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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

今日、姉が首を吊った

作者: チリ—ンウッド


――今日、お姉ちゃんが首を吊った。




 近所で見つけた、不思議な廃墟。

 あれはいつからあるのか。

 お母さんに聞いても「わからない」の一点張り。

 私とお姉ちゃんは、興味本位で探検することにした。


「肝試しみたいだね」

 

 そう笑う私に、お姉ちゃんは「そうだね」と笑った。

 広い廃墟を何時間も歩いて疲れた私を、お姉ちゃんがおぶってくれた。


「大丈夫だよ、歩けるよ」


 そう言う私に、「いいの」と降ろしてくれないお姉ちゃん。

 でも、ずっとこうしてるわけにもいかない。

 お姉ちゃんの息が荒れてきたのを見計らって、私はちょっと強引に降りた。


「休憩しようよ」


 探検の為に持ってきたジュースとお菓子。

 いっぱい動いたからか、いつもより多く食べる。

 そのせいで少しお腹が痛くなってきて、私はトイレに行った。


「ついて行こうか?」


「ううん、大丈夫」


 私は廃墟の中でトイレを見つけ、少し不気味に思いながら中に入った。

 カビ臭くて、たくさん虫がいる。

 でも、漏らすのはもっといやだったから、無理にでも用を足した。

 出るときに、鏡に映ったわたし。

 何だか歪んでるような、笑ってるような。

 気味が悪い。

 少しめまいをおぼえて、小走りでトイレを出た。


「お待たせ」


 そう言って戻った先に、誰も居なかった。

 一人ぼっちの不安感が胸を締め付ける。


「どこ? どこにいるの!?」


 意識する前に足が動き出す。

 誰もいない、聞こえない、寂しい、辛い、痛い。

 ごちゃごちゃと混ざり合う感情。

 靄のかかったような景色を照らすように、ポツンと立つ人影。


「あぁ、ごめん、様子を見に行ったんだけど。

入れ違いになっちゃったね」


 そう笑う姉の笑顔がとても眩しくて、救われた気分になった。


「もう一人にしないでね」


「うん、約束」


 ぎゅっと握り返してくれる手のぬくもり。

 わたしの心を包んでくれるような、優しい感触。


「ねぇ、もう帰ろうか」


「そうだね」


 まだ日も高く、遊び足りなさもある。

 でも帰りたいならしょうがない。

 また明日来ればいいんだから。


「帰り道わかる?」


「わかるよ、あっちでしょ?」


 姉は迷う様子も無く、綺麗に来た道を戻る。

 楽しかった探検も終わり。

 名残惜しいボロボロのドアを開け外に出る。


「あー、楽しみ」








 わたしは楽しい。

 声を聴いてもらえる、楽しい。

 可愛い服が着れる、楽しい。

 私を見てくれる、楽しい。

 息苦しくない、楽しい。

 死んでない、楽しい。


「どうしたの?」


 母を殺したわたしに怯え、姉は血まみれの足を引きずる。


「誰っ、あんた誰よぉ!!」


 母はわたしを病院に連れてくと言った。

 またわたしを閉じ込める気だった。

 またわたしから自由を奪う気だった。

 だから殺した、それだけ。


「わたしは誰だろうね、名前忘れちゃった」


 姉の足をもう一度、包丁で刺した。

 これじゃあ一緒に廃墟に行けない。


「痛いね、苦しいね、死んじゃいたいね」


「お願いっ、やめて殺さないでぇ!!」


 首のリボンは優しく巻いてあげる。

 姉は天国に行けるかな?

 でも妹には会えないね。


「あの廃墟には、もういけないもんね」


 今も叫んでるだろう。

 誰もいない鏡の向こうで。

 ずっとずっと、一人だけ。

 わたしの代わりに、一人ぼっち。


「あー、楽しかった」




――今日、姉が首を吊った。


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