十六雫
「お食事で御座います------」
「ガチャ」
「ガタタッ」
「・・・・・」
「どうぞ------」
「ああ、どうも」
「カタッ」
「こちらを、どうぞ------」
「・・・ああ。」
「カタッ」
後ろに料理が乗せられた台車と、
何人かの別の執事を連れて来ると
執事の近藤が目を伏せがちに
部屋の中にいる叶生野の人間が
座っているテーブルの上に、
料理が乗せられた皿を置いていく
「・・・・」
「カチャ」
「カチャ」
「・・・・」
何か気になる事でもあるのか
皆部屋の中に残された叶生野家の一族は、
何も喋らずただ、目の前の皿に乗せられた
料理に手を付けている
「カチャ」
「セイシロウ------」
善波 ルーシー、そして征四郎と
同じテーブルに着いていたジャンが
ナイフで柔らかい肉を割きながら
そのナイフを置く
「いったい、どうナってるって言うノ?」
「さあな--------、」
"ジャン・アルベルト・トオノ"
日本から世界に広がった叶生野家の企業群の中で
フランスにおいて石油業、製鉄業などを手掛け
経営に携わる傍ら、
自社である"coquille"が
アメリカの油田に進出している経緯から
アメリカ内で銀行業や金融関連の仕事をしている
征四郎と、かなり関りが深い
「ナオサミダイがしんで、
次のミダイが、この中の、
誰かになるって------」
「ガハハッ 親父の考えてる事は
俺には分からんっ」
「ガチャッ」
勢いよく料理が乗った皿を手に持ちながら、
善波がそれを箸で口の中にかき入れる
「私は、てっきり、向こうにいる
ユウコウ------
それが、ゼンバ------ あなたが
次のミダイになると思ってた------」
「・・・さぁなっ!?
次の御代が誰になるかはっ
前の御代がどうするかで決まってくる!」
口の中に料理を詰め込んだまま、善波は
自分に話し掛けてきたルーシーを見る
「尚佐の爺さんにはっ
爺さんなりの考え方ってもんがあるんだろっ!?
俺はよく分からんがなっ!」
「ズズッ ズズズッ」
「オゥ....
スゴイ、タベカタネ------」
「ほれ、せっかく呼ばれたんだから
どんどん食えっ!?」
「・・・・」
スープが乗った皿を両手で抱え
口に運びながら喋っている善波を見て、
隣にいるルーシーに向かってジャンが
両手の平を広げ、肩を竦める
「(ジャンと、ルーも来たのか...)」
「------何だ、何か
言いたいことでもあるのか?」
「・・・・っ」
チラリと少し離れた場所に座っている
尤光 正之 明人を征四郎が見ていると、
座っていた明人と目が合う
「・・・・」
そのまま、明人は立ち上がり
征四郎たちが座っているテーブルへと歩いてくる
「------何?」
明人の様子に、ルーシーが不審な顔つきを浮かべる
「・・・・」
全員が自分を見ているのを感じているのか
テーブルの傍に立ったまま、明人は
座っている全員に口を開く....
「------いいか?
この際だから言っておくが....」
「・・・・」
「お前ら、海外の叶生野家の者は
所詮、叶生野の一族とは言っても
ただの部外者にしか過ぎない------」
「それは、違うんじゃない」
「・・・・」
自分の言葉を否定しているルーシーを
まるで気にせず、明人はそのまま言葉を続ける
「少しばかり、海外で
上手く行っているからと言って
この叶生野の家、そして叶生野の血は
お前らを認めている訳じゃない」
「明人、あなた王族にでもなったつもりなの?」
「------クククク....」
"ザッ"
「ナニ、かれは------?」
テーブルに座っている四人に
気味の悪い視線を向けると、明人は再び
自分達のテーブルへと引き返して行く-------
「彼は、ずい分考えが古い」
「--------、」
ジャンの言葉に反応する訳でも無く
無言で、征四郎は部屋の中にいる
叶生野家の一族を見ていた....