七雫
「おお、着いたぞ」
「・・・・・」
尚佐の邸宅から、十五分程車を走らせ
広大な山岳地帯一帯に広がる叶生野一族が住む
"叶生野荘"
の中を善波、そして征四郎の二人は
進んで行く-------
「・・・・」
車の中から、征四郎は森や丘の上にある
いくつかの建物に目を向ける
「ここは、一体-------...?」
「....ああ、さっきから話してる通り
"征佐"が、この叶生野荘のどこかの
家の者なら、それに詳しい人物に話を
聞くのが筋かと思ってな-------」
「それが、この、"保瀬"家?」
「そうだ。 この、保瀬の爺さんは、
尚佐祖父さんとは年も近かったせいか
年をとって、この叶生野荘から
ほとんど出なくなった尚佐祖父さんの
仕事のやり取りや他の色々な雑務を
尚佐祖父さんに代わって
任されてた家だ--------」
「じゃあ、御代の事については
かなり詳しく知ってるって事か」
「・・・まあ、体よく行ったら尚佐祖父さんの
"側近"みたいなもんじゃないか?
-----っと、 降りるぞ」
「・・・・」
「ガチャ」
「(車-------、)」
「先に誰か、ここに来てるみたいだな....
....あの車は--------」
「おや、征四郎くん。」
「(明人-------)」
保瀬家の邸宅と思われる門の入り口の前に
止まった何台かの黒い車の中から、
叶生野家の三男
"叶生野 明人"
が降りてくる
「・・・・」
明人が、車から降りてきた善波と征四郎を
何か含みを持った様な表情で見る....
「(--------、)」
何が、と、口には表しずらいが、
この、明人。
「まさか、征四郎君が善波兄さんと
一緒にいるとは-------」
「たまたま、御代の屋敷に残ったのが
善波さんと、俺だったもので------」
「------ほう。
私は、てっきり征四郎君も、
何かと興味がない様な素振りを見せて
実は、"御代"の座を
欲しているのではないかと-------」
「そんな事は-------」
「--------....」
話も早々に、明人は征四郎と善波の前から立ち去り
保瀬家の屋敷の中へと入って行く
「・・・・」
「.....明人の事は、好きじゃないみたいだな?」
「-------フッ」
善波の一言に、征四郎は
薄っすらと口の端を上げる
「まあ、征四郎君の事業が
この叶生野家の中でも目立ってるから
明人は、征四郎君に、少し
対抗意識みたいなものがあるんじゃないか?」
「それならそれで、構わないが....」
「それより、俺達も屋敷の中に入ろう」
「-------ええ。」