信頼は親愛から
一人でなにかをしているサテラを見掛ける。不思議と俺は話しかけていた。何故かは分からないが機械を見るサテラはどこか苦しそうだった。
「なにしてんだ、サテラ?」
「整備の練習、私下手くそだから。」
「そんなことないよ、サテラの整備は凄いってアルバさんも褒めてたよ。」
「本当に?私、戦うことはできないけど、整備の仕事を一生懸命頑張るから、ライガがみんなを護ってね!」
「おお!お熱いねーヒューヒュー。」
ササキとガーネットとは二人揃っての出勤だ。
「こら茶化さない!二人でゆっくりね!」
「カプ推し?」
「ホント、うっさい!!」
この掛け合いも仲の良さがよく分かる。
「アキラ!それはわしのメロンフロートだぞ!」
「ああ、これか。ごめんな。」
この二人はよくケンカをしているがだいたいアルバさんが一方的に吹っ掛けている。
「ごめんで、わしのメロンフロートは帰って来て来るんか?普通誰のか確かめてこら飲むじゃろ!無知は何より恐ろしいんじゃ!覚えておけ!」
そういって、アキラの頭を殴っていたが、殴ったアルバさんの方が痛そうだ。
「せっかく深い事言ってんのに暴力かよ。」
「なにをぉ!!貴様これで10回目だろうが!」
アルバさんには悪いが、この流れがまるでコントのようで笑ってしまっている。
俺はこの隊が好きだ。
でも、もういない。
「アギャギャギャギャ、いつまで寝てんだ弱虫野郎。」
やめろ
「お前気づいてんだろ。お前が取り乱したりしなきゃ、あんなことにはならなかったってさ。アキラくんがかわいそうですね。アギャギャギャギャ」
やめてくれよ
「護ってよ」
サテラ?
「護ってくれるっていったじゃん!」
違う、ちがう、おれだって助けたかった。俺のせいじゃ、おれのせいじゃない!
「人殺し!人殺し!」
やめてくれよ!その顔で言わないでくれ。
「あなたのせいで死んだのよ!」
ちがう、サテラ。
「違うんだ!!」
目が覚めた俺は、作業着の男に起こされた。
「やっと目覚ましたか、ライガ」
アルバさんがいた。俺は自分の見知った人が生きているという事実で泣いていた。
「なに泣いてんだ。腹でも痛いのか?それに泣くなら今じゃないちょっとこっち来い。」
そういわれてつれてかれた先には、3つのベッドがあった。そう、確かにそこに。
「ガーネット隊に死者は出ておらん。」
その言葉で救われた、その目で見て確かめた。俺の現実はまだ生きていた。
「良かったぁ、本当に良かった。」
だが、アルバさんは隠さなかった。
「ただ一人の行方不明者を除いてな。」
サテラだ。サテラは俺のせいで?違う!マージとか言うやつのせいだ。おれは、おれは、
「お前、まさか助けに行かないなんてのはねえよな。」
「でも、おれ一人が行ったってなにも」
弱々しい声の俺をアルバさんは今まで見たこともない鬼のような顔で睨んでいた。
「ふざけるんじゃないぞ!お前が助けないで、誰がサテラちゃんを助けるんだ!」
「でも、サテラは敵だった。騙されてたんだよ俺たち。」
「ちっ、嘘が下手くそなやつだな。涙のひとつでも止めてみろ。」
「工場に来い。とっておきがある。」
軍営工場、ガーネット隊の本部はこの隣だ。何でわざわざここに。
「早く来いライガ。」
そう急かされて入ると中にはとんでもないものがあった。
「ライガード、もう直したのか。いや、おれのじゃない似てるけど見たことない造りだ。いったい誰が?」
「サテラだよ。整備の練習とか言ってまるまる一機作っちまった。」
圧巻だった。いくら整備が上手いからって俺が人生のほぼすべてを掛けて作ったものを1ヶ月ほどで複製したんだ。驚かない方が無理だ。
「いいか、ライガこいつは人殺しのために何か作られちゃいない。サテラちゃんはこれで守ってほしいと言っていたぞ。」
「サテラが?」
「そうだ。俺が騙されていたのかは知らないがこのライガードの改良は確かに。そう、確かにお前のためのものだ。」
「アルバさん。」
「三人は任せとけ。お前はお前のために生きろ。」
ライガはアルバたちガーネット隊を軍に残し単独でサテラを救おうとしていたそれが正しいかは本人にも分からない。だが、ライガの中。幼く脆い正義はサテラを救おうとしていた。
「感心しないな。また、サボるのか。」
その声はホロルの物であった。普段の印象とは違う。険しい顔をしていた、
「サボり魔の貴様が入隊できたかと思えば、すぐこれか。大したことなかったな。」
「俺はサテラを!」
「戦争とは大抵理不尽なものだ。事情なんてお前なんかが考えても無駄なだけ。大人しくしてればいいのだよ。」
「それでも護るって約束したんだ。たとえサテラが何者でもこの機体は俺のために作ってくれたんだ。サテラにだってきっと訳があって。」
「どうしても、どうしてもというなら私を倒してから行け。サボり魔には説教をしてやらんとな。」
ホロルは強かった。それにライガは知っていた。一人でできる限界を。だが、ライガは信じることにした。サテラを。己を。
ホロルは負けた。勝てなかったのだ。
ライガはなにも言わず旅立った
自らの立場ゆえの発言とライガがサテラを思う気持ちにホロルはやりきれない思いを抱いていた。
「伝説の兵士がこの様か。」
「アハッアハッアハッアハッ。アルバさん、ライガは私を許してくれるでしょうか。先の戦いで私は教え子の半数を失いました。もう死んでほしくないのですよ未来ある若者に。」
二人の男はライガに謝罪した。声は届かないが、せめて。せめてこの思いはとライガの武運を祈るばかりであった。
空はライガに呼応するかのよう涙を流し、基地を雨で濡らした。この時ようやくマージの火が消える。
この時、ライガは孤独を感じることはなかった。二人の男と三人の仲間。そして機体に込められた思いに包まれていたからだ。
「アギャギャギャギャギャ来るといいなぁムーザ。」
「あの弱虫がよ!」