヴからリタは視線を外した。そしてリィヴェを抱きしめ、スネイヴに背を向ける。


「良い花まつりを……」



そう別れの言葉を告げたのだった──



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