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散歩の感想を小説にしてみた

作者: 冬木アルマ

 休日は必ず一時間、散歩するようにしている。始めたきっかけが「中性脂肪の増加」という、何ともみっともない話であるが、景色を見ることは嫌いではないため、無事一ヶ月続けることができた。


 この日は生憎の雨――――しかし、だからといって散歩を休む理由にはならない。私は、雨の日だからこそ何か新しいものが見れると期待して、ウキウキ気分で家を出た。


 ☆    ☆    ☆    ☆    ☆


 私の散歩コースは、裏山を通り、そこを登った先に広がる農園地帯を抜けてから再び坂を下る。そして、山沿いの住宅街を抜けた後のコンビニでコーヒーを買ってから、来た道を通って家に帰るというものだ。他にも色んな道を歩いたが、このコースが最も飽きが少なく、見所も多いため、ここ二週間ずっと楽しく歩いている。


 裏山の入口である坂道を登り切ると、空に天高く突き出ている大樹達が私を出迎えてくれた。子どもの頃から全く変わらない場所を歩いていると、おとぎ話に出てくるような、タイムスリップをしたような気分になるのだから面白い。


 ふと、雨で黒く湿っている木々の中で、一際白く光る一本の大樹を見つけた。気になって、よ~く目をこらして見てみると、周囲の木々より、その大樹の素肌は若々しかった。晴れているときは全く気が付かなかった。雨水にさらされたことで、よりその木の瑞々しさが際立ったのだ。


 奇妙なことに、私はその大樹に対して、背伸びをして頑張っている小さな子どもを見て微笑ましく思う保護者の気持ちになってしまった。実際、いくら若い――――そもそも、本当に若いかどうかもわからない――――といっても、その木は私よりも数百倍長くこの地にて生きているはずだ。つまり、私の方が背伸びしている赤子なのである。


 にもかかわらず、かの立派な大先輩をどうしても子ども扱いしてしまうのは、やはり人間の傲慢が為せる性なのか、それとも私自身の業なのか。いくら考えても、私のような小人から、答えが出ることはなかった。


 結局、最後まで私から見たその木は、背伸びしている赤ん坊だった。それは、帰り道の時も変わらず仕舞であった。


 ☆    ☆    ☆    ☆    ☆


 林を抜けると、見慣れた牧場が姿を現した。この牧場の庭には、年老いたポニーが一人寂しそうに突っ立っているのだが――――さすがに今日はいなかった。


 良かった、どうやらここの牧場の主は、あのポニーを見捨てていた訳ではなかったようだ。なるほど、いい人だ。


 私は、会ったことも話したこともない牧場の主を、勝手にそう思い込むことにした。


 そう、勝手に――――


 ☆    ☆    ☆    ☆    ☆


 牧場を過ぎると、すぐに小山を下りることになる。坂道を上り下りし、森のトンネルを抜け、草っ原が広がる。私は特に元気ではないが、面白おかしい気持ちにはなれた。


 ひび割れたアスファルトの坂道を、ゆっくり下る。両側にある竹林が、今にも私に襲いかかるかのように前屈みになっていた。よそ者の私にとって、ここからの場所はどこか不安に襲われる。


 そんな気持ちを秘めながら住宅街の入口に到着すると、私の目に信じられないものが映り込んできた。


 狸だ。それも、野生の狸。噂でここら辺に狸がいるとは聞いていたが、都市伝説だと思っていた。だって、二十年近くこの町に住んでいて、狸はおろか野生の動物など目にしたことがなかったから。


 狸は、こちらに気付いていないのか、無防備な姿で用を足していた。しかし、それも一瞬のこと。こちらに気が付くと、目にも止まらぬ速さで逃げ去ってしまった。そのあまりにも力強い逃げっぷりに、私はただ呆気にとられるしかなかった。


 開発が進み、余ったわずかな土地の中で生きているというのか。四方が人工世界に囲まれたディストピアで、あの狸は懸命に生きているというのか。

 素晴らしい、ただ平伏せざるをえない。少なくとも、私のように安全地帯にて守られて生きているような弱者が、敵うはずなどないのだから――――


 ☆    ☆    ☆    ☆    ☆


 帰り道でも、かの狸が頭から離れなかった。あの純粋で、もの悲しそうな瞳が、脳の裏側にしっかりとくっついてしまった。帰ってきた今でも、目を瞑ったらすぐに思い出せる。それほどまでに、私の心はあの狸に傾いていた。そして、うらやましかった。厳しい世界の中、あんなに自由に走っている強さを持っていることが。


 どうしようもなく、うらやましかった。


 この日の散歩は、嬉しいものではあったが、私の心は重たかった。


 

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