十二雫
「じゃあ、雅彦さんも、
"征佐"には心当たりは無いのか------?」
「ええ、少なくとも次の御代に
なられる様な方の話は
私もあまり聞いたことが....」
"カチャ"
「ああ、すいません」
「何も無い場所ですけど、
よかったら珈琲でも
如何?」
「------ええ。」
「じゃあ、他には------」
「ああ、それだったら、田島だったら------」
来宮の夫人が差しが出して来た
珈琲のカップを受け取ると、征四郎は
善波と雅彦のやり取りを見ながら
部屋の中を見渡す--------
「(--------、)」
簡素な、黒基調の広いとは言えない
欧風の館を思わせるような部屋の中には
赤い絨毯が敷かれ、
窓際には、何か観葉植物の様な物が置かれている
「------お砂糖は良かった?」
「------ええ」
「・・・・」
"カチャ"
"カシャッ カシャッ カシャッ カシャッ.....
すでに空になったテーブルの上に置かれた
珈琲のカップを平たいプレートの上に乗せると、
雅彦夫人はそのまま部屋の中から出て行く--------
「じゃあ、その田島に聞けば
何か、征佐の事が分かるかも
知れないって事か?」
「い、いえ、そうとは------」
「田島?」
カップから目を反らし、征四郎が二人を見る
「ええ------。」
善波から、征四郎の方を雅彦が見る
「先程から、何人か叶生野の家の方がここに
いらっしゃってはいましたが、
私が申しあげたのは
何か、先代の事に詳しいのは
田島では無いかと-------。」
「・・・という事は、他の叶生野一族の人間も
この館に来た?」
「ええ------」
「誰が来たんだ?」
間を置かず、善波が雅彦に尋ねる
「いえ、皆さん、お急ぎの様で
すぐにこの家から別の場所へと
向かわれましたが-------
ここに来たのは、
尤光さま、正之さま、そして
雅様がお越しになられましたが-------」
「・・・あいつらは、何と言ってたんだ?」
「あまり、詳しくは申し上げられませんが、
何人かの名前を申し上げると、
すぐにそのまま、皆さんそちらの方に
向かわれたようですが.....」
「------そう言えば」
「------?」
何か思い出した様に、征四郎が
珈琲のカップから口を外す
「さっき、入口の前に、いた男------」
「ああ、アイツか------」
「------?」
善波と征四郎のやり取りに、雅彦は
無表情で二人を見る
「そう言えば、さっきこの家に誰か来てたろ?」
「------?」
言葉の意味が分からないのか、雅彦が
自分の左頬辺りを親指でかく
「いや、何か、サングラスをして
帽子を被った-------」
「・・・・・」
征四郎の言葉にも、雅彦はまるで心当たりが
ない様にきょとんとした表情を浮かべる
「さっき、ここに、一人男が来たよな?」
「男・・・」
「知らない....?」
「いえ、先程、二時間前程に叶生野の家の方々が
来られた後より、この家に来客は
来ておりませんが....」
「-----何を言ってるんだ。 さっき俺たちは
この家の前で、男-------
....なあ? 征四郎くん」
「・・・ええ。 サングラスに、マスクをした
少し、体の大きい男が 確かに一人-------」
「------?」
「来てないのか?」
「ええ。 その様なお客は
この家には来てないかと存じ上げますが....」
「・・・?」